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第14章:森の戦い

 私達はプロワズの森で2日間を過ごした。


 いよいよ戦いの火蓋が切られる日だけど悪戯に時を過ごした訳じゃないよ。


 アグヌス・デイ騎士団の動向をシパクリが放った鷲の戦士達から逐次、情報を得て準備を勤しんだのさ。


 そして鷲の戦士達の情報によればアグヌス・デイ騎士団は私達が待ち伏せしているプロワズの森の直ぐ側にある道を通るという。


 今の時間は朝の4時で奴等が来るのは2時間後らしい。


 一方で買い手の奴隷商人は私兵150人を連れて先に取り引きする場所に到着したらしい。


 奴隷商人を調べたのはメルセデス殿の率いる騎士団所属のダニだった。


 これを聞いて私は当初の予定通り奴等も叩くのが良いと決めた。


 それにメルセデス殿達も了承してくれたから後は全力で叩くだけだ。


 だけど今は・・・・間もなく来るアグヌス・デイ騎士団を一人も残さず倒すのが先だ。


 「先頭を先に足止めして次に最後尾を叩くのは問題ないな」


 私は地図を見ながら作戦を一人で再確認した。


 「それで良い。奴等の一人でも逃がすと直ぐ知られるからな」


 フランツが煙草をくゆらせながら私の隣に立って相槌を打ってきた。


 「それから馬車を奪取して奴隷商人達の所に行き倒すけど・・・・大丈夫かい?」


 「同じ釜の飯を食べたが仲良しだった訳じゃねぇ。何せ俺は“はみ出し者”だったから色々と嫌がらせを受けた」

 

 だから遠慮しないとフランツは言い、アグヌス・デイ騎士団が来る方角を見た。


 「あいつ等は黴が生えた騎士団さ。それこそ腹痛で死ぬ位に黴が生えているんだ」


 そういう「パン」はさっさと処分するに限るとフランツは言い、その言葉に私も頷いた。


 「パンを例にする辺り・・・・長かったんだね?」


 「2~3歳の頃に引き取られたからな。しかし・・・・ただの一度も奴等を家族と思った事は無いぜ」


 奴等は共通の信仰を持っているから家族と称したが・・・・フランツは鼻で笑った。


 「さしずめ三下悪魔のような騙し文句なのは直ぐ解ったからな」


 本当の家族なら目の前で苦しんでいれば手を伸ばし、出来る限りの手を尽くすとフランツは言った。


 「だが奴等は目の前で苦しんでいる味方より襲った集落の食い物、金、そして女に夢中だった」


 そして助かる見込みはあるが手の掛かると判断した仲間達をその場で処断するのが常だったとフランツは語った。


 しかし、それを止める事が出来なかった自分を憎んでいると表情を見て私は察した。


 舞う風の言う通り・・・・彼は自分の罪に苦しんでいると漸く私は悟った。


 ただ何も言わずフランツの語りに耳を傾けた。


 「俺も奴等と同じ穴の狢だが・・・・あの聖女と出会って思ったぜ」


 自分も・・・・やり直す機会があるのではないか? 


