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マクビディ・ビスケット  作者: 三池猫
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第一話「恐怖! 怪人クモ男」 08

 そして時間は数時間後の夕方に飛ぶ。なぜ、その時間なのかというと俺が目覚めたからだ。

 クモ男と一緒にイケ・ピンクの必殺技を喰らった俺は、ブラック・デモンの医療スタッフに回収され、神保町にあるアジトに搬送されたらしい。

 まだ傷は痛むが、休んでなどいられない。急がなければならない訳がある。

 話によると雪だるま(料理長)を保護しているらしく、ヤツが目を醒ます前に口封じをしなければならない。俺の担当したファミレスの人間だと知られると大目玉を食らわされてしまう。これ以上喰らうのは御免だ。

 俺はセミナーハウスの中に誰も居ないことを確認し、素早く身体を滑り込ませる。連れてきたロボットに「いいか。名前を間違えるなよ」と念を押してから鉄椅子に括り付けられている雪だるまの頬を叩く。

「おい、起きろ」

「………」

 起きる気配無し。男の寝顔を見る趣味はないので、手っ取り早く髭を引っこ抜いてみた。

「いててて。はっ、ここは?」

 意外とあっさり起きたな。

「おはよう。俺が誰だか分かるな?」

「? ――はっ、お前は新人じゃないか。ってことはココはヒーローのアジトか?」

「残念だが違う。ココはブラック・デモンのアジトだ」

「なに? それじゃ、私を助けに来たんだな」

「それも違う」

 俺の冷たい返答に、料理長の顔が青ざめていく。今まで俺をこき使っていた男だ。口を封じる前に仕返ししても遅くないだろう。

「なら、お前は……」

「ヒーローというのは嘘だ。俺はブラック・デモンの戦闘員。上からの命令でお前の所に潜伏していたのだ。どうだ、驚いただろう」

 仰向けの料理長を見下しながら、どや顔をしてやった。とても愉快じゃ。

「この野郎、騙しやがったな。このクズめ」

「俺を罵倒するのもいいが、まずは自分の身の安全を心配した方がいいぞ」

「どういう意味だ?」

「紹介しよう。思想改変装置の『何デモ人格変エール』だ」

 俺は料理長の傍らに立つ、青い狸型ロボットを指差す。何処かで見た愛くるしいロボットは「こんにちは。ぼくドドドドド……」と自己紹介をしようとしたので、急いでロボットの口を押さえつける。

「この青タヌキ。お前の名前は『何デモ人格変エール』だと、何度言えば分かるんだ」

「ごめんねぇ。のび……」

 人の名前を間違えそうだったので一発殴ってやった。せっかく、悪の組織らしい演出をしているのに……

 仕切り直しだ。

「これでお前の人格を雪だるまにしてやる。真夏に雪だるまが溶ける心情を味わうがいい」

「やめろおおおお」

 恐怖を煽る演出に失敗してしまったが、料理長は最高のリアクションをしてくれた。先にブラック・デモンの名前を出しておいて正解だったな。

 俺は胸を撫で下ろし、そのままスイッチのレバーも下ろした。

 青タヌキから青白い電流が流れ、室内を断末魔と破裂音が鳴り響く。

「あははは。溶けて無くなってしまえ」

 本当の事を言うと、料理長の人格を雪だるまになんてしていない。ブラック・デモンと俺に関する記憶を消し、偽りの記憶に書き換えただけだ。

「あははは。俺の頭を叩いた罪は大きいぞ」

 笑いが止まらなかった。八時間も皿洗いさせやがって。手の皮が何枚剥がれたと思っているんだ。俺の皮膚はデリケートなんだぞ。

 その時、背後から「へぇ」と女性の声がした。

 あれ? なんか聞き覚えのある声が……。たしか、この部屋には誰もいないはずでは?

 俺は錆び付いたロボットの如く首を回すと、そこには不敵な笑みを浮かべる雪が立っていた。

「面白いことをしているわね」

「なっ! いつからそこにいた」

「あなたが入ってくる前からここにいたわよ」

 なんと! 気がつかなかった。

「大体の事情は分かったわ。そのおっさん、洗脳が済んだら回収チームに引き渡しておいてね。問題が起きないように裏工作はしておくわ」

 胸ポケットにしまってあった携帯を取り出すと、雪は俺に背を向けドアに歩いて行った。

「あっ……。班長、教官には黙っているよな?」

「当たり前でしょ。そんなことしたら私の心象も悪くなる」

「あ、ありがとう」

「そのかわり」

 雪が俺へ振り向き、左団扇に封筒を見せる。

 なんだ? 嫌な予感がする。

「これ、教官から貰ったミニボーナスなんだけど、いらないわよね?」

 ひらひらと揺れる茶封筒。教官にチクられるくらいならボーナスなんて……。ん? いま、この女はなんて言った?

「ミニボーナス!」

「なんか文句有るの?」

 鋭い眼光で睨まれた。

「いえ、ありません」

「そう。ならいいわ」

 そう言って鼻歌交じりに出て行った。

 なんという恐ろしい女だ。人の弱みにつけ込んで金をむしり取るとは。どうせ、その金でミスドのドーナッツを買い占めるつもりだろう。

「くそおおおおおお」

 俺は青タヌキの頭に八つ当たりすると、ロボットの腹部からテレレテッテテーと、訳の分からない効果音が鳴り響いた。


 ○


 『夜のニュース』


 夜のイケナインジャーニュースをお届けします。

 本日、十三時にブラック・デモンの幹部・クモ男が秋葉原の歩行者天国に現れました。

 彼らは『ネギ娘』のイベント会場に現れ破壊活動を繰り返しました。

 現地にいた係員により一般市民への被害、近隣店舗への被害は奇跡的にありませんでした。

 その後、我らが正義の味方イケナインジャーの登場によりブラック・デモンは一掃され、歩行者天国に平和が取り戻されました。

 現場の映像はこの後の特集にまとめてありますのでそちらをご覧下さい。


 それでは次のニュースです。

 先ほど、万世(まんせい)橋の西詰めで、ブリーフ姿の男が目撃されました。

 彼は「近年、円高が進み日本の経済はいかんともしがたい状況だが、力を合わせて頑張りましょう」と、謎の言葉を残し神田川へ綺麗なダイブをしたもようです。

 その場にいた目撃者によると、彼は近くのファミレスで働く料理長らしく、なぜそのような暴挙に出たか今も分かっていません。

 困りましたね……


 では、次の――

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