↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
うつけと呼ばれた国人三男、弓と算術で室町を制す  作者: みぎみみ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
30/30

第30話 「道空の書状」

翌日の昼過ぎ、東の山道を監視していた源蔵の配下から報告が来た。



「赤松の荷駄が東の道を通ってきました。ただし荷持ちではなく、使者一名だけです。白旗を持っています」



三郎は城の門で使者を待った。



現れたのは若い兵だった。二十歳前後。緊張で顔が白かった。



「大内三郎様に、道空様よりの書状をお届けに参りました」



「渡せ」



受け取った。



書状の封は赤松家の家紋だった。ただし今回は、梶原の筆跡ではなかった。



太く、力強い文字だった。



広間で開いた。左近と雪乃が横にいた。



読んだ。



左近が待ちかねたように言った。



「内容は」



三郎は書状を机に置いた。



「『大内三郎よ。そなたと一度、正面から話をしたい。場所と日時はそなたが決めろ。儂は一人で行く。赤松道空』」



広間が静まった。



左近が口を開いた。



「……赤松が、一人で来ると」



「そう書いてある」



「これは罠では」



「罠に使うには、回りくどすぎる」



「しかし赤松が直接交渉に来るとは……戦が終わるということですか」



「まだ分からない」



雪乃が帳面に書きながら言った。



「三郎様は会いますか」



「会う」



「どこで」



「城の中だ。城外で会うと、護衛をつけないわけにいかない。城の中なら、一対一で話せる」



「赤松が城に来るのですか」



「来るかどうかは道空が決める。俺は城で待つと返事をする」



左近が心配そうな顔をした。



「三郎様、赤松は武の方です。万が一城内で」



「城内で暴れれば道空に得はない。交渉に来るなら話をしに来る」



「それは分かります。ただ」



「心配なら左近が外で待っていてくれ。部屋の外に立っていれば十分だ」



左近が深く頷いた。



「……承知いたしました」






◆






赤松の陣。



道空は書状を送った後、天幕の中で一人でいた。



梶原に「おかしい」と言われた。将が自ら敵城に出向くことはしない、と。



道空は聞かなかった。



理由を言葉で説明できなかった。



強いて言えば、あの夜城壁の上に見た目が引っかかっていた。



感情のない目。怒りも、恐怖も、高揚もない。ただ、見ていた。



道空は六十近くまで戦い続けてきた。多くの武将と渡り合った。その中で、あの目を持つ男はいなかった。



(あの目は、何を見ているのか)



梶原が入ってきた。



「道空様、大内から返書が参りました」



「読め」



「『道空殿の申し出、承った。場所は大内城の広間とする。日時はそちらに一任する。一人で来るならば、こちらも一人で待つ。大内三郎』」



道空は少し間を置いた。



「一人で待つ、か」



「……道空様、本当に行かれますか」



「行く」



「護衛なしで敵の城に入るのは」



「三郎も一人だと言っている」



「それを信じるのですか」



「信じる」



梶原が何か言おうとした。



「梶原。儂がこの男を信じるのは初めてだ」



「初めて、ですか」



「今まで、敵を信じたことはなかった。初めて、信じてみたいと思った」



梶原は黙った。



しばらくして、静かに言った。



「……いつ行かれますか」



「明後日。昼前に着く時刻に出る」



「御意」



梶原が出ていった。



道空は一人になった。



書状の返事をもう一度、頭の中で反芻した。



「一人で来るならば、こちらも一人で待つ」



脅しではない。確認だった。



(面白い男だ)



道空は、初めてそう思った。






◆






大内城の夜。



三郎は雪乃と二人で話していた。



「道空が来た場合、何を話しますか」



「向こうが話したいことを先に聞く」



「こちらから何も切り出さないのですか」



「向こうが何を持ってくるかで、こちらの条件も変わる。先に出すと、得をしない」



「では三郎様は、交渉の場でも待つのですか」



「待つのが一番強い」



雪乃が少し考えた。



「……赤松は、なぜ三郎様と直接会いたいのでしょうか。交渉なら使者を立てればいいのに」



「会いたいんだろう」



「それだけですか」



「それだけだ」



「三郎様は会いたくないのですか」



三郎はしばらく考えた。



「会いたい」



「なぜですか」



「道空という男が何を考えているか、直接聞きたい」



「それは……交渉とは別の話ですね」



「別かもしれない」



雪乃が帳面を閉じた。



「三郎様が、交渉以外のことで誰かに会いたいと仰るのは初めて聞きました」



「そうか」



「……初めてです」



雪乃はそれだけ言って、立ち上がった。



「明後日の準備をしておきます。広間の片付けと、茶の手配を」



「頼む」



「赤松がお好みの茶は分かりますか」



「知らない」



「では普通の茶を用意します」



「それでいい」



雪乃が障子を開けた。

外は静かだった。



「三郎様」



「なんだ」



「明後日、うまくいくといいですね」



三郎は小さく頷いただけで、言葉にはしなかった。



雪乃は障子を閉めた。



廊下の足音が遠ざかった。



三郎は机の上の書状を見た。



太い文字が、火の光の中で揺れていた。



赤松道空。



権藤から聞き出した話では、齢四十八だという。初めて会ったときは五十がらみに見えたが、実際はそれより若い。苦労が顔に出る質の男らしい。



儂は一人で行く、と書いた男。



三郎は書状を畳んだ。



明後日まで、あと二日あった。



第30話 了


励みになりますので、高評価ブックマークをよろしくお願いします。


毎日20:30に更新します。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。