06 妖精の国
最後に地図を載せました。
中央海洋と書いてますが、間違いです。正しくは中央海洋です。
字が汚いです、ごめんなさい。
――数時間前、
「来ましたね」
キトくんがそう言いながら、少し机や椅子の配置に変更を加えた会議室にある、プロジェクターから映し出されている映像を見た。このプロジェクターはギルド対抗戦での副産物だ。ある程度上位に食い込むと、報酬としてリアルマネーやゲーム内マネー、レア装備から始まり、ギルドを充実させる設備も貰うことが出来る。
ギルドは全てで1000を越えるほどに多く、その中での上位5%以内に入ることで、報酬が得られるのだ。しかし、制限は多い。例えば毎回1位に輝いていると、だんだん報酬のレベルが下がっていく。そう、リフェリティアがキチンとした報酬を貰っていたのは3回目のギルド対抗戦までだった。それからはずっと、名誉とちょっとした報酬だけである。その、ちょっとした報酬とは言え、上位5%しか得られることのない報酬なのだから、それなりに、まぁ、推して然るべきだろう。
「それにしてもいいなぁ。うちにもこれ付けたかったよ」
「はは、レフィリア姉さんのところはもっといいのがあるじゃないですかー」
「うむ。俺たちのところは何もないからなぁ」
「上位5%はキツイ。参加してないところもあるけど、それでも1000の5%って……50ギルドもあるの?あれ?」
「こうして、改めて考えてみると多いね。さ、そろそろ煮詰めて行くよ」
私たちが今後の予定の見直しや、先日の会議での決定事項等を確認していると、時間になったようだ。キトくんが部屋を出て行き、映像に映っている一団を迎えに行った。
全員で入ってくるのかと思ったら、どうやら3人だけらしい。キトくんの後ろをついて行き、多少ながらも会話をしているようだ。そして、遂に扉が開く。
「キトです、入ります」
キトくんが扉を開けて入ると、後ろにいる人が見えた。先頭に立っているのは、移動中でもキトくんと仲良く話をしていた人で、騎士の恰好をしている。全員の視線が彼に集まる中、ようやく一歩踏み出した。だけど、細心の注意を払って警戒しているのか、随分と動作がゆっくりである。
その彼が何かしらの合図を後ろの2人に送った。どんなハンドサインかは知らないが、罠がないとか、そんな程度だろう。少しの間を置いて2人が入室し、彼があちら側の椅子を2脚引いた。2人が座り、同時に私が立ち上がる。まずは挨拶からだ。
「ベジタリアン王国の皆さま。ご足労いただきまして、ありがとうございます。私は北斗七星連合の連合長をしているレフィリアと申します。こちらに座っている者たちはその幹部……そちら風に言いかえると、私が国王の立場で、残りの6人が大臣となります。また、後ろにいるのは補佐官と思っていただいて構いません」
この挨拶は事前に皆と相談して決めたもので、国王と大臣というのは、ベジタリアン王国にもあるということをキトくんから聞いていたからだ。相手と合わせたほうが分かりやすいとのことで、総意で決定した。ちなみに、今回連れてきた補佐官はルナである。テトもいるにはいるのだが、男爵という身分になるので、料理人という立場で参加してもらっている。最近、テトはギルド内ランキング戦にもギルド対抗戦にも出ていないのだ。
これでいいだろうか?内心ドキドキしながら相手の反応を窺う。すると、2人が慌てたように立ち上がった。
「お招きいただきありがとうございます、レフィリア様。私は国務大臣をしているヴァリアスと申します」
「同じく、私は外務大臣をしているシステラと申します」
2人の挨拶を聞き、ガチガチに緊張しているようだったので、とりあえず料理だろう、と判断した。
「ではまず、料理でも。――テト」
呼ぶと、既に準備していた料理を運んできた。今は昼を少し回った程度。相手が昼食を摂っている可能性もあるのだけど、テトの料理を見ればまず食べたくなるだろう。それに、ここの食材は少し珍しいとのことで、恐らく、ただの勘でしかないが、食べてくれるはずである。
「私は料理人のテンペストと申します。ご賞味ください」
テトが名乗り、優雅な礼を見せてから料理を配り始めた。……あんな礼も出来るんだな。やっぱり、子持ちの社会人は経験が豊富なのだろうか?
