表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
5/6

05 植物の国

 ――2日前、ベジタリアン王国王都。


「それで、何かわかったのか?」


 そう問いかけられ、国王である兄にゆっくりと首を横に振る。何もわかってなどいない。わかるわけがないのだ。このような途方もないほどに現実離れした出来事なぞ。


「スィーツ騎士団の団長であるお前でさえわからないとは。世の中、何が起こるかわかったものではないな」


 全くもってその通りだ、と力強く頷いた。

 俺はベジタリアン王国の公爵をしており、役職は国王である兄の護衛。所属はエリートと呼ばれているが、その実、中身は貴族どもの醜い争いが絶えないスィーツ騎士団だ。

 ベジタリアン王国には上から順に、スィーツ騎士団、ベジタブル騎士団、フルーツ騎士団、フラワー騎士団の4つの騎士団があるのだ。

 スィーツ騎士団は伯爵家以上の者のみ入団できるのだが、先ほども言った通り、手柄の横取りなどが絶えない直視するのが躊躇われる騎士団である。主な任務は王都の守衛及び王族の護衛、また情報の精査となっている。そして、辺境で非常事態が起きた場合、誰かが地方にあるフラワー騎士団の指揮を執ることとなっている。

 ベジタブル騎士団は伯爵家未満の者、平民も合わせた全ての者が入団出来るものだ。しかし、やはりと言えばいいのだろうが、隊長格は全て貴族が選ばれている。主な任務は王都近郊にある8つの街を巡回することと、街を行き来する商人たちの護衛である。モンスターの間引きは常に行われているが、それでも危険があることに変わりはないのだ。

 フルーツ騎士団は貴族の爵位は関係なく、平民も入団できる完全な実力主義の騎士団で、恐らく国内最強の戦力だろう。主な任務は国内における王都を除いた街及び国境の守衛、及び街道や森林等に現れるモンスターたちの間引きである。また、彼らは特例として、フルーツ騎士団の団長にのみ全指揮を与えている。他の騎士団では、最終的な指揮は俺かモルステン軍機大臣となるのだ。

 フラワー騎士団は平民のみで構成された騎士団で、実力はベジタブル騎士団とほぼ同程度。スィーツ騎士団よりやや下といったところだ。主な任務は主要都市以外の町や村の巡回及び、モンスターがよく現れる場所の見張り番をしている。そして、フラワー騎士団が対処できないと判断した事例は全て俺のところへ届き、そこから適切なところへ指示を出す。フルーツ騎士団にも指示を出すことはできるが、受けるかどうかは彼ら次第である。

 更に、各街には兵士団というものがあり、平民はそれに入団し3年以上経験を積んだ者でなければ、騎士団に入団することは出来ないようになっている。兵士団の主な任務は、各街や村の治安維持及び、野菜、果物、花の3種の植物の世話をするというものだ。

 このベジタリアン王国は世界で随一を誇る植物王国なのだ。そのお陰か、輸出と輸入で毎年大幅な黒字が出ているし、世界でも数少ない独立国家でもある。

 独立国家とは、世界連合と呼ばれるものに所属していない国家を指しているのだが、これが世界に4つしかない。

 世界には7つの大陸があり、ベジタリアン王国の国土は1番大きな大陸であるクヮーツ大陸の北部一帯だ。世界一の国土を誇っているだけはあると思う。


「……聞こえているか?」

「む、なんだ?」


 すまん、兄よ。少々思考に意識を傾けすぎたようだ。このようなことをしても、無罪で居られるのは俺だけだがな。


「だから言っておろう。突如現れた4つの未知の建造物の調査、及び未知の生命体との接触は慎重にやれ、と」

「そのようなことはわかっている。しかし、何故現れたのかが不思議であることに変わりはない。もし生命体が居て、意思疎通が図れるならば、それに越したことはない」

「確かにその通りだ。予算は莫大だが、無駄遣いするのは愚の骨頂よの」


 突然だが、兄の金回し術は凄まじい。いつの間にか国家予算が倍に増えていた時など、俺の知らないところで一国を滅ぼしたのかと疑ったくらいだ。そんな兄は無駄遣いが大の嫌いで、華美な装飾に金をかけている貴族もまた心底嫌っている。



 兄との話し合いを終えて1日が経過した。


「団長、テンペスター3等長から報告です」


 秘書官が言いながら書類を手渡す。受け取ると、すぐに目を通していった。テンペスター3等長と言えば、王国の南西方面にあるチューリップ州の中心部に突如出現した、氷と炎が渦巻きながら天に昇っていくという外観をした要塞へ向かったはず。


