10.やっと鍛冶するお話
テストという名の地獄から開放され長い夏休みという名の夏季長期休業課題大量最終日徹夜祭が今始まる。
次の日、俺達は始まりの街の広場に集まっていた。
「じゃあ今日は4人でパーティーを組んで森まで行ってみようか」
「いいですね!草原のモンスターは楽勝だから、森にはもう少し強いモンスターがいるといいな〜」
「あー…そのことなんだけど、俺今日は一緒に行けないわ」
「えー!なんで!お兄ちゃんも行こうよ!」
「これ見てもらえばわかると思うんだけど、武器が壊れちゃってな」
俺はインベントリから昨日の戦闘で折れた剣を出して3人に見せる。
「マオ…なんで剣折れてるの…。昨日僕達と別れたあとに何があったんだよ」
「実はさ…」
俺は昨日あったことを3人に話す。
ーーー
「きゃー!アクアちゃん可愛い!」
「ぷるぷるしてて少しひんやりしてて気持ちいいです…」
妹たちはアクアが気に入ったらしい。確かにアクアの感触は気持ちよく、俺も非常に気に入っている。
「はぁ…それにしてもホントに色々あったんだね。あ、1つ注意しておくけど絶対にウルフリーダーを倒した技については他の人に言っちゃダメだよ」
「ん?どうしてだ?」
「もーお兄ちゃんったら!まだ掲示板にもあがってない情報みたいだし、そういうレアな情報持ってるって知られたら、無理やり情報を聞き出そうとするような人だっているんだよ!」
「なるほど…2人とも教えてくれてありがとな」
FWOではPK、俗に言うプレイヤーキル行為は制限がかかっていない。街中でPKをすると衛兵に捕まってゲーム内時間で24時間の監禁になるが、街の外では自分の身は自分で守らなければいけない。
「それで、マオは新しい武器はどうするつもりなの?」
「あぁ、俺は折角 【鍛冶】持ってるから自分で作ってみようかと思ってな。そういうわけで今日は一緒に行けそうにない。悪いな3人とも」
「うーん…マオが来れないなら今日は各自自由行動にしようか。2人ともそれでいい?」
「私は大丈夫です!ムツキちゃんと2人で出掛けてきます」
「私もエリちゃんといるので…大丈夫です」
「じゃあ、明日マオの武器が出来たらまた4人でパーティーを組もうか。マオはしっかり良い武器作ってきなよ?」
「みんなありがとな。そのうち余裕が出来たらリュウとムツキちゃんの武器も作ってやるよ!」
「それは楽しみだね。じゃあ今日はここで解散としようか」
ーーー
みんなと別れたあと、俺は街で昨日のモンスターのドロップアイテムをある程度売り払い、そのお金で鍛冶に必要な金属を買い集めた。店の人に聞くと街の共同生産工房でお金を払うことで設備を借りることが出来るらしい。自分の店などを持てばそこに生産に必要な設備を設置できるようだが、非常に高額なのでまだまだ先の話だ。
「お、工房っていうのはあれかな?」
中に入ると受付の人が声をかけてきたので、俺はお金を払い2時間設備を借りることにした。
「おー!テレビで見るみたいな道具が揃ってるな!」
俺は鍛冶には詳しくないのでよくわからないのだが、近くにいるだけで熱を感じる炉や、剣を打つための槌などが置いてある。
「よし、とりあえず試しに1番安かった銅で一本作ってみるか!」
俺は銅のインゴットを炉に入れる。少し待つと銅が真っ赤になったのでスキルの指示に従って槌で打って形を作っていく。
「これは、結構難しいな…よし、こんなもんかな!」
俺は最後に真っ赤な銅を水に勢いよくつけて焼入れを行う。
「おー!完成したぞ!どんな感じになったかな」
カッパーソード+1[呪具]【100/100】
str+54
使用者に常に【毒Lv1】の状態異常を与える。
「え…」
なんか初めて作った剣は呪われてた。
「いやいや!おかしいだろこれ!銅以外に何も入れてないぞ!?」
こうなった原因が1つも思い当たらない。掲示板で調べてみようか…
ーーー
【FWO】 デーモンは生産職殺しにかかってる件について
1:名無しの調薬師
初期種族デーモンにして始めたんだけど生産がやばい
2:名無しの木工師
>1
お前もか
3:名無しの調理師
>1.2
kwsk
4:名無しの調薬師
>3
スキルの指示通りにポーション作ったら見るからにヤバそうな色したヘドロみたいなものが出来た。ちなみにこれ。
【毒薬】
使用すると【毒Lv1】を与える。
驚きだろ?これ街の近くで取れた薬草しか使ってないんだぜ?