全員分、とは言っても座っている者だけだが、昼食を配り終えた。相手の反応を見ると、上々のようだ。と思った矢先、後ろにいた彼が急にテンションを落とした。その反応が可愛らしくて、つい苦笑してしまう。
「そちらの方の分もございますので、どうぞおかけください」
そう言ってやると、まだ20代前半に見える彼――隣に座るキトくんからの耳打ちによるとシイランというらしい――が、貴族らしく、それでいて軍人らしく勢いよく食事にがっつき始めた。他2人も、それに続いて食べ始めた。
「さて、そろそろ話を始めたいと思うのですが」
「ええ、そうですね。……こちらとしましては、不可侵を貫いて頂けるのであれば要求はほとんどありません」
不可侵を貫くだけでいいの? と、そう思ったのは私だけではないだろう。だけど、ここにいるメンバーで以前決めたものは、やはりどこかの国に所属して後ろ盾を得る、ということだった。もちろん戦闘力では天と地ほどの差があることは確認済みだけど、それだけで済む相手ではなかったら。そう考えると、どうしても後ろ盾は必要になってくる。それに伴って、何かしらの義務なんかが発生しても、全員で対処に当たるということにしている。
「それはできそうもありません」
そう言うと、3人は驚愕に顔を染めた。
「な、それは、何故でしょう?」
明らかに動揺しているようで、その声は震えている。
心の中で深呼吸し、私は口を開いた。
「それは、私たち北斗七星連合は貴国に所属、というより後ろ盾になって頂きたいと考えているからです。確かに、戦力差で考えれば、失礼ではありますが、天と地ほどの差があるでしょう。しかし残念ながら、私どもの中に政治に関して知識を持っている者はない」
「――ふむ。なるほど。では仮に、あなた方がベジタリアン王国に所属した場合に求む物は何でしょう?」
「それは、基本的人権、及びそれぞれの砦の所持。それから、国民としても、普通に出歩き暮らせるように、でしょうか」
ヴァリアスとシステラが2,3言話し、困惑した顔で私を見る。
「何か、わからないことでも?」
「ええ。まず、基本的人権とはどういったものですか?」
これについては、私ではなくブラッドが説明をする手はずだ。一番詳しいのが彼だったのである。ブラッドはミーナの後ろから一歩進む。
「それについては私から説明致します。私たちが求める基本的人権は大きく分けて3つ。1つ目は平等権。2つ目は自由権。3つ目は社会権となります。簡単に言いますと、平等権は差別されない権利。自由権は自由に生きる権利。社会権は人間らしい最低限の生活を国に保証してもらう権利です」
「なるほど……素晴らしいですな」
ヴァリアスが感嘆の声を漏らす。それと同じくして、システラとシイランも大仰に頷いていた。
「いいでしょう。それについては、問題ないと思われます。それと、同じくしてその基本的人権を我が国全土に行き渡らせようと思います」
「それはそちらでご自由にしてくださって構いません」
「そうですか。では、遠慮なく。……次ですが、それぞれの砦、というのはここのようなものが後幾つかある、ということですか?」
私は密かにホッと息を吐き出す。これほどうまくいくとは思っていなかったし、受け入れられて何よりだ。ブラッドが一歩下がり、控えている状態となった。
「そうですね。正確には7つあります。まずはここ、キトくんが運営する『暗黒祭殿』。そして、テンペスター伯爵が来た、マリンが運営する『氷上の炎荒』。マーガレット伯爵が来た、さくらんぼが運営する『京都』。ブライアス伯爵が来た、にゃーさんが運営する『ノーロリータイエスJK』。この4つは既に発見されているでしょう?」
「……ええ。そうですね。それぞれから報告がありました。して、残り3つはどこにあるのですか?」
確かに気になるだろう。まだ発見していない脅威が3つもあるのだから。
「ベジタリアン王国、アセロラ州北東の辺境にあり如月さんが運営する『春夏秋冬』。その下、アスタチューム州とパイナップル州を挟んだバジル州の、ベジタリアン王国とファーメイコルシィ共和国との国境にほど近い場所にミーナが運営する『ミーナちゃんマジ天使っ!』。最後に、この国、というよりもこのクヮーツ大陸の北端中央部、クリスタル銀山手前にあり私が運営する『リフェリティア』です」
それを聞くと、また驚いたようだった。今日は驚きの連発だろう。大変だね。
「そ、そうですか。随分と我が国に詳しいようですね?」
「ああ、それでしたら、この2日間である程度調べておきましたから」