『報告

 チューリップ州に現れた要塞を、便宜上「リップ要塞」と名付ける。

リップ要塞には雑多な種族が住み着いており、300年前に絶滅した天翼族の姿も確認された。

 彼女らの所属は「北斗七星連合」という組織で、その中で細分化されている組織の内の1つである「氷上の炎荒」なるもののようだ。

 警告を発したところ、チューリップ州と隣国「フェアリー湖国」の国境にあるヒンドュークシュ山脈が吹き飛ばされた。これには明確な敵対行動だと言い、後日戦力を率いて向かう旨を伝えている。

 しかしながら、勝率は皆無だと思われる。

 追伸

 またあの症状が出てしまいました』


 読み終わった後、俺はついため息を吐いてしまう。

 テンペスター3等長は、成績はいいのだ。リップ要塞と覚えやすい名前をつけたことからもわかるだろうし、敵を見極め即時に判断し、的確な答えを導き出すことが出来る。

 ……だが、いざ相手を前にすると冷静でいられなくなるのか、本人も頭を抱えて悩んでいる。どうすれば上がり症を治すことが出来るのだ、と。上がり症と言えば本来、消極的になると思うのだが、テンペスター3等長の場合は真逆であり、その上がり症があるせいで、本来1等長の実力があるのにも関わらず、3等長の座に収まっているのだ。


「次はシイラン3等長からの報告書です」


 今回向かったのは全員3等長だ。3等長と言えば、高慢な貴族どもの中でもまだマシな部類で、それなりに優秀だ。2等長以上は性格診断も進級試験に加わるため、本当に優秀な者しかいない。

 シイラン3等長はチューリップ州の右隣にあるコスモス州のガンガラーの谷に出現した、神殿と似通ったものだが、全く違うという、聞いただけでは想像できないような建造物に向かったはず。


『報告

 コスモス州に現れた神殿の模造建築物を、便宜上「闇神殿」と名付ける。

 彼らの所属は「北斗七星連合」なる国家のようなもので、彼らの総称は「暗黒祭殿」と呼ばれているようだ。

 闇神殿に向け、立ち去るか、ベジタリアン王国に属するかを提示したところ、彼らの責任者と対話の場を設けられた。

 彼らの責任者は天翼族であり、彼を「枢機卿」と呼ぶことにする。

 待ち時間に出された飲食物はどれもが美味であり、恐らく王都の高級料亭と同等のレベルであると推測される。食材を聞いたところ、A級モンスターであるロウ鳥の他、B級モンスターであるガンガラーの谷周辺にのみ生息するガンガラー系のモンスターを用いていることがわかった。これを鑑みれば、王城の食事にも匹敵すると考えられる。

 また、飲み物は、王都で最近流行り始めた紅茶を採用しているようで、しかしその味は奥深く、王都では到底味わう事の出来ない完成度だった。素材はハイナ草で、この素材を得るにはS級警戒地域に行かなければならないことから、彼らの戦闘力は相当なものだと思われる。

 枢機卿との対話では、あちらには王国に属するための金銭を用意できるとのことで、一応の和解案を双方で練り直し、もう一度会談を行うこととなった。

 追伸

 団長にも是非、味わっていただきたく思います』


 俺はもう一度、ため息を吐きだした。

 シイラン3等長は美食家で、貴族にはよくあることなのだが、その中でも本物と言っていい。彼には2等長の実力があるのだが、辺境の食事も味わいたい、しかしスィーツ騎士団には所属していたいということで、今回のようなことが合った場合は率先して名乗りを上げる。今回もまた、そう言ったことから自薦してきたのだ。

 それにしても、シイラン3等長をここまで言わせる食事は気になるところだ。王都の高級料亭と言えば俺もよく利用している。更に、材料名を見るにシイラン3等長の推測通り、王城での食事にも匹敵する。それほどの調理技術や、戦闘技術があるのは素晴らしいとしか言えない。

 だが、もし仮に、これが敵だとしたのであれば……油断は出来ないし、まず間違いなく勝てる相手ではない。ハイナ草などS級警戒地域に行くか、稀にD級やC級警戒地域に自生しているものを採取するしかないのだ。それほど珍しいものを紅茶にしている。この国では最高品質の魔力回復薬を作成するのに使っているだけで、そのような贅沢なことは出来ないのだ。

 あと、気になるところと言えば同じ所属ということだろう。それぞれの部隊名は違うようだし、何かの戦闘部隊かもしれない。

 北斗七星連合などというものは初めて耳にしたが、これからの報告にも出てくるのだろうか?


