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心に゛初陣の日″の、風が吹く。
血だまりに、人形のように転がる、名も知らなかった戦士の姿。ひきちぎるように断ち切った命は、耐えきれない程、重い。
何故、殺した? ずっと自分に問いかけていた。憎しみ、肉親を奪われた復讐、国民を守るため、戦火の沈静……、違う、そうじゃない……、本当はただ、誰かに認めてもらいたかったからだ。
よくやったと、言って欲しかった。
だから、そのために、自分のために、人を殺したんだ。甘い理想を吐きながら、いつだって僕は自分の事しか考えていなかった。
エルアの事だって、そうだ。彼女を想うのなら、たとえどんな理由があったとしても、すぐに離れるべきだった。僕が巻き込まなければ、彼女は今でも笑っていられたのに。寂しくて、必要とされたくて、自分の傷を舐めてもらいたくて、断ち切ることができなかった。自分の弱さと甘えが、取り返しもつかない事を引き起こすなんて考えもせずに。
本当は……、ずっと気が付いていた。満たされない心が、醜いまでに貪欲に、切望している事に。奥底から這い上がろうとする欲望は、自分の中に確かに存在していた。
見捨てられたくない。一人になりたくない。誰かに、愛してほしい、と。
重く沈みこむような身を支えきれず、頭を抱えたまま、ナルシアは机に肘をついた。うつむいた頬から、ポタリと涙が零れ、盤上を濡らした。
ナルシアは、哭いていた。血を流すように、涙が止めようもなく溢れ出す。猛烈な痛み。殺意にも似た自己嫌悪と圧倒的な怒りに打ちのめされそうだった。喉に鉛が詰まったかのような苦しみに、ナルシアは呻いた。
゛自分を信じて。″
遠い日の、言葉。守りきれなかった少女の願いは、果たせない約束のように胸に罪悪感を残している。
許せない。誰よりも、何よりも、自分自身を。
慟哭に、ナルシアの肩が激しく上下に揺れた。
その時、みじろぎと共に、机に置かれたものが落ちた。微かな音にナルシアは、ハッとして顔を上げた。
床に、衣服が散乱している。
ナルシアは、乱れた呼吸を抑えながら、それを拾おうと屈んだ。
指に、柔らかな布とは違う、張りのある感触が当たり、ナルシアは一瞬、不意を突かれた。紙の手触り。
その質感に、さっきハーブル法王からもらった手紙を思い出した。
「これは……」
ポケットから出てきた茶封筒。宛先はマグリー城になっているが、城館に届いたにしては、封蝋も施されていない粗末な手紙だった。ユーリス・アルティオ。差出人の名は書かれているが、ナルシアには全く覚えがなかった。
何故、ハーブル法王は、アーク・レイに届いたものを自分に渡したのだろうか。胸に、戸惑いが沸く。
大粒の雨に打たれたように濡れた頬を拭うと、便箋を取りだし、それを広げた。




