第十六話 後に続く希望(2/7)
9回裏 紅5-4白 1アウトランナーなし
○白組
[先発]
1二 徳田火織[右左]
2中 有川理世[右左]
3右 松村桐生[左左]
4一 天野千尋[右右]
5三 リリィ・オクスプリング[右両]
6捕 冬島幸貴[右右]
7指 伊達郁雄[右右]
8左 秋崎佳子[右右]
9遊 月出里逢[右右]
投 雨田司記[右右](残り投球回:1/3)
[控え]
夏樹神楽[左左]](残り投球回:1回2/3)
氷室篤斗[右右](残り投球回:0)
山口恵人[左左]](残り投球回:0)
●紅組
[先発]
1中 赤猫閑[右左]
2遊 相沢涼[右右]
3右 森本勝治[右左]
4左 金剛丁一[左左]
5一 グレッグ[右右]
6指 イースター[右左]
7二 ■■■■[右右]
8三 ■■■■[右右]
9捕 土生和真[右右]
投 カリウス[右右]
[降板]
三波水面[右右]
早乙女千代里[左左]
桜井鞠[右右]
相模畔[右左]
牛山克幸[右右]
花城綾香[左左]
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******視点:天野千尋******
「天野さん!お願いします!」
「打て打てチッヒ!ホームランホームランチッヒ!」
「なんやかんや言われとるけどワイはチッヒ信じとるで!」
うんうん、やっぱりこういう声が聞こえるのは嬉しいよね。
「あー、ここで万年扇風機かぁ……」
「コイツが4番張ってる時点で打線の質なんてお察しやんなぁ……」
「ファースト専でこの程度じゃ話にならんで」
もちろん、今の立場的にこういう声の方が大きいんだけどね。だけど、今は少しだけ平気になった。
「ボール!」
「ファール!」
「うーん、シンカーにタイミング合っとらんなぁ」
「ストライーク!」
「ほら見ぃ、また空振っとるで」
「大きいのは別にいらんねんでー!」
「2点必要なんやからまずは出塁出塁!」
「コンパクトにいこうや!」
……残念だけど、
「ファール!」
「おお!当てたぞ!」
「でもまだ大振りやなぁ……」
「空気読まんとアカンやろここは……」
「牛山の時みたいに上手くいくとは限らんやろ……」
司記くんのためにも、小さくまとまる類の選択肢は聞き入れられないね。絶対にうまくいく保証なんてないのはどっちも同じなんだから。だったらもし上手くいかなかった時に、自分が納得できる方を選ぶべきだよね?
「……天野さん!お願いします!!打ってくださいッ!!!」
「雨田……」
そうそう。一番欲しかったのはそれだよ。ベンチから身を乗り出すどころか、声出しだって多分今日初めてだよね?今日4番のおかげでおいしい思いをさせてもらったね。こんな口調でこんなムキムキでもちゃんと女の子だから、年下の男の子に頼られるのは素直に嬉しいよ。
「ファール!」
「ファール!」
「ボール!」
(天野の割には粘るな……ボール球も振ってくれるから、幾らかは気が楽だか……)
(心配すんなハブ。昔のメジャーの偉い投手も言ってたんDAZE?『一番過大評価されてる記録は奪三振』ってNA。それを次の1球で証明してやろうYA)
だけど、そろそろその分のお返しもしないとね。振旗コーチのためにも。
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小さい頃から、ぼくは単純だった。地味なプレーとか駆け引きよりも、ホームランとか豪速球とか、ダイナミックなものが今でも好き。
その中でも一番魅せられたのは『フルスイング』。当たればどこまでも飛んでいって、空振りしても絵になる。プロのそんなスラッガーに憧れて、ぼくもそうなりたくて、毎日大げさなくらいの素振りをしまくってた。
そんな練習が身を結んだのか、こんな性格に応えてくれたのか、人並みよりずっと大きな身体を手に入れられた。打っても走っても守っても投げても、全部一番になれた。高校の頃までのぼくは間違いなく無敵だった。
とはいえやっぱり将来のことも考えて大学に進むことも考えたんだけど、ジェネラルズとヴァルチャーズ……リプ・リコそれぞれの名門から1位指名されちゃったんだから、どうしたって『自分はプロでもやれる』って信じ込んじゃうよね。
「抽選の結果、天野選手は帝都桐凰ジェネラルズが交渉権を獲得しました」
「よく来てくれたね天野くん!歓迎するよ!」
「はえー、こんなガタイでショートやってたんか……」
「ショートは神結がおるから今すぐは流石に厳しいやろうけど、これで内野の世代交代は安泰やろ(確信)」
「やっぱジェネラルズにはこういう華のあるスターが必要やな」
一応ぼくも広島生まれだからスティングレイに憧れたりもしてたけど、日本で一番の人気球団とそのファンの人に思いっきり歓迎されたんだから、気分が良くないわけがなかった。
「天野くん、君には特別な背番号を用意したよ。これに見合うスラッガーになってくれると、我々は信じてるよ」
「いやぁ千尋ちゃん、ほんと可愛いねぇ。今度遊びに行かない?」
伝説的な球団OB、五宝醍醐さんと同じ背番号をもらって、テレビにも出てるかっこいい男の人達にチヤホヤされて、毎日美味しいご飯もいっぱい食べられる。そんな華やかすぎる帝都暮らしで、ぼくは本当に浮かれてた。
だから、そのあまりに大きな期待が後であまりに大きな仇になるなんて、あの頃は全く考えもしてなかった。