5:名無しの木工師
>4
おぅふ…
ちなみに俺はこれ。
樫の杖+1 [呪具]【100/100】
str+14 int+29
使用者に常に【出血Lv1】の状態異常を与える。
6:名無しの調理師
>4.5
酷いな…って思ったけど俺も【調理】試したら食材火にかけた瞬間にこれが出来たわ…
【黒焦げな兎肉】 満腹度-10
使用すると【毒Lv1】を与える。
7:名無しの裁縫師
みんな結構酷いみたいね…私は普通の可愛い人形作ろうと思ってたらいつの間にかこんなものが出来ていたわ…
【呪人形】
持ち主を呪う人形。夜寝るときに近くに置いておくと、朝起きた時HPが1になる。捨てても戻ってくる。聖水をかけると消滅する。
8:名無しの調薬師
>7
こえーよ…!
ーーー
「…デーモンは生産職殺しにかかってるな」
どうやら俺の剣が呪われていたのは種族得性が原因のようだ。普通の生産職の掲示板も見てみたが、呪われたアイテムが出来るのはやはりデーモンだけみたいだ。ただデメリットが大き過ぎる気もするが、普通の カッパーソード+1 はstr+32だったので[呪具]のステータスはかなり高くなっている。ちなみにstr+54は普通の スチールソード+2 程度のステータスだから、デメリットを考えなければ非常に強力な武器と言えるだろう。かといって、FWOでは毒にかかると【毒Lv1】でも車酔い程度の気持ち悪さを感じたりするので、好んで使いたがるような酔狂なやつはいないだろう…
俺以外は…
「状態異常に耐えるだけで、強力なステータスを持つ武器が作れるだと…?残りの材料で最高の武器を作ってやるぜ!」
俺は量に余裕を持って買ってきた鉄をすべて使い切ることにした。鉄を熱して叩き不純物を取り除いた純度の高い鉄を作っていく。普通の鉄インゴット3個で高品質の鉄インゴットが1個できた。
「あと、なんか使えそうなアイテムは…お、これと…これも使ってみるか…」
ーーー
「よっしゃ!出来たぞ!」
スチールソード+5 [呪具]【105/105】
str+90
【移動速度上昇微小】
使用者に常に【毒Lv1】【鈍足Lv1】【憤怒Lv1】の状態異常を与える。
「おぅ…我ながらえげつないものができちまった…。【移動速度上昇微小】はウルフリーダーの牙を入れたからついたのか?耐久力が少しだけ上がってるのはスライムの核の効果かな」
ポーン
「ん?システムメッセージか。え、もう2時間も経つのか!早く出ないといけないな」
ーーー
「いやーそれにしてもなかなかいい武器が出来たな。ちょっと試し斬りしに行くか。この剣ならウルフリーダーも1発で倒せそうだぜ!」
俺は新しい武器をインベントリにしまうと、強い敵を求めて北の森へ向かった。
参考ばかりに…
【毒Lv1】…60秒の間、5秒に1%ずつHPが減り続ける。
(持続時間=レベル×60秒、割合=レベル×1%、5秒毎に減るのは固定)
【鈍足Lv1】…60秒の間、agi-2%
(持続時間=レベル×60秒、agi=レベル×(-2)%)
【憤怒Lv1】…60秒の間、str+5% vit-10%
(持続時間=レベル×60秒、str=レベル×5%、vit=(レベル+1)×(-5)%)
※ 【憤怒】の効果でstrは最大95%、vitは最大-100%までしか変わらない。(持続時間は伸びる)