第13話:パーティーの新メンバー――アルファ
彼女が歩み寄ってきた時、俺はその姿をまじまじと見つめた。
深い緑色の長いローブを纏い、縁には銀色の精緻な刺繍が施されている。髪は艶やかな紫色で、一本の長い三つ編みに結ばれていた。瞳も同じく紫色で、まるで獲物を狙う鷹のように鋭い。背中には矢筒を背負い、手には自分の身長よりも長い巨大な長弓を携えていた。
彼女は転がっている猪の王の巨骸を一瞥し、それから俺たちへと冷たい視線を向け、その表情を険しく引き締めた。
「魔力矢が三本」と、彼女は言った。
その声は冷徹で、まるで裁判官の判決のように凛と響いた。
「三本よ。魔力矢が。一本につき五十ニッケルもするの。つまり私は今日、あんたたちみたいな愚か者を助けるために百五十ニッケルもドブに捨てたってわけ」
俺が口を開きかけた瞬間、彼女は手のひらをスッと立てて制止した。
「あんた、誰?」
「お、俺は天野海斗……」
「カードを見せなさい」
俺は震える手で冒険者カードを取り出した。彼女はそれを一瞥する。
「Fランクね」彼女はカードを突き返すように俺の手に戻した。「で、そっちのあんたは?」
ルルミは耳をペタリと伏せたまま、恐る恐る自分のカードを差し出した。
「Eランクか」
「そしてあんたたち二人はDランクのクエストを受けた。その上、戦闘中にキングタスカー――最低でもBランク相当の魔物を刺激したってわけね。一体誰にそんな無茶苦茶を教わったの?」
「そ、それは……別にわざとじゃなくて……」
「わざとじゃない?」彼女は片眉をつり上げた。「で、どんな作戦だったわけ? 猪の前に立って神に祈りでも捧げるつもりだったの?」
俺は言葉に詰まり、ルルミは申し訳なさそうに俯いた。
肩に背負った剣から、小声の囁きが届いた。
(カイト、この女ものすごく嫌味ったらしいけど、言ってることは一言一句正しいわよ)
俺は深く息を吸い込んだ。
そして次の瞬間、自分でも思いもよらなかった行動に出た。
俺はその場に両膝をついた。
「命を助けていただき、本当にありがとうございました! 心から感謝いたします!」
俺は地面に額を擦りつけるように頭を下げた。
その隣で、ルルミも尻尾をペタッと地面につけて同じように土下座した。
「あたしもニャ! 本当に、本当にありがとうニャ! あんたがいなかったら、あたしたち二人とも死んでたニャ! あの矢、すっごく綺麗だった!」
一瞬、その場の空気が凍りついた。
俺は盗み見るように顔を上げた。
弓使いの少女は眉を上げたまま立っていた。その紫の瞳に優しさはなかったが、口元が微かに得意げに吊り上がり、甘美なものでも味わっているような満足げな表情を浮かべていた。
「……ふん」
彼女は少し誇らしげに顎を上げた。
「まあいいわ。少なくともあんたたち、Bランク冒険者に対する弁えだけはあるみたいね。それは良い心がけよ」
背中でリッカが呆れたように囁いた。
(この女、全身プライドの塊ね)
「黙ってろ」俺は小声で返した。
「立ちなさい」弓使いが命じた。
俺たちは立ち上がった。
「私の名前はアルファ。Bランクの狩人よ」
「アルファ……」俺は復唱した。
「いい名前だってことは自分で分かってるから。いいから黙って聞きなさい」彼女は胸の前で腕を組んだ。「あんたたち二人、放っておいたら明日にはどこかの崖底で野垂れ死んでるのがオチよ。そうなったら、私がせっかく助けた命が無駄になるじゃない。そんなの絶対に許せないわ」
「あの、恐縮ですが……一体何が言いたいんでしょうか?」俺は慎重に尋ねた。
「あんたたちのパーティーに入ってあげるって言ってるのよ」