「団長、次はマーガレット3等長からです」


 秘書官に渡されたものを見て、俺はまだまだ先は長そうだと、窓から見える夕暮れを眺めた。マーガレットの報告は報告とは言わない。ただあったことをそのまま書き記しただけのもので、会話の全てを記載しているし、相手の動きとこちらの動きの全てを記載している。今目の前にある報告書は、恐らく50枚は越えているだろう。それだけの厚みが、俺の精神を傷つけにかかってきた。




 全ての報告書を読み終え、一度全員に帰還命令を出す。ただし、警戒を怠らないように兵士を見張りにつかせることになっている。何か以上があれば、迅速に対応できるだろう。

 現在時刻は0時に近い。じきに日を跨ぐ。それにも関わらず、今、会議室には1等長と3等長が4人ずつの8人が席に座っている。平時であれば、既に勤務時間は過ぎており、それぞれ平穏な日常を過ごしていただろうが。

 それぞれ派遣された地域は遠いのだが、数時間もあれば、友好国であるソールシィ魔導国から輸入した技術、「レール型魔導車」で帰還することが可能だ。まぁ、1番遠いところから数時間で戻ってこようとすれば、軍専用レールを使用して尚且つ時速400キロメートルほど出さなければならないのだが。


「全員集まったな」


 全員の顔を見回し、1つ頷いた。これから、突如出現した建造物等の話を詰めなければならない。


「これより、北斗七星連合対策会議を始める。皆、夜更けにすまん」

「団長が謝るようなことではありませんよ」


 確かにその通りではあるのだが、そうだな、今回の任務での特別手当を出しておこう。マーガレット3等長に返事をすると、シイラン3等長がおもむろに手を挙げた。


「私は、彼らと和平を結ぶべきだと思います。幸い、実力行使には踏み切っておりませんし、何より今の王国にそのような余裕はないと思います」

「確かにその通りだ。シイラン3等長の言うことは最もではあるが、テンペスター3等長のところでは国境の山脈を吹き飛ばされたのだろう?」

「はい。しかし、それだけの力を持つとわかっていながら戦闘を始めるのは愚かだと思われます。また、国境の異常は見当たりませんでした」

「ああ、そう言えば国境の異常が報告され、派遣されていたところへ新たな指令が下ったのだったな。異常がないならそれに越したことはない。そちらでは戦力を率いて行くと告げていると聞いているのだが?」

「それは……はい。申し訳ありません」

「まぁ、いつものことではあるが。それにしても奴らの目的や出現方法が皆目見当もつかない。しばらく様子見していたいところだが、チューリップ州の中心部を乗っ取られ、食材が豊富なガンガラーの谷を丸ごと奪われ、カーネーション州にあるアラベスク湖の上空を浮かぶ城に、アマリリス州の辺境の村に現れた派手な建造物。これらを放置することはできない」

「まずは、北斗七星連合の指導者と会談を行うべきかと」

「では、その方向で行こうか。1等長は明日、3等長の付き添いで各地へ行くことを命じる。その時に指導者との会談を行えないかどうかを聞いてくれ。もし出来ないのであれば、その時は1等長を残し、3等長はこちらへ帰還だ」


 俺の出した指示に従うように一礼すると、各自会議室を出て行く。

 俺も、準備しなければ。ひとまずは兄に報告し、これからの予定について考えなければならない。

 今日は貫徹だな……。

 ――翌日夕方、俺の元に4人の早馬が戻って来た。早馬が戻って来たということは相手の指導者が対話をしてくれるということに他ならない。つまり、交渉は成功したのだ。もしかしたら、こちらがこの行動をとるまで待っていたのかもしれないが、それでも、受け入れてくれたことに感謝をしなければ。


「伝令です。無事接触に成功し、指導者――指導者の名はレフィリアというそうで、あちらも、こちらと同じように対話したいと考えておりました。場所は『暗黒祭殿』となりました。日時は今日から数えて3日後です」

