第6話【幻の攻略者】
前回、 Sランク攻略者のフローガと雷と共にSランクの次元迷宮に入った清火は新たに手に入れた三つの能力を発動させようとしていた。
「二人は前をよろしく……私は世話の焼ける攻略者達を援護するから」
「おう、 任せとけ! 」
「了解です……」
さて……早速新しい能力を使ってみるかな……
そして清火は片手に禍々しいオーラを纏った真っ黒な鎖を出現させた。
「な……何だその鎖……まるでさっきのスケルトンの持ってたやつじゃねぇか……」
「正にそれですよ……」
清火の一つ目の能力、 憎悪のオーラを纏った魔法の鎖を出現させ、 自由に操る能力。
これは先程清火達が出会ったスケルトンの上位種であろう黒く巨大な体を持ったキングスケルトンが持っていた能力である。
「……フッ! ! 」
清火は大鎌を取り出し、 持ち手部分を鎖で巻き付けて勢いよく投げ飛ばした。
すると鎌は回転しながら次々と魔物の狼達の体をバラバラにしていった。
武器を手放したと判断した何体かの狼が茂みから飛び出し、 清火に襲い掛かってきた。
「あ、 危ねぇ! 」
「……」
次の瞬間、 フローガが助けに入る前に清火は鎖を力強く引き大鎌を引き寄せ、 自身の周りに球体を作るように鎖で覆い、 そこから鎌を飛ばした。
襲い掛かってきた狼達は一瞬にして飛んできた鎌に巻き込まれ、 バラバラに斬り刻まれてしまった。
……これが一つ目の能力……名付けて憎悪の鎖……
鎖は清火の意思に呼応するようにあらゆる形を作り出し、 攻撃と防御の二つの役割を持つのだ。
「フローガさん、 周りにいる奴らは頼みますよ……私は前にいる奴らを片付けます」
「お、 おう! 任せとけ! 」
そしてフローガは清火に襲い掛かろうとする狼達を倒しに行った。
……さて……一つ目の試運転はこれで良しとして……もう二つを一気に使うか……
すると清火は鎌と鎖を戻し、 黒月を片手に出した。
一つ目の能力は結構地味だけど……もう一つと組み合わせれば意外と使えそうなんだよね……
「電気を武器に流し込むことを意識して……」
そう呟きながら清火は黒月の銃口を前にいる狼達の群れに向けると……
『……ジジッ……バチッ! 』
黒月に描かれているラインが青に変わり、 黒月本体に稲妻が走り始めた。
そして清火は引き金を引くと……
『ドガゥンッ! ! 』
雷が落ちたかのような激しい発砲音と共に弾が凄まじい速さで飛ばされた。
その弾丸は普通の弾丸よりも段違いな速さで飛んでいく。
これが二つ目の能力……そして……
弾丸が一体の狼の頭を貫き、 そのまま飛んでいこうとした瞬間……
『バキュッ! ガガガガガガガガガガッ! ! 』
弾丸は見えない壁に当たったかのように反射し、 一瞬にして全ての狼の頭を貫いてしまった。
これが三つ目の能力……周囲に目に見えない魔力の壁を出現させる能力……この二つは同じ魔物から手に入れた能力……
そう、 この二つの能力は同じ魔物が持っていた能力である。
確か電気を纏った大きなネズミみたいな魔物だったけど……何ていう魔物かは分からなかったな……あいつは自分の体をボールみたいに丸めて超高速で突っ込んでくるのに加えて見えない壁に反射して色んな方向から飛んでくるから結構面倒だった……しかも群れで襲って来るし……
「ま……今じゃ私の物か……」
そして清火は黒月をしまった。
「おぉい、 終わったぞ! 」
「こっちもやっと片付いたわ、 全く世話が焼ける……」
清火の作業が終わると同時にフローガと雷が戻ってきた。
……負傷者は十数名……まぁこれだけ戦闘が連続して続けば当たり前か……
するとフローガは迷宮の上空を見上げた。
「うーん……そろそろ暗くなりそうだな……」
「ん……? 」
清火も空を見上げると辺りは夕暮れのような空模様になっていた。
へぇ……Sランクの次元迷宮には朝昼晩の概念があるのか……普通の迷宮じゃずっと昼間か夜中だもんなぁ……