「ええっ?!」俺とルルミの声が重なった。
「ただし、リーダーは私よ」
「いや、でもリーダーは俺が……」
「あんたはFランクでしょ」
「……まあ、そうですけど」
「猫、あんたはEランク」
「ニャ! そうニャ!」
「そして私はBランク。単純な算数よね」アルファは一本の矢を引き抜くと、指先でその鏃の鋭さを確かめた。「あんたたちは私が命令することだけに従えばいいの。質問も口答えも一切なしよ」
「でも……」俺は食い下がろうとした。
「それと剣士、あんたは私の言うことに絶対服従よ。嫌ならこのパーティーにあんたの居場所はないわ」
「おい、これ元々は俺のパーティーだぞ!」
「『だった』でしょ」
耳元でリッカの押し殺した笑い声が響いた。
(カイト、あんた今、自分のパーティーから追い出されたわね)
「分かってるよ!」
ルルミが俺の袖を引っ張り、興奮気味に囁いた。「カイト、三人目の仲間ニャ! これで三人! しかも矢を撃てるニャ!」
「あいつ、俺たちに威張り散らす気満々だぞ」
「ニャ! あたし命令されるの好きニャ!」
「お前、人の言うことなんか一度も聞いたことないだろ!」
「聞くニャ! だいたいは!」
アルファは呆れたように俺たちを見下ろし、首を振って言った。
「ほら、さっさとその牙を回収しなさい。王の牙もよ、あっちは別枠で高値がつくから。報酬の分配はギルドに着いてから決めるわ」
「分配?」俺は聞き返した。「でも、クエストを受けたのは俺たちだし……」
「そしてあの王を仕留めたのは私よ」アルファは冷笑を浮かべた。「私は魔力矢を三本も消費したの。まさかそのFランクのポケットに報酬の全額が転がり込むとでも思ってたの?」
俺が言い返そうとした瞬間、ルルミが俺の手をぎゅっと握って制止した。
「カイト」彼女は囁いた。「怒らせちゃダメニャ。あたし、あの矢すっごく気に入ったんだから」
俺は空を仰いだ。
(セレネ、お前どっかからこれ見て笑ってんだろ……?)
◆ ◆ ◆
猪の牙八対と、王の巨大な牙を一本回収し、俺たちは森を後にした。
アルファが先頭を歩き、肩には長弓、一歩進むごとに紫の三つ編みが揺れている。ルルミはその真後ろをピョンピョンと跳ねながらついて行き、ひっきりなしに話しかけていた。「矢ってどうやって射るニャ? 教えて! ううん待って、あたし自分で覚える! あんたの三つ編み、すっごく可愛いニャ!」
「うるさいわよ、猫」
「ニャ!」
俺は最後尾をとぼとぼと歩いていた。胸にはまだ鈍い痛みが残り、手は微かに震えている。
背中から、リッカが静かに声をかけてきた。
「カイト」
「ん?」
「今日、あんた結構勇敢だったじゃない」
「死ぬほど怖かったよ」
「でも、ルルミの前に飛び出したでしょ」
俺は一瞬だけ黙り込んだ。
「あいつは……俺の仲間だからな」と、俺はやっとの思いで言った。
「へえ? さっきまで『あたしたちは仲間じゃない』って言ってたくせに」
「それはそれ、これはこれだ」
リッカは微かに笑い、その刀身の温もりが背中にじんわりと伝わってきた。
前方で、アルファが唐突に足を止めて振り返った。
「ちょっと、剣士!」
「はい?」
「早く歩きなさい! 日が暮れる前にギルドに着いて換金するわよ!」
「今行きます!」
俺は小走りで二人に追いついた。
今の俺のパーティーには、言うことを聞かない猫耳娘と、拗ねてばかりの喋る剣と、パーティー全体を支配する横暴な弓使いがいる。
そしてリーダーは俺だ。
……いや。リーダーは俺じゃなかった。
俺は天を仰いで深いため息をつき、俺たち四人はマルカスの街へ向かって歩き続けた。