にこりと笑みを向けると、ビクッと震えられた。脅しているつもりはないのだが、どう感じたのだろうか。すると、突然達観したかのように遠い目をしてヴァリアスが言った。
「ふぅ、そうですか。いやはや、素晴らしいですね。それで、他には何かありますか?」
「ん~そうですねぇ。とりあえずこの程度でしょうか。そちらは何かありませんか?」
「はぁ、では、こちらからの要求を。システラ殿」
「えっ、はっ!こちらの要求は全てで2つ。1つ目は、ベジタリアン王国、及び友好国との和平を結んで頂くこと。2つ目は、あなた方とすぐに連絡を取ったり、失礼ですが、あなた方を監視する要員を少数でいいので、置いて頂くことです」
なるほど。監視というのも、連絡要員というのも頷ける。全てぶっちゃけるのはどうかと思うが。1つ目に関しては何も問題は無いどころか、こちらから願いたいほどである。
「――わかりました。その2つを受け入れます」
「おおっ、本当ですか!?ありがとう。助かります」
ということは、契約書への調印が必要になる。予め用意しておいてよかった。
「ルナ」
「はい、レフィリアさん」
机に置いておいた契約書をルナに渡すと、ルナがあちらに歩いて行き、それをヴァリアスに渡す。
「これは?」
「はい。これは契約書となります。勝手ながらこちらで用意しておきました」
「ほう……なるほど」
「よくお読み頂いてから調印してください」
それからヴァリアスが読み終わるとシステラに渡り、2人の署名をルナがさせ、最後に指にインクをつけて捺印する。
「これは1枚、なのですか?」
「いえ。少し失礼します」
ルナがその契約書を借り受けると、スキルを使う。瞬間、それは2枚になった。本当は姿形を相手と同じにするコピーのスキルなのだが、こういった応用も出来るらしい。
「では、ここにこのハンコを押させていただきます」
ルナが持ち出したのは北斗七星の紋様をした北斗七星連合の連合マークの書かれたハンコだ。この2日間の間で、これも作り出しておいた。
「それでは、こちらに国璽をお願いします」
ルナが指さしたのは、連合マークの上だ。一応、私たちの方がベジタリアン王国に所属するという形になるので、上にベジタリアン王国、下に北斗七星連合としている。
「――ありがとうございます。これで私たちに契約が結ばれました。この契約を、『ガンガラー条約』とし、この場であったことは、『祭殿の調印式』とします。何か、他に案があれば遠慮なくどうぞ」
「いや、それで構わない」
この命名も、予め決めていたことなのでルナの勝手な発言というわけではない。そうは言うものの、この名前を思いついたのがルナなのだが。他のメンバー、私含めてネーミングセンスは壊滅的だったため、総意で決定した。
「ところで監視と言ってましたけど、後から派遣されてくるのですか?」
「ああ、そうですね。ではシイランをこのままお付け致します」
ヴァリアスがそう言うと、シイランがぎょっとしたようにヴァリアスを見た。だけど、反論できないのか項垂れてしまう。
「……わかりました」
「レフィリア様、シイランはスィーツ騎士団に所属する3等長ですが、その実力は騎士団長が認めるほどで、王国に仕える伯爵でもあります。さぞお役に立つかと思います」
「わかりました。この後は、シイラン殿の代わりにキトくんに送ってもらいます」
「それはありがたい。助かります」
その後、特に話すこともなく雑談をし、シイランを置いて2人はキトくんの案内で部屋を出て行く。プロジェクターからの映像はキトくんが入ってきた時から消されているし、これはシイランに見せることも躊躇われた。何せ、ギルド本部周囲の映像が全て見ることができるのだから当然だ。
「えーっと、じゃあシイラン殿、まずは各ギルド本部……砦へ案内します」
「私のことは呼び捨てで構いません。あなたの方が圧倒的に立場が上ですので」
「うーん、じゃあシイランさんでいいかな。まぁ、シイランさんもそんなに硬くならずにリラックスしてね」
「はっ!」
2人が出て行ってから、シイランはどこか嬉しそうだ。何故それほど嬉しそうなのかは知らないけど、まぁ、1人残されたことが嫌じゃないならそれでいい。暴れられても面倒なだけだ。
「それで、移動というとレール型魔導車でも使うのですか?」
「レール型……?いえ、転移するんです」
「……転移?」
「はい。ギルド連合で繋がりを持っていれば、ギルド本部同士で転移が可能になります。その機能を使えば安全かつ迅速に転移できるんですよ。その代わり、連合所属のギルドを攻撃できないんですけどね」