「ここら辺で野宿しましょう。 魔物達は寄ってこないだろうし」
「戻らないんですか? 」
「戻るのは危険すぎる、 それにまたここに戻れる保証だってねぇんだ……Sランクの迷宮は地形が大きく変わることだってあるんだ」
「なるほど……」
そして清火達はその日は次元迷宮にて野宿することにした。
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夜、 テントを張った清火達はその中で休息を取っていた。
清火とフローガ、 雷はテント外の焚火を囲って話をしていた。
「……」
清火だけは黙って辺りの気配に気を配っていた。
「そんな警戒しなくても魔物どもは寄って来ねぇよ」
「ここにいる奴らは間抜けではない……強者がいる所にわざわざ襲いに来るような真似はしないわよ……」
そんなこと言っておきながら雷さんも刀を肌身離さず持ってるじゃん……
清火がそんなことを考えていると
「なぁ、 そういやぁお前さんはどうして攻略者になろうと思ったんだ? 」
フローガが突然清火に質問をしてきた。
「あ、 私も気になってた! 」
「え……」
理由か……そんなの無いんだけどなぁ……まぁ、 強いて言うなら……
「……家族に……会いたくて……」
「えっ、 家族って……どんな人だったんだ? 」
「私の家族……お父さんとお母さんしかいなかったけど……二人はとても強い攻略者だったの……昔聞いた叔父の話では二人は幻のZランクの攻略者だったらしいけど……私が幼い時に二人は行方不明になっちゃって……よく知らないの……それに叔父から話を聞いた時は叔父は酷く酔ってたみたいだし……」
するとフローガと雷は驚いたような表情を見せた。
「まさか、 Zランクって……」
「もしかしてあの二人なんじゃ……」
「え、 何か知っているんですか? 」
「いやぁ……確証はねぇんだが……今から10年くらい前に行方不明になった最強の攻略者がいたって噂があるんだよ……」
「その二人は今までに無いほどの難易度の次元迷宮を見事攻略したんだけど……何故かコアも見つかってないのに勝手に入り口が閉じてしまったの……それ以降その二人は死亡者扱いになってる……」
ネットでもそんな都市伝説みたいのがあったなぁ……でもそんな二人の間から生まれる子供なんて元から強いに決まってるし……それに財力だってあったはず……私に残された遺産はどこの家庭とも変わらないくらいだったみたいだし……正直その二人が私の両親だなんて……やっぱり昔聞いた叔父さんの話はただの酔っぱらった勢いで言ったデタラメか……
清火は以前からそういった話は耳にしていたが気にも留めていなかった。
「……ちなみにその二人の名前って分かります? 」
すると雷が答えた。
「噂から聞いたニックネームだけど……二人の名前は……」
「『イージス』と『ザヴァラム』……」
……やっぱりニックネームだけじゃ分からないか……本名なら叔母さんから聞いてるんだけど……
するとフローガはイージスとザヴァラムの話をした。
「これも噂なんだが、 イージスはたった一本の剣で何万というドラゴン級の魔物を一瞬で全滅させる程の力を持っていてよ……それに加えてザヴァラムは女性ながら両手に一本ずつ巨大な剣を持って振り回す程の怪力を持っていたらしいぜ? 」
「へぇ……流石Zランクと言われるだけの規格外な強さを持っているんですね……」
「まぁ……あくまで噂だけどな……今はいない存在だし確かめようもないしな……」
すると雷は大きなあくびをした。
「……もう寝ましょう……明日も戦闘が激化するだろうし……私は先に寝るわね……」
そう言って雷は自分のテントに戻った。
「何か一方的な質問になっちまって済まなかったな……俺達もそろそろ寝るか」
「お気になさらず……じゃ……また明日」
そして清火とフローガもテントに戻った。
清火が自分のテントに入る瞬間、 フローガが声を掛けた。
「そうだ、 俺が攻略者になった理由はよ……」
