第十六話 後に続く希望(3/7)
「ストライク!バッターアウト!!」
「あーあ、まーた三振だよ……」
「去年までは割と順調だったのになぁ……」
「エラーの分くらいは取り返せよなぁ」
プロ入りして最初の2年はほとんど二軍だったけど、それでもリーグトップを争うくらいにホームランを打った。他の成績も、高卒間もないくらいなら客観的に見ても十分すぎるくらいだったと思う。おかげで3年目からは一軍の試合に何度か呼ばれるようになった。
だけど、一軍のレベルは二軍とはまるで違う。二軍でも打率はあんまり高くなかったけど、一軍だと根本的に全然当てることができない。そのことへの焦りと打球速度の違いから、得意の内野守備も不安定になってしまった。
「脚と肩は十分だし、とりあえず打席に集中できるように外野をやらせるか……若いうちから価値を落としたくないんだがなぁ」
「天野くん、我々は君に期待してるんだよ。そもそも今の若い選手は……私達が現役の頃は……」
「天野、お前のパワーならコンパクトなスイングでも十分スタンドまで届く」
図体ばかり大きくて気は小さいぼくにとって、監督やコーチ、OB・OGの言葉は重かった。それでも、ちゃんとぼくを思って色々言ってくれたんだとは思うけど、残念ながら全部裏目に出た。マイナスな部分を1つ改善しようとすれば、プラスに転じるどころか据え置きで別のマイナスが増えたり、そんなのがコツコツと溜まっていって、一軍で活躍するどころか、二軍の成績まで大きく落としてしまった。
「金属バット専門の扇風機が!」
「五宝の背番号穢してんじゃねぇぞ!」
「スイング小さくしてもロクに打てないとか……」
「ジェネラルズの看板に泥を塗りやがって!入団してから今まで何やってたんだテメェ!!」
「テレビ関係の球団にいるだけでイケメンアイドルとお近づきになれるんだから良いご身分よね……あんなメスゴリラが……」
「キャラ作って芸能人に媚売ってんじゃねーよブスが」
流石にここまで酷いことを言う人なんてごく一部。だけど、あれだけ期待されてたのをあまりにも裏切りすぎてしまったから、そんな声こそが真実に思えて、ちゃんと応援してくれてる大勢の声よりもよく聞こえてしまう。
3年目に成績が落ちたけど、4年目はチーム事情で消去法みたいになって開幕から一軍だった。本来なら喜ぶべきなんだろうけど、成績が相変わらずじゃしょうがない。しかも転向先の外野はより多くのファンが近くにいて、しかもより高いところから見下ろされるような構図になってるから、ますます責められてるような実感がした。そのプレッシャーのおかげか、当初は外野の守備は及第点以上にこなせてたけど。
だけど、内野ほどの数じゃないにしても外野でもミスはする。たとえプロの名手であっても。当然、ぼくもどれだけ堅実を貫いていても……
「おいおい!どこ投げてんだよ!?」
「打てねぇんだったらせめてちゃんと守れよ!」
とある試合の中盤あたりで、ぼくは送球ミスをして味方の失点を招いてしまった。といっても流石に怠慢が招いたものではないし、幸い元々点差があったから懲罰交代はされなかった。プロであっても誰しもがやるミスで、これも若手がやるべき経験だと、そう認識してくれた。その優しさがむしろ裏目に出てしまった。
「ライト!」
打球は大きく、長打性の当たり。せめて二塁打に留めるためにも打球を追おうとしたけど……
『おいおい!どこ投げてんだよ!?』
『打てねぇんだったらせめてちゃんと守れよ!』
「……え?」
さっきの送球ミスの時の野次が、そっくりそのまま頭の中でリピートされて、気が付くとぼくは定位置から一歩も動いてなかった。
「おいどうした天野!早くバックサード!」
慌てて何とか打球を拾って、カットマンに送球しようとしたその瞬間にも……
『金属バット専門の扇風機が!』
『五宝の背番号穢してんじゃねぇぞ!』
『スイング小さくしてもロクに打てないとか……』
『ジェネラルズの看板に泥を塗りやがって!入団してから今まで何やってたんだテメェ!!』
『テレビ関係の球団にいるだけでイケメンアイドルとお近づきになれるんだから良いご身分よね……あんなメスゴリラが……』
『キャラ作って芸能人に媚売ってんじゃねーよブスが』
同じように罵声の脳内再生。ボールをリリースするという当たり前の動作も遅れて、送球は地面に叩きつけられて大きくバウンド。当然、カットマンにすら届かなかった。
「おいおい、クソみたいな守備しといて不貞腐れてるよ……」
「全く、何様だよアイツ……」
どうもこのプレーも投手が頭に血が上ってグローブを叩きつけたようなものだと認識されたみたいで、こんな声さえも頭の中のプレイリストに追加された。次の日に二軍に落とされて、その日の外野の守備練習でまた再生されたからね。