「そうか。お前たちも同じだな?」


 目線を巡らせると、他3人の早馬も頷いた。

 それに、暗黒祭殿と言えば、シイラン3等長が赴いた闇神殿のことだったはずだ。あの美食家を唸らせるほどの料理が出てくるのであれば、会談にはぴったりの料理も出してくれるに違いない。これなら、安心して留守番できそうだ。


「ならばお前たちは、各自部隊へ戻り、3日後まで現状維持と、民に不安が広がらないように対処しておくように伝えてくれ」

『了解しました』


 早馬がスィーツ騎士団の兵舎から出て行き、それを確認してから背もたれに全体重を預ける。これでようやく、本格的な交渉などが出来るのだ。まだスタート地点に立ったばかり。


「会談は今日から数えて3日後……実質2日後か。それほど時間はないが、問題ない」


 そう、何も問題など起こっていない。最近きな臭くなってきている妖精族の国、フェアリー湖国。そこが気にならないこともないが、山が吹き飛んでも何も親書など送ってこないことから、それほど大きな問題にはなっていないのだろう。


「ウィンス。ヴァリアス国務大臣に日時と場所を伝え、準備をしておくよう伝えておいてくれ」

「畏まりました」


 どこからともなく影が現れ、恭しく礼を取った後、また地面に消えていった。彼ら“影”はどこにでもいると言っても過言ではない。ウィンスは俺に与えられた“影”の内の1人で、兄はもちろんのこと、俺やヴァリアス国務大臣、ジャスミン経済大臣、システラ外務大臣、モルステン軍機大臣の4大大臣にも数名の“影”が与えられている。“影”は正確には兄の直属部隊となっていて、そこから貸し出される。

 今回の会談に参加するのはヴァリアス国務大臣とシステラ外務大臣となる。俺は行かなくていいので、気が楽だ。まぁ、兄の護衛があるから行けないというのもあるのだが。



 ――そして、約束の日。会談の日を迎えた。


「システラ、今日は頼むぞ」

「ああ、わかってるさ。ヴァリーこそ、しっかり仕事を果たせよ。これは国家存亡の危機でもあるんだからな」

「ああ……俺は一応、ジェシーの奴に別れの言葉を交わしてきた」

「っ!?そこまでのことなのか?」

「バカか貴様。相手はあのガンガラーの谷にいるんだぞ?何級か忘れたのか?」

「確か、最低警戒度の地域でもB級だったか。そんで最奥がS級、と」

「そうだ。そんなところに居を構えるくらいの戦闘能力を保有していると考えるのが自然だろ」

「そうだなぁ。まぁなるようになるだろ」


 今日、俺は国務大臣と外務大臣という重役のお2人の護衛を任されてしまった。というよりも、案内役と言ったほうが正しい。何故なら、俺程度がどうこうしようとしたところで簡単にあしらわれてしまうだろうからだ。

 今日はこのお2人と俺の3人だけでここまで来ているのだが、もちろん、一番近くの町にはフラワー騎士団が待機しているので、何かあったら信号弾を打ち上げて救援に来てもらうことになっている。打ち上げられたら、の話だが。


「もうじき到着します」

「そうか」


 これからのことを考えると胃に穴が空きそうなのだが、この淡泊な返事を前にしては緊張感も薄れてしまう。だが、もう一度あの料理を食すことが出来るのであれば、何度でも繰り返したい。それだけあの料理には魅力があった。

 俺がこれから食べられる料理は何か、と妄想を広げていると、到着してしまった。本当ならあまり来たくないのだが、料理を食べられるとあってはやはり来てしまう。


「到着しました」

「ご苦労」

「シイラン3等長は中もご案内してくださるのですか?」

「いえ、案内はあちらの者がしてくれる手はずとなっています。私は後ろからついていくだけとなりますね」

「なるほど。では、どうやって呼べばいいので?」

「それは……」


 時間指定はされてなく、この日であればいつでも好きな時間に来てもいいと言われていた。もちろん、俺も確認を取った。どうやって連絡を取ればいいのか、と。だが、呼ばなくても来たらあちらから出てきてくれると言われてしまったのだ。本当に出てきてくれればいいのだが……。

 にしても、俺への話し方とヴァリー様への話からが随分と違う。やはり、ベジタリアン学園の同期というのは本当なのだろう。年齢も同じようには見えない。

 ヴァリー様は白髪が混じり始め、もうじき引退すると言われているのに対して、システラ様はまだまだ若々しさを残し、30代と言われても信じてしまいそうなのだ。

 返答に迷っていると、どうやら本当にあちらから勝手に出てきてくれたらしい。闇神殿の門が開き始め、そこから1人の男性が現れた。この人は俺も知っている。以前世話になったばかりだ。