「……」
「この世界を守りたかったからだぜ! 」
それを聞いた清火は何も言わずに微笑み返した。
……フローガさん……単純な人だけど、 とてもいい人……
そんなことを思いながら清火はテントに入った。
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Sランク次元迷宮、 第40階層……
四日程の野宿を繰り返しながら清火達はボス部屋の扉前まで来た。
「一応ここまで無事に来れたな……いよいよボス部屋だ」
Sランク次元迷宮のボス……一体どんな化け物が出てくるのか……流石に危険だということで私達三人以外の攻略者達には素材を持って帰還してもらったけど……一体どんな戦いになるのか……
そして清火達は巨大な大理石で出来たボス部屋の扉を開けた。
すると次の瞬間、 清火とフローガ、 雷は謎の光に包まれた。
「な、 何っ! ? 」
「前が見えん! 」
しばらくして光が収まるとそこは不思議な空間になっていた。
清火達が開けた扉も無くなっており、 辺りには宇宙空間のような景色が広がっていた。
「これは……空間操作系の魔法だな……かなり強力だ……」
「どうやら閉じ込められたって事らしいわね……」
「……」
清火達が立っている場所は円形に切り取られたような白く光る板状の床で、 その周囲には神殿のような白く光る柱で囲われていた。
……下から来る……!
清火が気配を感じた瞬間、 床の外側の下から巨大な何かが飛び出してきた。
「……あれがSランクの次元迷宮の……ボス……! 」
清火達の前に現れたのはこれまでとは比べ物にならない程に巨大なドラゴンのような魔物だった。
その姿は神々しく不気味で、 背中には六つもの純白の巨大な天使の翼が生えており、 体を覆う鱗はダイヤモンドのように白く輝き、 鱗の間からは赤い光が漏れている。
清火達を見つめる瞳は黄金に輝いており、 口は鳥のように鋭く尖っている。
「……凄まじい覇気……今にも押しつぶされそう……」
「これならもっと応援を呼ぶべきだったなぁ……」
「二人とも……話してる余裕は無さそうですよ……」
すると謎の魔物は空気を揺るがす程の大きな鳴き声を上げ、 何かを仕掛けてきた。
次の瞬間、 辺りの空間が凍り付いたように静寂に包まれた。
それと同時に清火達の体も動かなくなってしまったのだ。
「な……何だ……これ……体が全然動かせない……! 」
「何をされたの……! ? 」
「……」
これは……
フローガと雷が焦る中、 清火は冷静に状況を分析した。
すると謎の魔物は次に自身の周囲に鋭く尖った光る岩をいくつも出現させ、 清火達に向けて飛ばしてきた。
しかし岩は清火達の目の前で止まった。
「……なるほど……これは時間を止めているみたいですね……」
「そ……そんなのありか! ? 」
「Sランクの次元迷宮は本当に何でもありね……」
時間は止まっているけど私達の会話はできるみたい……にしても早速やばい状況ね……
そして謎の魔物は再び鳴き声を上げると二人の体が動くようになり、 それと同時にあの岩も一斉に襲い掛かってきた。
「二人とも伏せて! ! 」
雷がそう叫ぶと刀を構えた。
次の瞬間、 飛んできた岩は一瞬にしてバラバラに斬り刻まれた。
「……間に合った……抜刀術が得意で助かった……」
「流石雷さんですね……」
あわよくば黒月の早撃ちで撃ち落とせたんだけど……雷さんの方が速かったか……
「しかしどうやって倒すよ……あんな化け物……時間を止められちゃ手も足も出ないぜ? 」
「いや……そうでもないみたいですよ……」
そう言って清火は黒月を謎の魔物に向かって撃った。
すると謎の魔物はバリアのようなものを出現させ、 弾を防いだ。
「時間を止めなかった……? 」
「どうやら連続して使うことはできないみたいです……まだチャンスはあります」
「そうか! そうとなれば反撃開始だ! 」
そして清火達は戦闘態勢に入った。
続く……