「はあ……?」
シイランはよくわかっていないような声を出す。それもわからないでもないが、実際にあるのだから仕方ない。
これは私もすっかり忘れていた機能だ。他ギルドの皆が魔城に来た時、地上を走ったり、空を飛んだりするのではなく、ギルド間転移をしてきたのだ。そのことを教えられたのはここに来るときだった。
「とにかく、私たちについて来ていただければいいかと」
「わかりました」
シイランは私に一礼し、私の後をついてくる。転移はギルド内ならどこからでも出来るのだが、位置を指定するなら、コンソールの場所からでないと出来ない。これも若干不便に感じるところではある。
「念の為掴まっていてくださいね」
「はっ!」
「よし、じゃあルナ、あとは頼む」
「わかりました。レフィリアさんもあまり遊ばずに、早く帰ってきてください」
「わかってるよ……全く。最初は、そうだなぁ。マリンのところでいいかな」
「お、私のとこが1番でいいの?」
「うん。ここから1番近いとこでしょ」
「いやいや、レフィリア。こっからいっちゃん近いんは俺らんとこやで」
「あれ? そうだったっけ。まぁ、順番なんてあまり関係ないし、気にしたら負けかな」
「おいおい……」
私の適当ぶりに呆れたかのように、シイラン以外の面子がため息を吐いた。
時は遡り、――アップデートの日。
「なんだぁ?」
何かがおかしい。12時になった瞬間にラグを感じられたし、何かが切り替わったかのような感覚。いや、それは今回のアプデの影響か。アプデ中もプレイできるとはいえ、アプデが終わるとそちらに切り替わるため、ラグを感じるのだ。
「Kさん」
「ああ、なんだ?」
「何か、外が騒がしいですよ」
「知らねえよ。お前見て来い」
「あ、はい」
なんで俺に聞くんだよ。バカかてめーは。まぁ、あいつは新人だから仕方ないかもな。
それからしばらく待っていると、そいつが戻って来た。こいつの名前はなんだったか。覚えなくていいだろ。所詮雑魚だしな。そう考えると、あのオカマ野郎は異常だ。ギルメン、それも8000人全員の名前を覚えてるんだから。
「Kさん!妖精族が大量にいます!てかここに入ろうとしてきてます!」
「はぁ、知るかよ。適当に殺っとけ」
「は、はい!」
お前ももうPKギルドの一員だろうが。ちったあ自分で考えやがれ。
それにしても暇だな。俺もPKしにいくか。
「あれ、Kさん来たんですか」
「ああ、わりぃかよ」
「いえ、そういうわけでは。でも、あいつらただの雑魚でしたよ」
「そうか……ならこれで片付けるか。めんどいし」
そう言って、俺は【炎天〗を使う。俺の種族は悪魔。1番相性がいいのは“闇属性”、と思いきや“炎属性”だ。次に“闇属性”が来て、“光属性”以外はペナルティなんてものはない。
【炎天】を使うと、妖精族がおもしろいくらいに焼け死んでいった。こんなに手応えがないのはいつ以来か。覚えていないが、初心者狩りをしていた時異常の快感に間違いない。……にしても、数が多いな。
「数多すぎだろ。お前ちょっと1人捕まえて聞いて来い」
「ああ、わかった」
適当に指を指したところにいたのはサブマスだった。サブマスと言っても、このギルド『殺し屋』にいる1000レベは俺だけだから、必然的に最強は俺となる。PKギルドに入るやつで1000レベってのは中々いない。俺のギルドは辛うじて俺がいるが、他のPKギルドでは1000レベがいないこともよくあるどころか、1000レベがいることの方が珍しい。
「K、わかったぞ。ここはフェアリー湖国ってとこで、今俺たちがいるところはそこの王城らしい。ってか、王城を押しつぶして俺らが現れたんだと。そんで王族が全員死んで、まぁ、そんな感じか」
「はあ? お前正気か? まるでここが現実みたいじゃねえか」
「だから、たぶんそうなんだろうな。奴らの死体みてみろよ。NPC殺したら普通すぐにポリゴンになるが、こいつらはなってないだろ」
「そう言えばそうだな。じゃあマジでここは」
「ああ」
サブマスがにやりと笑った。俺もそう笑い返す。
ここが現実。
これが世界。
理想の現実。
理想の世界。
全てが俺のためにあるようなものだ。
「クッハハハハ!! てめぇらぁ……リフェリティア攻める準備しろぉ!」
今の状態であいつらと、オカマ野郎を殺せば脅威はもうない。あいつらさえいなければ後は雑魚ばっかりだ。俺たちがギルド対抗戦に出た時、勝てないのはいつだってあいつらだけだった。あいつさえ倒してしまえば、この世界に脅威は皆無!
