第九話 あたし達が目指すべきは(3/9)
******視点:赤猫閑******
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○白組
[先発]
1二 徳田火織[右左]
2中 有川利世[右左]
3右 松村桐生[左左]
4一 天野千尋[右右]
5三 リリィ・オクスプリング[右両]
6捕 冬島幸貴[右右]
7指 伊達郁雄[右右]
8左 秋崎佳子[右右]
9遊 月出里逢[右右]
投 氷室篤斗[右右]
[控え]
雨田司記[右右]
山口恵人[左左]
夏樹神楽[左左]
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あたしを含め、紅組メンバーは樹神さんのアポ無し来訪なんて慣れてる子達ばかりだから、特に気にせずタブレットで白組のオーダー表を確認しつつ試合の準備を進めてる。
「あらま。雨田くんがゴネると思ってたけど、先発は氷室くんがやるのね」
ベンチに座って身体をほぐしてる百合花ちゃん。
百合花ちゃんは一応紅組入りしてるけど、登板する可能性は限りなく0に等しい。何てったって前に先発で、紅組のメンバーは白組以外の全員で、しかも9回までで確定だからね。
「だが、合理的ではある。現状の雨田はリリーフの方が向いてる」
「と言っても、ルーキーの中じゃやっぱ冬島が現状一番っすかね」
金剛くんや相沢くん、それにあたしくらいなら先発の雨田くんはそれほど苦でもないからね。
「とはいえ、盤石でいくなら正捕手は伊達さんが良いと思うけどね」
あたしも少し盗塁しやすくなるしね。
「その辺は筋を通すってことなんじゃないっすか?今回の喧嘩はルーキー達が仕掛けてきたんですし。二軍組の氷室はともかく、実績持ちの伊達さんが前面に出るのはね」
「ケケケケwwwwwあんなしょぼ……人数不足なのに意地張ってる余裕なんてあるんすかねぇwwwww」
一軍レギュラー組の空気がそんなに心地良いのか、財前くんがナチュラルに入り込んできた。
「そんな余裕、あるみたいよ。ほら」
百合花ちゃんが指差した先には、一軍戦力に怯えるような可愛げのある子はいない。
ふぅん、なかなか良い面構えじゃない。プレイボールが近いと言うのに、白組の子達の表情にこれといった緊張は感じられない。
「どうせ強がってるだけっすよwwwww」
だったら良いんだけどね……
「おうお前ら。そのままでええから話だけ聞いてくれ」
我らがビッグボス、柳監督のおでまし。
便宜的にではあるけど、今日も紅組側は柳監督が指揮する予定。白組側は一応旋頭コーチとか二軍コーチ陣もいるけど、指揮権は白組キャプテンの冬島くんが握るみたい。サラッと樹神さんが混ざってるけど、まぁいきなり試合に出てくるとかそんなサプライズはないと思う。
というか正直、出てきたところで今の樹神さんは……
「今日の起用法は昨日打ち合わせした通りじゃ。細かい指示もそんなに出すつもりはないから、基本は各自の裁量に任せるからの。ただ、一つだけ厳命を下させてもらう……」
いつも通りの飄々とした態度だったけど、サングラスを上げて表情を変えた。多分、こういう時の監督が本当の顔なんでしょうね。
「『白組を決して侮らず、全力で叩き潰すこと』。恐らく、先週の紅白戦での白組とは比べものにならんほど強いはずじゃからな」
(はぁ?wwwww何言ってんだこの耄碌ジジィwwwww俺らが抜けて人数が減っただけの白組が先週より強ぇわけねーじゃんwwwwwこれだから精神主義の古い人間はwwwww)
(まぁ確かに3点のハンデは痛いけど……仮にも一軍経験のある氷室が奇跡的に5回まで好投したとしても、後の4回は前にフルボッコにされた雨田と、ガキンチョの山口、ヒョロ球の夏樹だけ。点なんていくらでも入る入るwwwwwこっちは一軍の投手陣丸ごと使えるんだからねぇ。野球ってやっぱり結局は投手力っしょwwwww)
口には出してないけど、財前くん達は明らかに監督を馬鹿にしてるような雰囲気。一応今日どこかで出場が確約されてるとはいえ、ちょっと調子に乗りすぎね。その辺はプロだから自己責任なんだし、指摘するのも面倒だからスルーさせてもらうけど。
今日の試合は配信ナシのせいでおばあちゃんが観れないのが残念だけど、まぁいつも通り頑張らせてもらうわ。相手が誰であろうと、グローブはめてバットを握れば倒すべき相手であることに変わりないんだから。
******視点:冬島幸貴******
「……というわけで、サインはこれで決まりね!」
「でゅふふ……お任せください。火織さんほど打てるわけじゃないので、全力でサポートしますよ」
プレイボールに備えて、各自準備。あっちでは今日のウチの1・2番コンビ、火織と有川さんが打ち合わせてる。
「もー、一軍メンバーの理世ちゃんが二軍メンバーに何謙遜してんの?ほら、あっち見てみなよ。真守くん、今日も来てるんだから」
火織が指差した方には、先週も来てた騒がしい有川さんファンの兄ちゃんがいた。
「有川ァ!しっかりやれよォ!!」
「ま、真守ちゃん!?また来ちゃったんですか!!?」
「今日の試合放送しないから仕方ないだろォ!?」
「もー!バイト代なくなっても知りませんよ!?」
口ぶりだけは迷惑そうやけど、有川さんの反応は満更でもない感じ。
「先週も思ったんですけど、もしかしてあの人、篤斗も含めてプロ入り前から知り合いなんすか?」
「でゅふ……そうですよ。ワタクシメと向こうの真守ちゃんは東京の高校でバッテリーを組んでた仲ですよ。火織さんは栃木、氷室さんは神奈川の人で、学年も1つ違いますけど、同じ関東で野球をやってたのでそれなりに顔を合わせる機会があったんですよ」
やろうな。関西の出のオレとリリィと同じようなもんやな。
「とは言っても、篤斗さんはともかくとして、火織さんとこうやって仲良くなれたのは結構最近のことなんですよね。ここだけの話、何と言うか、ちょっと前までの火織さんはその……でゅふっ、ワタクシメみたいな人種には近寄り難い人だったので……今の火織さんは本当に良い人なんですけどね……」
火織に聞こえないように小さめの声で教えてくれた。そういや火織って篤斗と違ってずっと無名やったから、高校時代とかプロ入りしてからどうだったかとか全然聞いてんかったな。あれだけの実力があるんやから、もう少しくらい騒がれててもおかしくないはずやのに……




