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アイザック1

アイザック視点で話は本編前から始まります。

楽しんで頂けたら幸いです。

私の名前はアイザック・ド・ラクーン。

ラクーン国の第二王子でありなんの因果か8歳の時より婚約者がいる。

相手はペレッタ公爵家の令嬢ケイティ・ペレッタで私より1歳上である。

元々は皇太子の婚約者としてペレッタ公爵家から打診があり一時期は王太子の婚約者候補筆頭になった。


ペレッタ公爵は貴族員の代表で、宰相であるラハン公爵と権力争いをしている。

あくまでも回りの見解なのだが…。

正直、私はかの御仁が得意ではない。

なので、そのご令嬢が兄の婚約者候補になったのは有り難かったし、ケイティ嬢も数度話をした感じで私とは相容れない人だと確信もしてもいた。

何となくだが、自分と同じ匂いがするのだ。

はっきり言って信用ならない。

その一言に尽きる。


なのにだ。


あの自由奔放な兄は、何をとち狂ったのか内政は全て私に任せて自分は外交に生きると言い出し、あまつさえ外交で赴いた隣国の姫と婚約してしまったのだ。

勿論「正式な婚約者は決まってないから大丈夫だ」なんて事を宣ったものだから、それを収集する為にどれだけ父である国王と私が苦労した事か。

多分一番の被害者は私かケイティ嬢だろう。


お互いに割りの合わない婚約をする羽目になったのだから。


ペレッタ公爵は王太子に嫁がせたかったのであって、決して王族に嫁がせたかった訳ではない。

それに私は確かに王子だが、王族の男子とは言え、王太子以外は結婚後慣例に倣い大公の位を頂くのが通例であり、それも一代限りである。


あくまでも私は兄のスペアにしかすぎないのだ。


余程の功績があれば別だろうが、そう言った事情もありペレッタ公爵からしたら孫の身分も怪しい権力の少ない王族に嫁がせるよりも、自家に有力な貴族との繋がりを持つ婚約の方が価値があると思っているはず。


しかし、一度王族に縁談を持ち込んだ手前破棄出来ずに泣く泣く第二王子の私との婚約になったのは可哀想を通り越して気の毒である。

まぁ、婚約者に対して私は何かを言うつもりもないが。

あくまでも婚姻は王族の義務だからと割り切ってもいる。

それに、面白味もない普通の令嬢だが見た目だけは良いからこの縁談事態に不平はなかった。


彼女の印象は品行方正で儚げな深層のお嬢様といった感じだった。

淡いブロンドの髪、細くしなやかな腕、長い睫毛の下から愁いに満ちた紺碧の瞳を覗かせて小さなピンク色の唇から紡がれる声は可憐だし、男性の庇護欲を掻き立てられそうな細い腰に思わず見入ってしまった事が思い出される。

彼女の様な女性を深層の令嬢と呼ぶのだろう。


しかし、そんな彼女の仕草や言動にあざとさを感じえるのも確かだ。

きっと私以外は気付かないのだろう。

私が彼女と同じだから分かったようなものだから…。


故に何度も言うが彼女は信用ならないと…。



*******



自己紹介はここまでで、まずは入学前のあの衝撃の日を話しておこう。


私の朝は3歳の頃から変わらず鍛錬から始まる。

朝食前にする鍛錬は慣れてみると案外良いもので、その後の朝食も美味しく頂けて一石二鳥である。

第二王子と言えど物心つく前から武術に剣術から始まり魔術に帝王学と多岐に渡った教育がなされている。

それこそ血反吐(ちへど)を吐く思いをしながら朝から晩までこなしていた。

持って生まれた身分に相応しい様にと今まで努力を怠った事はない。


そんな私のここ5年の剣の相手は魔法騎士第一分団長を勤めているライアン・ロイティだ。

名前からして分かるとは思うがジャックの兄にしてロイティ公爵家の継嗣(けいし)

