第九話 あたし達が目指すべきは(4/9)
「さてと……」
ま、今はそれよりも目の前の試合やな。オレも準備せんと。
まず、今日の紅組のオーダーは……
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●紅組
[先発]
1中 赤猫閑[右左]
2遊 相沢涼[右右]
3右 森本勝治[右左]
4左 金剛丁一[左左]
5一 グレッグ[右右]
6指 イースター[右左]
7三 ■■■■[右右]
8二 ■■■■[右左]
9捕 真壁哲三[右右]
投 三波水面[右右]
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……ん。予想通りやな。
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話は遡って、昨日のこと。
「んじゃ、そろそろ明日のオーダー決めてくか」
二軍グラウンドに白組メンバー全員を集めて、今日の色々を決めた。
「と言っても、野手に関してはギリギリの人数しかいないし、ポジションも もう決めてるから、後は打順と投手の起用法くらいだね」
「投手の起用法についてはルール的にも考えなきゃいけないことが多いですし、まずは打順からですかね?」
「と言っても、打順を考えるのもそんなに簡単ではないですよ?相手の先発の予想なども重要になってきますし」
「そこは大丈夫だよ。だいたい目星は付いてる」
そう。今日の先発を読んだのは伊達さんだった。
「先週はエースの百々(どど)くん。紅組が本気で勝ちにいくならまた百々くんという線はあるけど、何だかんだで選手のテストも兼ねた紅白戦だからね。再来週のオープン戦でも初戦は百々くんが投げるみたいだし。とは言っても、柳監督の性格上、喧嘩を売ってきた相手にあからさまに格の落ちる先発投手で接待なんて絶対してくれないはずだ」
「……そうなってくると、答えは『百々さんに次ぐ先発の勝ち頭』」
「そうだね。来るのはおそらく三波くんだ」
三波水面。今では珍しくなった、右のサイドスローのスターター。通算成績は百々さんより若干落ちるけど、それでも右のリリーフエースを経て去年は先発として二桁勝った本物の実力者。
「百々くんとは同じ右ながら投手としてのスタイルが全然違うから、単純な実力の優劣を決めるのは難しい。少なくとも、点を取れればラッキーくらいの相手だと覚悟しといた方がいいだろうね」
「三波さんかぁ……リプの選手ってあんまり詳しくないんですけど、確かめちゃくちゃすごい変化球投げるんですよね?」
「あれは魔球ですよ……スライダーもすごいんですけどね」
「それに加えて、向こうは一軍のリリーフ陣も丸ごと抱えてるんですよね……?」
そこが厄介なんよなぁ。ウチのリリーフ陣は全体的にはしょっぱいけど、何だかんだで上澄みは他球団でも十分やっていけるくらいの実力はあるし。一戦限りでは連投とか気にせず投入できるし、テスト目的で多少格落ちの投手が出てくる可能性はあるけど、少なくとも勝ちパターンの3人は確実にくると考えといた方がええやろうな……
(それってつまり、あっし達がちょっとでもヘマしたらまずいんじゃ……?)
大量失点は絶対にNG。何としても3点のアドバンテージを守り抜かないと厳しい。投手陣へのプレッシャーが全体に伝わり、雰囲気の重さでさっきまでの議論の賑わいが沈んでしまった。
まずいな。こりゃ何とか空気を変えんと……
「ま、まぁ基本的にルールはオレらに有利なんやし、3点を丁寧に守っていけば「甘っちょろいですよ」
「……え?今何て?」
「『甘っちょろい』って言ったんですよ」
口を挟んだのは月出里ちゃんだった。
「クソジ……柳監督が考えた今回のルール。DHが守備に入れるとか、投げ終わったピッチャーが控えの野手として入れるとかは、確かに人数差への『配慮』だと思います」
この重い雰囲気をものともせず、それどころかいつもより不自然にニコニコとしてる。
「……でも、3点のハンデは『余計なお世話』です」
そう言いながら、途端に表情を変えた。血走った目で誰もいないところを睨んでる。
「許せねぇよなぁ……マジで許せねぇよなぁ……」
周りに聞こえないように配慮してるのか、あるいは単に考えてることが口に出てるだけなのか、何かブツブツと呟いてるけど、みんな月出里ちゃんに気圧されて押し黙ってるからはっきりと聞こえる。その矛先が自分達ではないと分かっていながらも、あまりのプレッシャーで思わず身震いがした。
しばらくの独り言を終えて、表情をそのままに顔を上げた。
「確かに舐められたからって理由で喧嘩を売っちゃったのは主にあたしのせいですけど、先週の処分と言い、こんな風にさらに舐めるような真似をされたことと言い、皆さんは悔しくないんですか?あたし達を舐めた監督を見返す方法が、『お情けで貰った3点を守って勝つ』で良いんですか?そんなぬるい勝ち方で、皆さんの気が済むんですか?あたし達が目指すべきは、『4点差以上付けて、あたし達を舐めた事を後悔させた上で勝つ』じゃないんですか?」
「……全くもってその通りだね」
(やっぱり月出里だけは違うね)
真っ先に便乗したのは、やはりというか雨田くんやった。
「そうだね……最初から逃げ切る姿勢じゃダメだよね」
「『悔しくないか』やと?悔しいに決まっとるやろ。やったるわい」
「ま、確かに舐められっ放しはな。目に物見せるのも悪くねぇな」
「お……おれも最初からそのつもりだったし!」
みんな重い雰囲気から逃れるように、代わりに月出里ちゃんの雰囲気に飲まれていった。
「ふふっ、そうですよね皆さん!」
本当にコロコロと表情を変える。今更ウインクなんてしても取り繕える訳ないのに。全く、実力はからっきしでも大した奴や。あの人間離れした腕力と言い、可愛い顔してとんでもない狂犬やで。世が世なら独裁者にもなれそうなカリスマやな。
けど、オレにとっても良い薬になった。そもそもオレがこうやってプロを目指すようになったのやって、そういう気持ちからやったな。大学入ってからようやく日の目を見るようになって、いつの間にか随分と腑抜けてたわ。
『4点差以上での勝利』、つまりはジャイアントキリング……目指す価値は大いにありや……!
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