第2話:女神のミスで俺は死んだ
彼女は女神のように見え、私にこう言った。
「それでは、天野カイトさん……というお名前で間違いありませんか?」
俺は何も言わず、ただうなずいた。
「とても申し上げにくいのですが……あなたは亡くなりました」
驚きはなかった。
自分に何が起こったのか、すでにわかっていたからだ。
俺は落ち着いて答えた。
「うん、知ってる」
彼女の目に、わずかな驚きが浮かんだ。
「えっ? ショックじゃないんですか? あなた、本当に死んでしまったんですよ!?」
俺の表情は変わらなかった。
「ただ一つ心残りなのは、大好きな漫画の最新巻を読めなかったことだな」
一瞬、沈黙が流れた。
そして、彼女は再び口を開いた。
「と、とにかく……私は女神セレネと申します。死者の魂を導き、本来行くべき場所へ送り届けるのが私の仕事です。そして……あなたがここにいるのは、私のミスが原因なんです。本当に申し訳ありません」
俺はすぐさま彼女の言葉を遮った。
「ちょっと待て。今、何て言った? ミス? それって、どういう意味だ?」
何が起きているのか理解しようと、俺は彼女をじっと見つめた。
セレネは人差し指の先同士をくっつけ、気まずそうな顔をした。
「えっとですね……本当は、寿命を迎えた別の男性の魂を回収するはずだったんです。でも、どういうわけか、私が彼のいるはずの場所にあなたがいて……その、間違えてあなたを死なせてしまったんです」
その言葉を聞いた瞬間、俺はすぐに問い詰めた。
「待て……つまり、俺はあんたのミスで死んだってことか? ということは、本当なら俺はまだ死ぬはずじゃなかったんだな?」
セレネは黙ってうなずいた。
その瞬間、妙な考えが頭をよぎった。
一瞬、靴を脱いで彼女の頭を思いきり叩いてやりたいと思った。
だが、そこで大切なことを思い出した。
今の俺は魂だ。
魂には靴なんてない。
つまり……俺には何もできなかった。
苛立ちを必死に抑えながら、俺は言った。
「だったら、今すぐ俺を元の世界に戻せ!」
セレネは俺から目をそらした。声も少し小さくなった。
「そ、それは無理なんです。病院では、すでにあなたの死亡が確認されています。今頃は、ほとんどの人に知らせが届いていると思います。それに……ご両親も、もう葬儀の準備を始めているんです。そんな状況であなたが突然生き返ったら、みんな驚いてしまいますし、ご家族にも迷惑がかかってしまいます」
俺は彼女の説明を聞き、眉をひそめた。
「うちの親が、ここまで行動が早いとは思わなかったな……って、ちょっと待て。さっき、俺が死んだことを知ったのはつい最近だって言わなかったか? じゃあ、それまで俺たちはここで何をしていたんだ? もっと早く俺を戻せばよかっただろ!」
セレネは再び顔をそらした。声はさらに小さくなった。
「ご、ごめんなさい……そこまで考えていませんでした」
俺の怒りは、ますます大きくなった。
「何年もこの仕事をしているくせに、そんなことすら思いつかなかったのか!?」
彼女は再び人差し指同士をくっつけた。
顔は恥ずかしさで真っ赤になっていた。
「そ、その……実は、私、この仕事に就いたばかりなんです。だから、まだあまり経験がなくて……。それに、もし上司の神様にこのことがバレたら……クビになっちゃいます!」
俺は腹が立って仕方がなかった。
それでも、はっきりと言った。
「わかった。だったら、お前の上にいる神様のところへ案内しろ」
セレネは、まるで雷に打たれたかのような反応を見せた。
椅子から飛び上がると、慌てて両手を合わせた。目には涙が浮かび、俺のところへ駆け寄ってくる。
「ま、待ってください……! お願いですから、それだけはやめてください! 何でもしますから……どうか上司には言わないでください!」
その瞬間、俺の目がキラリと光った。
俺はゆっくりと彼女の椅子まで歩いていき、どっしりと腰を下ろして背もたれに寄りかかった。
「よし、セレネ。それなら、俺を生き返らせる方法を考えろ」
セレネは涙を拭い、素早くうなずいた。
「そ、それなら一つ方法があります! あなたを転生させるのはどうでしょう? この世界でも、別の世界でも!」
その提案を聞いた瞬間、俺の目が輝いた。
だが、すぐに別の疑問が浮かんだ。
「転生……? それって、赤ん坊として生まれ変わるってことか?」
セレネはうなずいた。
彼女の顔に、わずかな希望が浮かんだ。
しかし、俺は首を横に振り、即座に却下した。
「嫌だ! そんなの全然楽しそうじゃない! 赤ん坊になったら、何もできないだろ! 大人になるまで何年も待たなきゃいけないなんて、冗談じゃない!」
少し考えてから、俺は別の質問をした。
「同じ体のまま、別の世界に送ることはできないのか? ほら、漫画やアニメみたいにさ!」
セレネはすぐに答えた。
「ですから、それは無理なんです。魂を別の体に移したり、新しい体に宿らせたりすることはできます。でも、あなたの元の体とまったく同じ姿の体を、一から作り出すことはできないんです」
俺はがっかりした顔で彼女を見た。
「じゃあ、お前ってかなり役に立たない女神なんだな」
「ち、違います! そんなことありません!」
セレネは慌てて叫んだ。
そして、少し考え込んだあと、再び口を開いた。
「待ってください……! もう一つ方法があります! 別の世界に、あなたとそっくりな姿で、年齢もほぼ同じくらいの人がいて、その人が今まさに死にかけているとしたら……その人の体に入ることができるんです!」
俺の目に、再び希望の光が宿った。
「それ、本当にできるのか?」
「はい!」
セレネはうなずいて答えた。
「別の世界にあなたとそっくりな人がいて、その人の命が尽きようとしているなら、その人の体にあなたの魂を送り込むことができます」
俺は少しだけ嬉しくなった。
だが、すぐに新たな疑問が浮かんだ。
「でも……そもそも、俺とそっくりな人間が死にかけている世界なんて、本当にあるのか?」
セレネは優しく微笑んだ。
「宇宙は無限に広がっています。そこには数えきれないほどの世界が存在しているんです。その中には、あなたとまったく同じ姿をした人が、今まさに命を落とそうとしている世界も、きっといくつかあるはずです。ですから……そのうちの一つにあなたを送ってみましょうか?」
俺は手を上げて、彼女を制した。
「待て。今にも死にそうな人間の体に入るんだろ? こっちだって自分の身の安全を考えなきゃならない。それに、転生先の世界が自分に合っているかどうかも重要だ。だから……まずはお試しで行かせてくれ。その世界が気に入れば、そこに残る。気に入らなければ、ここに戻してくれ」
セレネの眉がピクリと動いた。
「行きたいなら勝手に行けばいいじゃないですか! そうじゃないなら、ここで朽ち果ててください!」
俺は冷静に、はっきりと答えた。
「だったらいい。お前の上司……最高神と話をさせてもらおう」
セレネの表情が一瞬で変わった。
彼女は慌てて両手を合わせた。
「だ、ダメです! 待ってください! わかりました、わかりましたから! お試しで行きたいんですよね? それなら、お試しで行かせてあげます! 準備してください。あなたが最初の世界を訪れる時間です!」
こうして――
俺の異世界への旅が始まった。
あとは、自分がのんびりと快適に暮らせる世界を見つけるだけだ。
つづく……




