第216話『気心が知れている関係』
「っふふ……!ホット酷いなー」
「ユイガごめんユイガごめん!」
「先にしね先にしね」
「コルァ!討伐しろォ!」
――クソッ!一番火力出せる俺がやんねぇと……!
ナキはパーティで最も攻撃力の高い両刃斧を構え、オーアンズーの鋭い爪を受け止めた。さらに仲間がつけた傷口を狙い、追撃を重ねてダメージを稼いでいく。
『キェェェェ!』
「は!? ワンパンでこの火力かよ!」
しかし怪鳥の咆哮と共に衝撃波が放たれ、自身の体力が大きく削られてしまった。
「全体(攻撃)来るよ!」
「ちょっ近……!」
「マズい直で喰らったっ……!」
続けざまにオーアンズーが翼を広げる。刃物のように鋭い白い羽毛が全方位へと飛び散り、テディたちのHPをさらに削り取っていった。
「回復薬使う暇ねぇ……!」
ナキが目まぐるしく減っていく体力ゲージに焦りを見せたその時。青白い雷を纏うかぎ爪が、彼を狙って容赦なく振り下ろされた。
『バチバチバチッ!ドガァン!』
「は!?嘘!?」
『ハーシュ』では怪物の討伐中に一度戦闘不能になると、パーティ全員が全滅するまで復活することができない。
「あぁナキいかれた!」
「……!」
ホットとユイガがナキの戦闘不能を覚悟したが――
「いや……まだだよ!」
――それより先にテディが弓を引き、白く輝く矢を放った。
「……あ!?HPが回復してるだと!?」
すると瀕死だったナキの体力ゲージが、みるみるうちに回復していく。彼の背中にはテディの矢が刺さっていた。
「念の為、回復の矢を持っておいてよかった……」
「マジかナイス!」
「でもなるたけ回復薬も飲んでね!」
「テディ俺も回復ー!」
「言った傍から!?もぉー!」
「やっぱハーシュでもテディだけが頼り……!」
テディは攻撃用の矢と回復用の矢を巧みに使い分け、仲間たちの戦闘をサポートしていく。
攻撃役の三人とサポート役のテディが互いに連携し、オーアンズーの体にどんどんダメージを蓄積させていった。
「こっち来ないでー!」
「コイツ全然転倒しねぇ!」
するとオーアンズーは全身を強く発光させ、ホットとナキに目くらましを仕掛けた。
「うわっ!」
「ぐっ!」
咄嗟に顔を背けるも間に合わず、二人は眩い光を浴びて麻痺状態に陥ってしまう。
「普通のオーアンズーなら俺一人で倒したんだけど……」
双剣でオーアンズーに猛攻を浴びせながら、ユイガがぽつりと呟く。
「今その時の七十倍楽しい」
「皆でやってるから?」
「うん。別に一人でも十分楽しいけど」
「「ユイガ……」」
「しみじみしてんのは後にしろ!もう足引きずってんぞ!」
感動に目を潤ませて喜ぶテディとホットに向かって、ナキの鋭いツッコミが飛ぶ。
こうして四人は激しい攻防の末、二十分もの時間をかけて色違いのオーアンズーをどうにか討伐したのだった。
☆彡
色違いオーアンズーとの邂逅という、撮れ高満載のハプニングこそあったものの――裏ボスの討伐自体は問題なく完了した。
その一件をテディから聞いたシェンは、紫煙をくゆらせながら呟く。
「ホットほんま運えーな……。それはそれとしてハンバーガー食いてぇ」
「うわ出た」
シェンは時折こうして自我を出し、食べたいものをリクエストしてくることがある。
ネットで取り寄せられる商品ならまだいい。そうでない場合はテディがその都度作るか、買いに走るかの二択を迫られるのだ。
「マークピエロの照り焼きチキンバーガーとポテト食いてぇ……が」
「え?」
「ちょっと検証したいことあるけぇホットも追加で」
「え……あーホットコーヒーじゃなくて犬のホットの方か。セットメニューみたいに言わないでよ」
――どうせロクなことじゃないな……。
テディは静かに溜息を吐くと、了承して寝る支度を始めた。
「――てなワケで。放課後シェンとマークピエロ行こう」
「今日からテスト週間だけどいいの?」
「いいでしょ初日くらい」
金曜日の昼休み。糸哉、敦斗、幸樹の三人は空き教室の扇風機をつけて密会していた。
「……マークピエロくらい出前で頼めばいいだろ」
「それには激しく同意なんだけどねー。シェンにも譲れない食のこだわりってのがあるらしいよ」
「……!」
「なにそれ」
『食のこだわり』というワードに幸樹がピクリと反応する。対して敦斗は怪訝そうに首を傾げた。
「マークピエロと言えばハンバーガーとフライドポテト……シェンはどっちも好きだけど、どちらかと言えばポテトの方が好きみたい」
「へー」