「キト殿!本当にお気づきになられるとは!」

「はは、まぁ、ただの勘ですよ」


 そう言われても、到底信じられない。彼らには秘密の技術でもあるに違いない。

 対して、隣にいたお2人は初めて見る天翼族に感動しているのだろう。目を大きく開き、記憶に焼き付けようとしている。


「で、隣のお2人が今回の?」

「はい。キト殿から見て右側が、ベジタリアン王国の国務大臣であられるヴァリアス様。左側が、外務大臣であられるシステラ様です」

「紹介に預かりました、ヴァリアスです」

「同じく、システラです」

「ご丁寧に、ありがとうございます。僕のことはキトとお呼びください。今日はよろしくお願いしますね」


 あの事は言わないのだろうか?もしキト殿に失礼があってはいけないので、補足しておくことにした。


「ヴァリー様、システラ様。キト殿はレフィリア様の弟君に当たります」

「おお、そうだったのか。キト殿、よろしく頼むよ」

「ええ。では、僕の後についてきてくださいね」


 うん、やっぱり補足しておいてよかった。若干ではあるが、ヴァリー様の態度が変化したのだ。

 闇神殿はガンガラーの谷全域に広がっているため、B級警戒地域から直接入ることが出来る。元々あったものはどこへ行ったのだ、と言いたいところだが、それは出来ない。

 キト殿は門をくぐり、奥へ進んでいく。闇神殿の本殿の他に、幾つかの建造物がある。お2人はキト殿に様々なことを聞いているが、あんなこと俺には出来なかった。このようなところへ連れて来られて、聞くことが出来るというのは本当にすごいことなのだ。

 話している内容は差しさわりのない事ばかりで、キト殿も笑って答えているから問題ないはずだ。たまに、キト殿もいろいろと質問をしてくるのだが、その質問や回答の内容が少し――いや、だいぶずれている。


「キト殿、こちらは何という植物ですか?」

「ああ、そちらは食人植物ですから気を付けてください。名前は……何か忘れちゃいました」


 そう言って笑うキト殿は太陽のように輝いているのだが、食人植物と聞いたお2人はビシィ!と固まってしまった。


「あ、大丈夫ですよ。精々400レベルですから。それに、口に手を突っ込んだりしなければ安全なものですよ」

「は、はは。そうでしたか。因みに、レベルとは何でしょうか?」

「え、えっと、そうですね。僕は1000レベルです」


 答えになっておらず、お2人は困惑の表情を浮かべているが、それに全く気付かないキト殿は歩みを進めた。固まっていたお2人も、それに慌てるようにしてついていく。


「僕も気になっているのですが、ベジタリアン王国っていつからあるんですか?」

「ちょうど、今年に建国300年祭があります。是非王都へいらしてください」

「へぇ、凄いですね。でも、日本は2600年ですし……3000年の歴史を持つ国もあったりするんですか?」

「さ、3000年ですか?」

「はい」

「いや、いえ、私は聞いたことがありませんな」

「そうですか。まぁいっか。正直どうでもいいし」


 俺も、建国3000年という国は耳にしたことがない。確か最も古い歴史を持つ国でさえ1000年と少しだったはずだ。1000年を迎える直前に、それを阻止しようと隣国が手を組んで一斉攻撃に出たのだが、軽くあしらわれてしまったと聞いている。別の大陸の話だから、そこまで詳しい話は届かない。

 だが、キト殿の最後の言葉を聞いたヴァリー様は、少し顔を赤くした。システラ様は笑みを深くし、キト殿を瞳に映している。正直、側にいる俺が1番怖い。頼むからこの人たちを怒らせないでくれよ……。

 その後、何故かルンルンと鼻歌を歌いながら先導するキト殿について行くと、本殿に辿り着いた。入り口からここまでで、既に1時間ほど経過してしまっている。門から玄関までこれだけの距離があれば、さぞかし面倒だろうな……。

 キト殿が本殿の扉に手をかけずとも、自動で開いて行くことに驚愕する。そのようなものは魔導国でも見たことが無い。一体どれだけの技術を有しているのか、その限界を知ることが出来れば上々の結果となりそうだ。