「笑いがとまんねぇや」
「ああ! さっさと準備していくぜ!」
「ったりめぇだ! まだかおめぇらぁ!!」
おっせぇな。こいつらマジで遅すぎる。だが、ここで殺すと戦力が減るからな。奴らと渡り合うためには、奴らの数はやたら多いから、ここで自陣の戦力を減らすわけにはいかん。
「Kさん! ちょっとこっちに来てください!」
「ああ? おめぇがこい」
「ひぃっ、わ、わかりました!」
ギルマスの俺を呼び出すとか、てめぇ何様だよ。
「Kさん、この世界の地図を手に入れました!」
「おお! なら奴らの場所も簡単にわかるんじゃねえか?」
地図を見ると、やはりゲームと位置関係は変わっていない。大陸の位置とかも変わっていない。ということは、奴らは魔城にいるはずだ。魔城は……ベジタリアン王国ぅ? なんだよこのネーミングセンス! 俺を殺す気か?
「さて、地図も手に入った。後は……ああ、そうだな。ついでだから連合を潰していくか。ここからだと丁度、中二病の頭の痛い奴らがいたはずだ」
「確かこの辺りだな。ついでにやっとこうぜ」
「そうだな。いや、待て。……おめぇら! 妖精族を捕らえて置け! こいつらに先陣を切ってもらう!」
我ながらナイスアイデアだろう。完璧な作戦だ。雑魚で雑魚を減らして、強いやつと俺は戦う。雑魚なんか相手にしてもつまんねぇだけだからな!
「――っはぁ。あぁ、ダメだ。興奮が収まらねえ。妖精族を全員捕らえて奴らにぶち当てるには時間がかかる。それも楽しみの1つに違いないな」
「そうだ。奴らが妖精族をぶち殺しまくるところを見れるんだ。奴らも俺らと同じにちげえねえ」
「ククッ、ああ、その通りだ。全くその通りだ。なぁ、相棒――レイ」
思い出した。そう言えば、サブマスの名前はレイ。俺の相棒でもあったはずだ。いちいち覚えてるとわけわかんねえからなァ。しっかし、俺のところでも小規模ギルド、1500人程度のギルメンに加えて……そう言えばあいつらはどこだ?
「おい、お前」
「あ、はい。なんでしょうKさん」
「お前、とりあえず『ブラックコースター』と『ナチス』に連絡とってこい。それで全員ここに集めさせろ」
「わかりました!」
そう、ここは元ゲームの世界だ。なら、あいつらも、俺の連合傘下の奴らも来ているはず。来ていなければおかしい。もし来ていないならオカマ野郎もいないかもしれない。それは絶対に許されないことだ。
久し振りに指示を出して疲れたな。腹も減ったし、飯でも食うか。
「おい、誰か飯作れ」
「俺、料理出来るッスよ」
「ならお前でいい」
「材料はどうするッスか?」
「そこに転がってるだろう?」
「な……正気ッスか?」
「あたりめーだろ。いいからさっさとしやがれ。フルコースだ」
「……了解ッス。じゃあちょっと待っててくださいッス」
名乗り出た奴が数人を呼び集めて妖精族の死体をギルド本部に運び込んでいった。ああ、今から楽しみで仕方ない。こんなにも飯に楽しみになったのはいつが最後だったか。妖精族の肉、考えただけで涎が止まらない。
「人肉はまずいって聞くけどいいのか?」
「はん、俺にとっては御馳走だ。さっきまで生きて喋っていた奴が机に並ぶんだぜ? 絶対美味いに決まってんだろうがよ」
はぁ、笑いが、笑いが止まんねぇ。早く俺に刺激を。肉をくれ。オカマ野郎をぶち殺すための力をそれでつける!