「冷めたフライドポテトほどマズいものは……あるけど、なるべくポテトはデリバリーじゃなくて店内ですぐ食べたいんだって」
「……そのこだわりは納得できる」
「あ、幸樹分かってくれた?」
揚げたてのフライドポテトは、時間が経つにつれて食感が変化する。
表面のカリッとした食感は失われ――全体がしんなりとし、口当たりもどこかパサついたものになってしまう。
さらにデリバリーやテイクアウトでは、袋を閉じて持ち運ぶことによって、揚げたてのポテトから立ち上る湯気が袋の中にこもる。
やがてその湯気が冷えて水滴となり、せっかくカリカリに揚がったポテトに再び吸収されてしまうのだ。
「シェンはそんな残念なポテトを食べなきゃいけないことが何より嫌なんだって」
「へー。あぁ俺……まだ冷めたフライドポテトって食べたことないわ」
「俺も」
「揚げてから時間が経ったちょい冷めのポテトも許せない。温かくても、水分を吸ってしなしなになったポテトも許せない……だからヤニカス引きこもりおじさんのシェンも、マークピエロだけは店内で食べるんだ!好物のフライドポテトを最高の状態で味わうために!」
「ぶはっ!ヤ、ヤニカス引きこもりおじさん……」
「後で裁かれても知らねーぞ」
このタイミングで糸哉のスマホにメッセージアプリの通知が届いたが、彼は気づかないフリをした。
「基本平日の店が空いてる時間に一人で行ってるらしいんだけど、今回は『奢るから僕たちと一緒に食べよう』だって」
「やったー!」
「どういう風の吹きまわしだ?」
「僕もそう思うけど……まぁ後で教えてくれるよ」
そして下校時刻。幸樹は徒歩、糸哉と敦斗は自転車を押しながら歩いていた。
すると、幸樹の家の前に一台の個人タクシーが停まっているのが目に入る。
「よお」
「ちゃんとシェンが上座かい……僕じゃあ助手席いこ」
「こんにちは!熊本さんと犬飼さんと服部さんですね!隠者の弟子からのご依頼で、お迎えに上がりました!」
「隠……なんて?」
「俺の別名。聞き流せ」
「ホットそのくだりもうやった」
糸哉が助手席に、シェン、敦斗、幸樹が後部座席に座る。ドアが閉まる音を合図に、個人タクシー『スフィンクス』の運転手である千車が溌剌とした笑顔を四人に向けた。
「本日も安全運転で爆走いたしますよー!それでは……ものごっつAパワーでー!出発進行!」
「うおー!」
こうして『スフィンクス』は、あっと言う間に糸哉たちの地元から少し離れた場所へ到着した。
「――それでは!終わったら大声で呼んでくださいねー!」
「はーい」
「ありがとうございます!」
車内で待機する千車に見送られ、糸哉と敦斗は手を振って彼女と別れる。
世界最大のファーストフードチェーン店『マークピエロ』の駐車場付き二階建て店舗にて。四人は到着するなり、人目につきにくい席を確保した。
「それでも近くの席にいるのはお茶してるお婆ちゃんグループ……。こっちに百パー興味ないのが分かってて一番安心できるね」
「ここ穴場なんよ。席数多くて客の年齢層高めじゃけぇ」
「別に駅前のマークピエロでもよくない?」
「あんなうるせぇとこでメシ食えるか。それに注文した後あんま待ちたくねぇ」
「タバコ吸えないからじゃなかったんだな」
「……別に一時間くらい我慢できるわ。舐めんな」
そう言うシェンの目は明らかに泳いでいたが、三人はあえて何も言わなかった。
「シェンが外出ないのって、ネットから離れるとただのヤニカスおじさんになるからじゃないんだ」
「敦斗、幸樹。シェンは貧弱ガチ陰キャさんなんだよ。外は危険がいっぱいで怖いからねー」
「オメーら後で覚えとけ」
シェンは遠慮のない中学生三人を軽く睨むと、自分のスマホを糸哉に差し出す。
「え……ああ」
モバイルオーダーの画面を見た糸哉はすぐ席を立ち、カウンターまで注文した品を取りに向かった。
「今日オメーらを呼んだのは他でもねぇ……ちょっと俺の検証に付き合ってくれ」
「それホントにどういうこと?」
「テディにもそれしか言ってなかったんだろ」
怪訝な顔をする二人にシェンは無言で返す。ほどなくして、トレーを手にした糸哉が戻ってきた。
「僕もまだよく分かってないんだけど……これも検証の一環?」
「まずは食ってみ」
シェンに促され、糸哉たちはフライドポテトのSサイズを一本ずつ口にした。
モバイルオーダーとは――利用客が自身のスマートフォンやタブレットを使って、飲食店のメニューを閲覧・注文・決済までを自分で行える仕組みのこと。




