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運び屋の注文を受けるいつもの朝のように、ロックは貿易管理事務所のドアを開けた。
そのとたん、犬のケリーがお決まりのように、元気良く尻尾を振って飛びついてくる。しかし、ケリーとは対象的に、中年二人組の顔は冴えなかった。
「おっさん達、何、しょぼくれたつらしてんだよ」
フリックとダンの二人は、互いに顔を見合わせると、やれやれと首を振ってため息をついた。
「俺には、平気な顔をしていられる、お前の神経の方が信じられないね」
ロックはフンと鼻を鳴らすと、サビついた鉄の椅子に腰掛けた。
「長きに続いた、アヴェルガ家の崩壊だぞ。ナルシア様の後任にはハンセン宰相が就くらしいが……」
ダンがぼやけば、フリックも顔を曇らせる。
「ハンセン宰相はナルシアがいなくても、光脈さえあれば精霊に対抗できると宣言していたが……。しかし、まさかナルシア様が俺達を騙していたとはな。アヴェルガ家も腐ったもんだぜ」
「俺は、ナルシアがいないと、この国は成り立たないと思うけどね」
口元を舐めてくるケリーのふわふわした頭を撫でながら呟いた、ロックの言葉に、二人はぎょっとした顔をした。
「なんだ、そりゃあ。どういう意味だ」
青ざめる男達に、ちらりと視線を向けると、ロックはうざったそうに肩をすくめた。
「さぁね、自分で考えな」
その刃物のように鋭い視線に、何が罪悪感めいたものを感じたのか、二人は戸惑ったようにその視線から逃れようとした。フリックは、決まり悪いのを隠すかのように、咳払いを一つすると、きょときょと眼を走らせた。
「何、怒ってるんだよ、ロック。上の決めた事だぜ。この国をハンセンが治めるにしたって、ナルシアが治めるにしたって俺達にゃ、逆らえないんだ。お前だって、そんな事、わかってるだろ?」
ロックは、それに答えず、何がを思考するように口を閉ざしている。相変わらず、何考えてるのかわからない奴だな。不満気に鼻を鳴らすと、ダンは話題を変えた。
「まぁ、いい。それより仕事だ。時計店からの依頼だ。修理した懐中時計を、隣街のルーウェンまで届けてほしいんだと」
「報酬は一五ルド。相変わらずしけた依頼だな」
しかし、ロックは依頼書を受け取らなかった。
「今日は、仕事で来たんじゃないんだ。゛世界への門″のラスリーク隊長に会いたいんだけど、連絡を取ってくれないか」
それを聞くと、二人はきょとんとした。
「ラスリーク隊長? 一体、どういう風のふきまわしだ。とうとう、お前も観念して飛行隊に入る決心がついたってわけか?」
「そんなこと、どうだっていいだろ。出来るのか、出来ないのかはっきりしてくれ」
苛立つロックに、ダンは大げさに眼をまるくしてみせた。
「それが人に物を頼む態度かよ。ハイハイ、一応、連絡取ってみるけど、相手の都合までは知んねぇぞ」
ダンは受話器に手を伸ばした。フリックは、お茶を飲みながらニヤニヤと言った。
「飛行隊に入ったら、一杯、酒でもおごってくれよな」
からかいに、ロックは黙って首を振ると、ため息をついた。
「ロック、向こうさんは時間が取れるそうだから、今から来いってよ」
ガシャンと受話器を置き、ダンは言った。
「あぁ、有難う。手間を取らせて悪かったな」
出て行こうとするロックを、ケリーだけが寂しそうな眼で見送った。
「世界への門」に着くと、ちょうど巨大飛行船が空へと飛びたとうとしている所だった。鈍色に光る巨体はヴヴヴヴと身を震わせ、太陽を遮り大きな影をつくる。
広大な敷地には倉庫が並び、従業員達が忙しそうに荷物を出し入れしている。
ロックは合間を潜り、中央の建物に入ると、エントランスでラスリーク隊長を呼び出してもらった。