「まぁ、腹壊さねえようにな」
「問題ない。俺は人肉、生で喰ったことあるが、腹壊したことはないからなぁ」
あの時は初めて人を殺した時だったか。快感だった。どうせなら、とその時人肉を食ったんだが、あまりにも美味すぎた。それ以降、俺は3日に1度は人肉を食わねえと気が済まなくなった。
日本の警察は優秀だとか言われてるが、俺が捕まってない時点で優秀じゃないだろうな! ま、俺が全部持ち帰って食ってるからなんだがなァ。1体で2週間も食える。2週間に1体殺してる。俺にとって人間とは、ただの獲物。格別の肉。近江牛とか、松坂牛とか、話になんねえ! 最強は人肉なんだよォ!!
「お前、マジで言ってんのか」
「ああ? だとしたらどうするんだ?俺を殺すか?まぁ、殺せないだろうがな!」
「そんなことするわけないだろ。俺も人肉、流石に焼いたが、食ったことあるぜ」
「お前もか!なんだ、話が分かるやつじゃねえか!」
「あんなに美味い肉はこの世にない。妖精族の肉はどんなもんなんだろうなぁ」
「すんげぇ気になるだろ。妖精族だ、妖精。この世界に来れてよかったわマジで」
「俺も、ログインしててよかった。ログインしてなかった奴らは時間になっても来ないからな」
「そうか。ならアプデの時間でログインしてた奴らしかいねえんだな」
「そうなる。――が、オカマ野郎はいるだろうな」
「はっ! あったりめえだろ!? あいつがログインしてないところみたころねえわ」
そうしてレイと妖精族の肉、オカマ野郎の肉はどんなもんか話していると出来上がったらしい。
「こちらです」
「サンキューな」
「俺もいいか?」
「いいぜ。一緒に食おう」
俺とレイは一緒に口へ運ぶ。
ああ、この味、人肉とは違って柔らかさがあって肉汁が口の中で弾ける! これはすげえな。料理したやつの腕も関係してるのかもしれないな。味付けも抜群にいい。
「お前、今から人肉担当な」
「はえ?」
「お前、今から人肉調理担当だ」
「マジッスか」
「マジだ」
「わかったッス。任せてくださいッス!」
「アァ……期待してるぜぇ?」
「ッス!」
機嫌よく晩飯を食ってると、誰かが慌てて入ってきた。鬱陶しい。【連爆】を使ってそいつを部屋からはじき出して、俺は再開した。
「あ、あの、話聞いてほしいんですけど……」
「後にしやがれ。俺は今飯食ってんだよ」
「それが、妖精族の何人かが妙な乗り物に乗り込んでいるようで、俺たちじゃあそのカプセルみたいなやつ、壊せなかったんす」
「クソ! 使えねえ。案内しろ」
仕方ない。食事中だが、奴らが妙な動きをしているなら対処しておくべきだ。隣にあるのはソールシィ魔導国とかいう、軍事国家らしいからな。相手になるとは思わないが、オカマ野郎を相手にする前に手ごまが減るのはいただけない。
「……なんだぁ?」
海側から何かが飛んでくる。それは高高度を保ったまま、俺の城を越えていきそうだ。
「ざっけんなよ。俺の城は皇居と同じ。上空通過は禁止なんだッよ!!」
悪魔の種族スキル【王化】を咄嗟に使う。900レベで取れるスキルで、身体強化みたいなもんだ。俺はそれを使い、上空へ跳びあがる。上空へつき、翼を出して滞空した。
「はん、逃がさねえよ」
ベジタリアン王国とかいう国の方角へ飛んで行こうとする妙なカプセルをスキルを駆使しつつ打ち落としていった。――が、
「ちぃ、数が多すぎる!」
「それな。こいつらマジで多いわ」
俺が跳びあがったのを見たギルメンは俺と同じように、飛行出来る奴らは次々に跳びあがり、一緒に妙なカプセルを叩き落としていた。飛べない奴らは地上で落ちた奴を回収している。
「クソ! 1体抜けられた!」
「はぁ、はぁ、……雑魚だが、数だけは多かったな」
「全部で1万くらいありそうでしたね」
「やってらんねえ。さっさと飯食うか」
あんな意味不明なもんに構うくらいなら、飯を食っていた方が遥かによかった。結局1体抜けられたし、マジでだるいな。まぁ、あの速度なら追いつけないこともないんだが……というより、今確認してみると、どうやって飛んでいるのか不思議なくらい遅い。
とはいえ、スキルは射程外。追うほど強いやつでもない。放置で構わないだろう。脅威になるとも思えないからな。
「さぁて、飯の続きでも食うか」
妖精族の肉に思いを馳せ、垂れてきた涎を手の甲で拭きとった。