幕間
「あなたが救えるのは命じゃない」
だからあの時、助けを求められたのは三蔵だった。
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袈裟を身に付けた少年と見間違えられそうな少女が、鬱蒼と茂る木々の間を足をもつれさせながら一人ひた走っていた。昇る月の光よりも顔色を青白くさせ、今にも倒れそうなその少女こそが望まれた玄奘三蔵だ。足が萎えそうになってよろける度に、三蔵の身を支えるかのように手首に嵌められた腕輪から、しゃらんと涼やかな音が鳴る。
(助けなきゃ)
涙が滲む眦に力を込め、ぼやけそうになる視界をどうにか押し留めた。
「……助けなきゃ」
擦りきれるような声がこぼれた。
「助けなきゃ助けなきゃ助けなきゃ」
繰り返されるのは、うわ言だ。
彼女は、彼女自身に言い聞かせるために、出来ないと分かりきっていることをただ繰り返す。そうしなければ、保てないものがあった。
「助けなきゃ」
見捨てたわけではない。助けたい。助けなきゃ。できない。
「助けなきゃ」
助けたい。できない。
「助けなきゃ」
覚束ない足下に踏めば消えるような月明かりが絡みついては、茂みに捕らわれそうになる足を救って進ませる。まるで導かれるように。
(なんで?)
なんで私なんだ。
一人になっても歩みを止めることは出来ない。進まなければ。望まれた。望まれている。
救済を。救いを。助けを。
三蔵は強く奥歯を噛みしめた。ずきりとこめかみに痛みが走る。
(助けられない、のに?)
大事な人を一人すら。
何かを救えるというのなら、世界よりも人がよかった。




