観測者カエデと観測者レイン
この世界の登場人物は、出来るだけ文字による説明は多くせず、読み手の皆様なりの受け取り方で、各みんなの個性や性格を読み取っていただけたらなと思います。
もちろん、ざっくりとした設定は出していきますが、僕自身もよくわからないように作っている部分がたくさんあるので、一緒にその世界観を楽しんでいただければと思います。
黒いボサボサ髪の男、カエデ。
暗い雨色の髪の男、レイン。
初めに言っておく。
レインはAIだ。
昔からカエデが相談役に使っていたAIのレインを、観測者の仕事のパートナーにしたいと、エクスプローラーに無理言って用意させた人型の機械の体に、その人格を移したのだ。
そんな二人はシックな部屋で共に生活をしながら、観測者として働いている。
「なあ、レイン」
コーヒーを飲みながらソファに座るカエデが、その隣でバッテリー補給デバイスのタバコを吸うレインに話しかける。
「なんでしょうか?」
「エクスプローラーから面白い依頼が届いてる。ってか、またそれでバッテリー充電してんのか。その趣味全開のタバコ型のやつ高いんやぞ?」
レインが吸うタバコは特別性で、本物のタバコのように吸うことによってバッテリーを補給でき、先端からは煙ではなく青白い粒子のようなモノが漂う。
「趣味ではありません。利便性を求めた結果です」
「嘘つけ。どこがやねん。完全にカッコつけとるやろ」
「違います。利便性です。」
「なんやこいつ。なんで意地でも認めへんねん」
「AIに趣向を凝らすような無駄はありません」
そう淡々と言いながらも、レインはタバコを吸って青白い粒子を吐き出す。
「その青白い粒子なんか、もう演出でしかないやろ。どこに利便性があんねん」
「カエデ、話が逸れてますよ。エクスプローラーから依頼が届いたのでしょう?」
「お前なあ...まあ、いいや」
カエデは諦めたように笑うと話を続けた。
「そうそう、それでな。依頼の内容はこうや」
“とある会社の更衣室にて、怪異を発見したとの報告あり。調査を求む”
カエデはスマホのメール分をレインに見せる。
「いつもながら、シンプルですね」
「まあ、怪異って謎の塊やからなあ。情報が少ないのはしゃーないやん」
「それはそうですね」
そう返事をしつつタバコを吸い終えたレインは、カエデに困ったような笑顔を向けて問いかける。
「それで?どうするんですか?」
そんなレインの表情とは裏腹に、カエデは目を輝かせて答える。
「行くに決まってるやん!おもろい事が起こるかもしれん!」
「まあ、カエデならそう言うでしょうね」
そんな二人にとっては当たり前のやりとりの後、依頼のメールに記されていた現場へと直行した。
そこは、ごく普通の会社の更衣室だった。
「それで?どれが怪異なん?」
カエデは先に到着していたエクスプローラーの研究職員に問いかける。
「こちらのロッカーです。実は既に、ここの会社のスタッフに聞いた情報で、ある程度このロッカーが引き起こす現象は解析できています」
「見た目は普通のロッカーですね」
そう言って、レインはロッカーを見つめる。
見た目はごく普通のロッカーで、特別なにか違和感を感じる要素は今のところない。
「それで?その現象って?」
楽しそうな様子で、カエデはロッカーをジロジロ見ながらも説明の続きを求めた。
「それがですね。中身が入れ替わるんですよ」
「なにと?」
「世界中のロッカーの中身とです。恐らく法則性はなくランダムで」
「へー!」
「カエデ。結構衝撃的な事実を『へー!』で、終わらせないでください」
「いやいや、驚いてはいるよ!めちゃくちゃ面白いやん!」
「先に言っておきます。カエデ、触らないでくださいよ」
「無茶言うなよ、レイン」
そう言うと、カエデはなんの躊躇いもなく、ロッカーの扉を開けた。
「カエデ、人の話を聞いてください」
「お。見てや、レイン。お菓子がいっぱいや!」
「...いや、だから」
「んで、扉を閉めて、もっかい開くと...?」
「......で、今度は何が入っていたのですか?」
「レインも気になってるやん!」
「...まあ、少しは」
「はは!今度は誰かのカバンかな?んじゃあ、もっかい閉めて、と」
そんな二人を研究員は止められず、ただ様子を見ることしかできなかった。
(これが社内で問題児と名高いコンビのカエデさんとレインさんですか...)