 「彼女と暮らせば自由になれると・・・・な。しかし、奴等のせいで滅茶苦茶だ」


 この借りは万倍にして返さないと気が済まないとフランツは言う事で・・・・背後から来たメルセデス殿に自分の胸中を知られないようにした。


 「ハインリッヒ殿。作戦に変更はありますか?」


 メルセデス殿は静かな口調で私に尋ねてきて私は首を横に振った。


 「いえ。それより間もなく敵は来ますが大丈夫ですか?」


 「はい。大丈夫です。貴方の同僚達が歌った事で部下達の士気は高いです」


 「それなら良いです。では・・・・最終確認をしましょう」


 私とフランツ、そしてメルセデス殿は皆の所へ行き自分達が命を預ける「恋人」の最終点検をした。

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 午前6時2分・・・・・・・・


 プロワズの森周辺は深い霧に覆われ始めたけど私達の居る方はまだ浅い。


 そんな森の中で私は家族である青い月に跨がりジッとしていた。


 少し離れた位置にはヒルドルブから離して砲口を道に定める「サブレウ75㎜野砲」があって同僚が2人いる。


 反対側には「多段連装砲カイレグ」と「ラオホ・カノーネ多連装ロケット砲」があって、それにも同僚が居る。


 そして私の背後にはフランツ達が居て、反対側の森にはメルセデス殿達とシパクリ達が居る。


 皆、息を殺してアグヌス・デイ騎士団が来るのを待ち続けていると・・・・音が聞こえてきた。


 鎧と剣がぶつかる音・・・・馬の蹄の音・・・・投石機を引き摺る音・・・・歩兵達の足音・・・・


 そして馬車の音が聞こえてきた。


 やがて深い霧の中から奴等は姿を見せた。


 鷲の戦士達がもたらした情報通りの布陣だ。


 先頭を馬に乗った15人の騎士と20人の従者が進んでいる。


 騎士達は踵丈まである一昔前のサーコートを着て、そこに自分達が属する騎士団の紋章を盾と一緒に描いていた。


 黄金に染められた羊が一匹だけ描かれた紋章がアグヌス・デイ騎士団の紋章なんだと私は注視しながら後続に眼をやった。


 先頭が通り過ぎた後に来たのは鉄の馬車だった。


 かなり巨大で通常の馬車が7~8台くらい合わせた位の大きさで、それを護るように魔術師と従者、そして投石機が側に居る。


 投石機には車輪が付けられていて、それをサンプターが引いている。


 そして最後尾に眼をやると少し離れた形で騎士、従者、魔術師が居た。


 「・・・・・・・・」


 私は鞘からスクラマサクスを抜いた。


 それに合わせてフランツ達も恋人達を手にする。


 だけど私は先頭がサブレウ砲の前に行くまで振り下ろさなかった。


 確実に奴等の出鼻を挫く為だけど・・・・連中は私達が潜んでいるなんて考えてないからか、早々にサブレウ砲の砲口へ近付いた。


 今だ!!


 私はスクラマサクスを振り下ろした。


 それを合図にサブレウ砲とカイレグ多連装が火を噴いた。


 2つは見事に先頭と最後尾を同時に攻撃したけど魔術師が魔法防御壁を張っていたのか、予想より被害は少ない。


 だけどアグヌス・デイ騎士団は完全に私達の不意打ちに面食らった。


 『な、何だ?!』


 『敵だ!敵が・・・・・・・・!?』


 先頭と最後尾から声が聞こえたけど直ぐメルセデス殿達とシパクリ達が襲い掛かり乱戦に突入したと音で分かった。


 「行くぞ!!」


 私が青い月を勢いよく走らせると皆も一斉に動いた。


 目指すのは真ん中にある鉄の馬車だ!!


 「敵だ!敵が来たぞ!応戦しろ!!」


 私達の姿を馬車の近くに居た従者が気付きクロスボウを構えた。


 だけどクロスボウの矢を放つ前に自分が矢で右眼を射抜かれ事切れる。


 舞う風が射た矢だったが敵も負けていない。


 「殺してやる!!」


 魔術師が両手を前に突き出して呪文を唱え始めた。


 「散らばれ!!」


 フランツが怒声に近い叫び声を上げ私達は一斉に散らばった。


 散らばった瞬間、私達が居た場所を巨大な火の玉が通り過ぎて森を焼いた。


 「チッ!今度・・・・ギャア!?」


 火の玉を放った魔術師が悲鳴を上げながら胸に突き刺さった矢を両手で握り締めた。


 しかし仲間達は助ける素振りを見せず距離を縮めてきた私達に白兵戦を挑むつもりで武器を手にした。


 「ハァァァァァァ!!」


 私は掛け声を上げながら棒の先に短いスパイクを打ち付けた長柄の打撃武器たる「ゴーデンダッグ」を持った敵を攻撃した。


 通常のスクラマサクスより長い私のスクラマサクスは見事にゴーデンダッグの鎖を敵の首と一緒に刎ねた。


 「おのれ!若造が!!」


 仲間をやられた敵の一人が逆上して私にショート・スピアーを繰り出してきた。


 私は首を横に振る事で躱すと平突きを敵の喉にくれてやった。


 喉に平突きを受けた敵はショート・スピアーを手放し眼を見開かせた。


 だけど私がスクラマサクスを横に動かすと地面に倒れて息絶えた。

 

 私が敵の2人を倒すと皆も馬車を護る敵を次々と倒し、瞬く間に馬車を占領した。


 「おい、馬車を開けろ!!」


 フランツがエリックに命じて馬車の南京錠を破壊させている間に欠伸をする猫達が馬車を引いていた馬に飛び乗る。


 その間に私達は周囲を警戒したけど完全な奇襲だった事もあってか、敵の数は数える程度に減っていた。


 「破壊しました!!」


 「後ろの敵は始末した!!」


 エリックとシパクリの声が重なり、それを聞いて私は先頭の方へ向かった。


 対してフランツ達は馬車のドアを乱暴に開け、囚われていた婦女子達を出したのを背中越しに感じ取った。


 そしてフランツ達が泣いている事も・・・・・・・・


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