二 在り来りな展開を嫌いながら在り来りな展開を願う俺は馬鹿だ。
眠りについてからどれほどの時が経ったのだろう。そもそもこの場所に時は存在するのか。誰かの仮説によると過去・現在・未来は一直線に繋がっているのではなく、同時に存在しているらしい。歴史などあるかも怪しいこの場所には相応しい仮説かもしれない。死後という名の現実で煩わしい事をしたくなかった私は、これでもかというほど目を閉じた。ような気がする。頼れる時計は体内時計しかないのだから、時間の感覚など分かるはずがない。それに私は推理小説の賢い主人公のような脳は持ち合わせていないので、自ら時間を数え続けるなんてこともするはずがなかった。推理小説には必ず出口があり、解決の糸口が存在するが、この場所は常識が通用するような場所ではないはずだ。もし、自分が本当に探偵だったとして、今考察できることがあるとしたら、時間がどれだけ経過しようと景色はまるで変わらない、結局何かをしなければ来世に行くには到底難しいということくらいだ。正直、最悪の展開かつ一番想像しえた未来になってしまったと言えよう。ただ、何かをしなければいけないという状況になったことが最悪なだけであって、この展開自体に苦はない。生きていた頃と比べてしまえば、面白い方に値するではないか。生きていた頃の方が楽しくはあったが。あの時代の人々は、とにかく死に怯えとにかく永く生き延びたいという人と、人生に全く価値を感じず早く早く死にたいという人がいた。どの時代にもいるのかもしれないが、私は時代背景まで知っている程の知識は無く、時代が違う人の心情など分からないため、あの時代の人々のみ知っているということにする。あの時代の人々の心情を知っていることも傲慢かもしれないが。とかいう私は、死に怯えず、とはいえ人生に価値を感じ生きることに意味を見出しているというわけでもなく、面白い事、例えばハプニングや揉め事、世間を取り巻く噂、自分の身に降りかかる不幸を面白がっていただけで、ただなんとなく生きていただけだった気がする。そんな私も、何かを特別に大切にしていて、それのために命を削る覚悟すら持っていたような気がする。ふと、それを思い出そうとしたがどうしてもできなかった。心に穴が空くという感覚を思い出してしまった。何を原因にして穴が空いたのかも分からないが、この感覚には親しみがある。私は生きていた頃ずっと穴が空いているような可哀想な奴だったのか?まあいい。大切な事ならばそのうち思い出すだろうし、思い出さなければ大切な事ではないという事だ。
とにかく、この場所を探索しよう。ゲームのジャンルにあるRPGとやらを知っていればもっとスムーズだったのかもしれないが、ゲームなどやったことも無かったので、本当に手探り状態だ。まず、この段階で分かっていることとしては、私は奇妙な色の空間で浮いているような状態で、身体の感覚も特にないということから転生をしたというわけでもなく、ただ死後の謎の世界に放置されているということの3つだ。とにかく身体を動かそう。まず、始めに顔を動かしてみた。目の前の景色しか私は知らなかったので、後ろを見れば何かあるかもしれない。扉とか。思いっきり首を動かす。首は180°まで曲がるらしい。凄いな、死後は。動物に後退したみたいだ。他の動物を後退した存在と認知するのも間違っているのだろうな。首を曲げれたはいいものの、目の前の景色は期待したようなものではなかった。私はこの時点で、360°この空間に変な触れるものが一切ないことを理解した。まあいい。他にも分かったことがある。この空間はゼリー状の何かで敷き詰められているということだった。感覚の一切を失っているせいで気付くのが遅くなってしまったが、首を回したときにスカッとした感覚がなく、少し重かったことからなんとなく予想がついた。感覚がないことはこんなに面倒くさいのか。ゲームならば今後、どこかで段々と取り戻せるのかもしれないが、ここにそんな配慮の期待は難しい。身体を振り切り、泳ぐような形で空間を進んでみることにした。もしかしたら壁があるかもしれない。ゼリーの中を泳ぐなどしたことも無かったが、意外と才能があるのかもしれないな。私はひたすらにゼリーのような何かを掻き続けた。しばらく経った頃、声を掛けてみることにした。
「おーい、おい。あーー。俺はいるぞ。ここに。あーーーーーー。分かるか?いるか?いないか…そもそも。」
言葉は虚しく空振りをした。まあそういう日もあるさ。別にいくらあったっていい。なんせ、私には無限に時間があると信じているから。空間に壁があるという仮説も外れていそうだ。ただ、こうも何もないのは流石に疲れる。何もないのが一番疲れる。もういい。俺にどうしろっていうんだ。いいさ。俺をこんなところに放置した奴が悪い。そもそも奴がいるのか知らないが、とにかく悪いったら悪い。死後はもっと快適なはずだったろう?誰だこんなところに可哀想な俺を捨てたのは。いいさ。いいさ。不貞寝してやるさ。ずっと寝てやるからな。ずっと。ずっとだ。ずーっとだぞ。本当だぞ。じゃあな、よく分からない感覚よ。あばよ。次目が覚めた時は来世にしてくれ。