将来を約束された様な彼には既に奥さんがいる。

一通りの型を行った後にいつもの手合わせをする。

ライアンとは5年位前から剣を打ち合っているが未だに勝てた試しがない。

今日も想像通りに形無しだった。


「殿下も最近剣の切れが良くなって来ていますね。私もうかうかしていられませんよ」

そう言うと豪快に笑うライアンは裏表なくジャックとはまた違う意味で頼もしい存在だ。

「そう言えば本日入学の合格が判るのでしたね。殿下は何も心配は無いかと思いますが、何分愚弟が心配でして」

はははっと乾いた笑いが出てしまうライアン。

「ジャックの事なら大丈夫だよ。あいつなら上位入学するだろうから」

ジャックは剣はそこそこだが頭が良い。

「将来の私の事務官決定だから安心して良いよ」

満面の笑顔で応えるとライアンは苦笑する。

「殿下の従兄弟だからと、そんな身贔屓では本当に優秀な人材を見逃しかねませんよ」

あれは人間が馬鹿だからな~と良く分からないことを呟く。

そんなライアンに少しムッとしてしまい思わず反論してしまったのはご愛嬌。

「私はきちんと本質を見極めているが?」

少々子供っぽい事を言っているのは分かるがそこは従兄弟兼幼馴染と思ってくれ。

「それが『つもりだった』と言うこともございます。決して上部だけで判断されませんよう」

ライアンはこれから入学する私への手向けとばかりに助言する。

「分かったよ。決して上部だけでは判断しないと誓おう」

ニッと笑った所で剣を鞘にしまうとお互いに略式の礼をとる。

「ライアン。今日もありがとう。ではまた明日も頼む」

「はい」

それだけ言うとアイザックは自室へと向かった。



風呂で一汗流すと軽装に着替えて食堂へと足を向けた。

軽装と言っても略装で食後直ぐに公務をする予定だ。


今日は王と王妃は視察の為に居ず、兄である王太子と私そして弟の3人で朝食をとっていた。

「今日は兄弟水入らずだから遠慮なく話をしようではないか」

第一王子で王太子である兄のアルフレッドはそう言うと美味しそうに半熟オムレツを頬張りながらカラカラと言った。

相変わらずだな…。

と思うも顔には出さず水を向ける。

「そう言えばエレナ様は如何されておりますか?」

差し障りなく話の口火を切るアイザックに、相変わらず楽しそうな兄は

「大分我が国にも慣れた様でな。そうだ、この前はお前の婚約者のケイティ嬢が遊びに来てくれていたぞ。見知らぬ土地で知人もいないエレナの慰めになればと何と健気な事か」

アルフレッドは感慨深気に「良き婚約者だな」などと付け足して来る。

そんなに思うなら自分が(めと)れば良かったのにと思うも顔には一切出さない。

「そうですか。話し相手になれたのであれば何よりです」

大体そんな話聞いてないから…。

王太子の婚約者の話し相手?そんなのあざといだろう。

どこか胡乱(うろん)げな態度になってしまうアイザックに気付く事もなくアルフレッドは惚気(のろけ)る。

「やはり王女とはいえ他国からの輿入れになる。私達の愛があるとは言え不安なのだろう。ケイティ嬢はそれを分かってか月に数回遊びに来てくれるのだ。なんて献身的なのだろうな。自国の公爵令嬢の事をこんなにも知らなかったとは少々情けないものだな」

…。

呆気に囚われているとその話は更に続いた。

「もう直ぐ私達の結婚式を執り行う日が来る。色々な国からの賓客も増えるだろう。アイザックも早く婚姻を結んでくれたらエレナも姉妹が出来たと心休まるだろう。学校を卒業までとは言わず直ぐにでも婚姻してしまわないか?」

「兄上。冗談もその位に」

やんわりとそう述べた時に侍従が一枚の封筒を持って食堂へ入室して来た。

何事かと思っていると兄がニコやかに私へのその封筒を寄越す。

「今日は入試の結果が出るのだろう。食事中でも結果が届けば持って来る様に指示していたのだ。結果は分かっているが、やはりこういう物は早く知りたい物だろう?」

そう言うと兄はアイザックを促す。

侍従より手紙とペーパーナイフを受け取るとその場で開封した。

兄の満面の笑顔の前でアイザックは顔が青くなるのを感じていた。

「何かあったのか?」

不信に思ったアルフレッドがアイザックに問うと

「私は次席でした」

まさかの次席。

その後アイザックはどうやって食堂を退出したのか、そして、どうやって学校まで行ったのかは覚えていない。


王子の自分が次席?

これ程努力して来て尚も上がいると?

アイザックはやり場のない感情のままドアに手を掛けた。



読んで頂きありがとうございます。

また読んで頂けたら幸いです。

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