「ん?どうかしましたか、皆さん」


 一向に動き出さない俺たちに振り向いて、自然体で首を傾げた。このことから、やはりこの自動扉は“普通”なのだろう。まぁ、俺は以前きた時に体験したのだが、何度見ても慣れることはない。


「いや、申し訳ない。こんなものを見たのは初めてみたので」

「あ、そうだったんですか。そう言えばシイランさんも、初めて見た時は驚いてましたね!」


 いや、今も普通に驚いているのだが……。


「キト殿、あとどれくらいですか?」

「もうあと少しで着きますよ」


 話題転換したシステラ様だったが、会話が続くことはなかった。その代わり、本当にもう少しで到着したらしい。俺の時はやたら歩かされたので、もう少し、というのを信用していなかったのだが、杞憂だったみたいだ。


「キトです、入ります」


 ここの扉は自動ではないのか、手で押し開けた。キト殿の背中越しから中を見ると、6人の人物が椅子に座り、空席が3席あった。内1つは彼ら側にあるから、きっとキト殿の分だ。となると、少し離れて対談できるような配置にされているということは、反対側にこのお2人が座るのだろう。

 キト殿が室内に入ると、次は俺の番だ。中にいる者たちが俺たちに注目しているが、慎重に足を進める。罠がないかなど感覚的に調べ、無事に通り抜けると振り返って合図を送る。その合図は、問題ない、という合図だ。

 部屋に入ったところで横にそれ、お2人の入室を待つ。中々入ってこないな、と思っていると、ようやく入って来たようだ。大方、人数の多さに驚いたに違いない。こちらは3人なのに対し、相手は立っている者を含めると20名ほどもいる。

 お2人が入室したのを確認し、俺は入り口から近い場所にある長机にある2脚の椅子を引く。お2人は座ると、まずその座り心地に驚いた。柔らかな質感で、木の硬さを全く感じさせない。独特の意匠も施されているが、見たことのない模様ばかり。模様の繊細さもまた、一品だった。

 お2人が座ると同時に、向かい合っている7人の内、真ん中に座っていた女性が立ち上がった。彼ら、北斗七星連合の指導者であるレフィリア様は女性だと聞いているから、他にも女性はいるが、このタイミングで立ち上がるのはレフィリア様以外にないだろう。


「ベジタリアン王国の皆さま。ご足労いただきまして、ありがとうございます。私は北斗七星連合の連合長をしているレフィリアと申します。こちらに座っている者たちはその幹部……そちら風に言いかえると、私が国王の立場で、残りの6人が大臣となります。また、後ろにいるのは補佐官と思っていただいて構いません」


 レフィリア様が挨拶をすると、慌ててヴァリー様とシステラ様も立ち上がり、他国の王に対する礼を取った。


「お招きいただきありがとうございます、レフィリア様。私は国務大臣をしているヴァリアスと申します」

「同じく、私は外務大臣をしているシステラと申します」

「ではまず、料理でも。――テト」


 レフィリア様の合図で扉が開き、そこから美味そうな匂いを漂わせ、湯気を伴った料理が運ばれてくる。運んでくるのは男性1人だ。


「私は料理人のテンペストと申します。ご賞味ください」


 料理人はテンペストと名乗り、次々に料理を並べて行く。それを見て、やはり料理が食べられるのか!そう思った瞬間に、俺は気付いてしまった。そう、俺は今、護衛という立場なのだ。当然、料理を口に運ぶことなど出来るわけがない。立ったまま食事するなど、立食パーティではないのだから出来ないし、ああ!なんだこれ!目の前にこれほど美味そうな料理が並べられているというのに!しかも以前見た物とは違う料理!是非とも食べてみたい!


「そちらの方の分もございますので、どうぞおかけください」


 レフィリア様が苦笑している。それほど、顔に出ていただろうか。

 コツン、と軽い衝撃があり、そちらを見ると、横目で睨み付けてくるシステラ様がいた。これは間違いなく、帰ってからが大変だな。

 良くて減給、悪くて懲戒免職。ああ、食事したいと思っただけで職を失うかの瀬戸際まで来るとは……。

 その後、開き直った俺はガツガツと、しかし優雅に貴族然としながら食を進めた。感想としては、やはり美味の一言に尽きる。これからもこの料理を食べられるように、きちんと和平を結ばなければ。

 俺は全く自分の立場を理解せず、その時はそう思ってしまったのだ。きっと、これが俺の人生の始まりだったのだろう。



毎週日曜更新!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