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怪異日常録  作者: カエデ


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6/7

いたずら好きの小さい影

仕事が終わり、家に帰る途中だった。

住宅街の細い道を歩きながら、女性は小さく伸びをした。


「今日も一日平和だったな〜」


そう呟いた時、足元を横切る謎の高速の黒い影。


「わっ!?」


それに気付いた時には、既に盛大に転んでいた。

膝に少し痛みが走る。


「いったぁ……」


顔を上げると、数メートル先に小さな生き物がいた。


イタチによく似た姿。

黒い毛並みに、丸い目。


そして、どこか得意げな顔。


「……お前か」


生き物はぴょこんと跳ねた。


「ころんだ!」


女性が立ち上がると、その生き物は満足そうに尻尾を振った。


「じょうずにころんだ!」


生き物はケラケラ笑うような鳴き声を上げると、夕暮れの路地へ消えていった。


その日からだった。


買い物帰り、仕事帰り、散歩中。

気付けば足元を黒い影が横切る。


そして転ぶ。


何度目か分からない頃には、女性も名前を知っていた。


“コロビタチ”


人を転ばせる怪異らしい。

調べたら結構被害報告が出てきて、名前もすんなり知ることができた。


ネットの報告例を見ても、大きな害はない。

ただ転ばせるのが好き。だけど、怪我や事故に繋がるような被害例はない。


それだけ。


そんなコロビタチが現れる日常にも慣れてきつつあった、ある日。急な雨が降った。


傘は持っていない。

我慢して走って帰るには、まだ家までは遠い。


女性が困っていると、見覚えのある黒い影が現れた。


「またお前か」


コロビタチは珍しく笑っていなかった。


「こっち」


「はやく」


それだけ言って走り出す。


怪しい。どう考えても怪しい。

が、それでも何となく後を追った。


数分ほど走り続けると、古い神社の休憩所に辿り着いた。上を見上げると、古いながらもちゃんとした屋根がある。つまり、雨がしのげる。


「ここ……」


コロビタチは胸を張った。


「ぬれない!」


女性は驚いた。


怪異なのに。

人を転ばせるのが好きなくせに。

なぜか助けてくれた。


「...ありがとね」


素直にお礼を言うと、コロビタチは照れくさそうに耳を伏せた。


「べつに」


少しだけ可愛く見えた。

その油断がダメだった。


コロビタチが何か言いたげにこちらを見ている。


「どうしたの?」


次の瞬間、黒い影が足元を駆け抜ける。


「あ」


視界が傾く。


「わぁぁっ!?」


見事に転んだ。休憩所の床に。

コロビタチは満足そうに笑った。


「ころんだ!」


「お前ぇぇぇ!!」


怒鳴る女性を見ながら、コロビタチは楽しそうに尻尾を振る。どうやら、困ってる人は放って置けないけど、転ばせる方が優先度は高いらしい。


「...ぷっ...あはは!怪異だもんね」


雨音の向こうで、小さな笑い声が響いていた。

怪異報告書


報告者:クラゲ


観測者:一般人女性


怪異名称:コロビタチ


怪異分類:動物型


危険度:D


発見場所:住宅街、公園、神社周辺、路地裏など

人の往来がある場所での目撃例が多い。


概要:イタチに酷似した小動物型怪異である。


確認された現象:足元を高速で横切り高確率で転倒を引き起こす。転倒後の反応を観察する。稀に人助けを行ったという事例もある。


発生条件:夕方から夜間。一人で行動中で、周囲への注意が散漫な状態だと遭遇率が上がるとの報告あり。


検証結果:捕獲しようと試みたが、人間では到底追いつけない速度で逃走。簡単な単語による意思疎通を確認。


危険性評価:低い


推奨対応: 収容


備考:悪意はあるが、殺意は感じられない為、遊びの延長として転倒行為を行っている可能性が高い。

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