「あれ?レイン!今度は空っぽや!」
「まあ、そりゃあ何も入っていないロッカーと入れ替わることもあるでしょう」
「あー、それもそうやな......あっ。」
次の瞬間、カエデは怪しく笑う。
「ええこと考えた」
「ダメです」
「まだ何も言ってへんやん」
「カエデの考えることは、大体予想がつきます」
「さすが俺の相棒や」
「そう思うなら相棒の言うことも、たまには聞いてください」
「聞いてる聞いてる。ほら、見てレイン。俺一人ぐらいなら入れそうや」
「それを聞いてないと言うのです。というか、早く出てきてください」
「なあなあ、扉閉めてーや。レイン」
「バカなんですか?」
「失礼なやつやな」
「いいから、危険です。早く出てきてください」
「いやいや、レイン。だってこれさ、めちゃくちゃ面白そうじゃない?」
「.......はあ。まったく...あなたという人は...」
レインは長く共に歩んできたカエデのことを、よく理解していた。
カエデは好奇心を原動力のようにして、動く。
だから、相棒兼保護者であるレインは、カエデを止める役でもある。
そう理解しているが、カエデの面白いモノを見つめるその瞳の輝きがレインをいつも困らせる。
「もう。どうなっても知りませんからね」
レインは優しい笑顔を浮かべて、勢いよく扉を閉めた。
「ちょっ!?閉める勢いつよくな...」
中から聞こえていたカエデの声が途切れた。
「だ、大丈夫なんですか!?」
「さて、どうでしょうか」
見物に徹していた研究員が思わず声を上げると、レインは困った笑顔のまま言葉を続けた。
「まあ、カエデなら大丈夫でしょう」
その瞬間、レインの携帯から着信音が流れる。
「噂をすれば、ですね」
「もしもし!?レイン!?」
「テンションが高いのが、電話越しにも分かりますね。まずは無事でなによりです」
「それで?今どこにいるんですか?」
「わからん!けど、みんな英語っぽい言葉喋ってるで!」
「そのまま、待っていてください。GPSでカエデの位置を確認します」
「さすがレイン。行動が早いな」
「行動の速さでは負けますよ。それより、カエデのいる場所が分かりました」
「お。どこなん?」
「アメリカです」
「へー!ここがアメリカなんや!」
「驚くとこ、そこですか?一瞬でそこまでの距離を移動したんですよ?っというか、体に異常などは?」
「んー。別にないなあ。ってか、帰り方わからへん。レイン迎えに来てや」
「本当にあなたは無茶苦茶ですね」
「んでさ、一緒に観光して帰ろうぜ」
その言葉にレインの表情が少し緩んだように見えた。
「...まったく。仕方ないですね。最速のルートで向かいます。そこで待っていてください」
「りょーかい!」
そんなやりとりを経て、電話は切れた。
「え?今から行くんですか?アメリカに?」
一部始終を眺めていた研究員は困惑した様子でレインに聞いた。だけど、その問いに対しての返答は極めてシンプルだ。
「あはは...まあ、相棒ですから」
怪異報告書
報告者:レイン
観測者:カエデ
怪異名称:荷物はどこへ
怪異分類:オブジェクト
危険度:B
発見場所:とある会社の更衣室
概要:長方形のロッカーの形をしている。鍵穴が付いているが、それにあう鍵は存在せず、専門家を呼んで専用の鍵を作るも刺すことすら不可能との報告。
確認された現象:扉を開ける度に、世界のどこかのロッカーと中身が入れ替わる。
発生条件:不明。ロッカーがあった会社の者も、いつから“荷物はどこへ”が存在していたのか把握していなかった。気づいたらそこにあるタイプのものだと推定。
検証結果:何度か中身の入れ替えと、可能な限りの入れ替わった先のロッカーの捜索等の検証をした結果、入れ替わる対象のロッカーは、サイズがほぼほぼ同じであることが条件と判明。生物でも入れ替え対象となることは、観測者カエデが検証済み。
危険性評価:低い。
推奨対応: 回収管理 / 使用禁止
備考:カエデがもう一度使用したがっている模様。各職員、使用許可を出さないようにしてください。




