第13章:森へ
鷲の戦士達から魔石で連絡が来たのは暫く経ってからだった。
その間に私達は出発準備をしていたけど彼等からの報告を直ぐ聞いた。
『敵は岩の壁で覆われた建物に居る。しかし黒い鉄の箱に大勢の婦女子を押し込んでいる』
「今の時点で収容しているって事は・・・・終わるのは昼過ぎだな」
フランツが時刻を口にしたけど、それはアグヌス・デイ騎士団が異常なほど宗教観念に囚われていると私は思った。
昼過ぎに終わるという事は奴等を生み出した聖王カール陛下の祈る時間が関係しているからさ。
カール陛下は異名の通り聖教を死ぬまで篤く信仰していたんだ。
そして昼過ぎに祈るのは聖教の神が遣わした「神の子羊」が死んだ時刻とされている。
だから聖教の信者は昼過ぎに必ず神の子羊に祈る習慣があってカール陛下は頑なに守ったんだ。
ここをフランツは暗に言ったと私は推測しながら鷲の戦士達の報告を聞き続けた。
『首領らしい男が現れた。襤褸の衣服を着た中年の男と、赤い肌の娘を縄で縛り連行している』
「牧師様と俺の“聖女”だ・・・・・・・・」
フランツが暗い声で絞り出すように縄で縛られた2人の正体を言った。
『2人も箱に入れるようだが・・・・首領らしい男は笑っている』
『しかも拷問した跡が見られる』
『恐らく火で炙ったな・・・・肉の焼けた臭いがする』
鷲の戦士達の報告をフランツ達は黙って聞いていたけど眼は怒りに染まっていた。
ただし、それは私達も同じ事だったよ。
だけど私は黙ってフランツの肩を叩いて怒りを沈めるよう促した。
それをフランツは黙って受け入れ・・・・鷲の戦士達の報告を聞き続けた。
婦女子達を鉄の馬車に収容し終えたのはフランツの言う通り昼過ぎで、それからは私の推測通り祈りの時間に裂かれた。
そして祈りの時間が終わるとアグヌス・デイ騎士団は自分達の出発準備を始めたと鷲の戦士達は報告した。
行く人数は100人前後で、騎士が30人、従者が40人、魔術師が20人で従者はクロスボウと投石機を装備しているらしい。
陣列は先頭を15人の騎士と20人の従者が受け持ち、真ん中に鉄の馬車を置き、そこに投石機、魔術師10名、従者が10名、最後尾が残る騎士と従者、そして魔術師という形になったらしい。
「この陣列なら・・・・やはり先に先頭と最後尾を叩くべきだね」
私の言葉にフランツが最初に頷き、次にメルセデス殿とシパクリが頷いた。
「クアウトリよ。真ん中はお前達でやれ。先頭と最後尾は我々とメルセデス殿が請け負う」
シパクリの言葉にメルセデスも異論はないのか静かに頷いた。
「それじゃ頼むよ。ただ、鉄の馬車を私達が奪取したら直ぐ逃げよう」
しかし闇雲には逃げないと私は言い、地図を広げて指でなぞった。
「先ず取引相手の奴隷商人も・・・・この際だから始末しよう。そこで異変を察知して来るだろうアグヌス・デイ騎士団の一部も始末するんだ」
「というと野戦になるが・・・・あれを使うのか?」
シパクリはヒルドルブに牽引される形であるサブレウ野砲を指さした。
「そうさ。音は煩いけど・・・・これは奴等に対する宣戦布告さ」
そして私達の上司に「準備」をさせると私が言うとシパクリは笑った。
「ハハハハハハッ!流石はコヨーテの2つ名を持つ友だ・・・・お前達の祖国に奴等を誘い出して一網打尽にする訳か」
「昨夜から考えていたんだよ。奴等を殲滅するにしても数の差では私達が圧倒的に不利だからね」
それなら私達が公に行動できる場所に誘い込めば良いと・・・・ね。
「お前、良い悪党になれるぞ」
フランツが皮肉めいて言うけど眼は笑っていた。
「しかし奴等も馬鹿じゃないからな。気を引き締めようぜ」
「あぁ、そうだね。その為にも早く行こう」
プロワズの森が私達の戦場になる。
「自分達が命を懸ける場所は念入りに調べるべきとグラウス大王は言っているからね」
「それじゃ古代の名将が遺した言葉に従う形で・・・・行こうぜ」
フランツの言葉に私は頷き、皆でプロワズの森を目指した。
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プロワズの森は私が指揮を執ったサルバーナ王国の王都ヴァエリエ郊外にあるフルスより鬱蒼としていた。
しかし身を隠すには持って来いの場所だというのに・・・・奴等が通る道は整備されていた。
奴等が整備したかと最初は思ったけど・・・・・・・・
「かなり古い時代に整備されたね・・・・・・・・」
同僚のアルベルトが整備されている道を見て呟いた。
「というとアグヌス・デイ騎士団ではないのかい?」
私の問いにアルベルトは「もっと昔に出来た」と答えた。
するとメルセデス殿の騎士団に在籍するダニが静かに手を大地に当てた。
彼は魔術師で土の魔術を使うのかアルベルトの言葉を証明するように魔術で地層を調べたんだよ。
「・・・・今から2000年前には既に整備されているようです。しかし・・・・ここは貴殿達の国の人間が支配した事はないのでは?」
「いえ、一部は支配していました」
私がダニの問いに答えるとダニは別の質問をしてきた。
「一部は支配していたのに手放したんですか?」
「領主の子孫が断然し国内も乱れたので有耶無耶になったんです。聖教絡みで」
「なるほど・・・・しかし、良き領主だったのでしょうね?ここの道からは今も整備した人間達の気持ちが伝わって来ます」
ダニの言葉に私は道に膝をつき、手を当てながら語った。
「大カザン山脈の一部を治めていた領主は聖教の篤い信者でしたが忠誠は国王に捧げていました」
聖教の影響も多分に受けたが・・・・・・・・
「聖教が領主を悪魔と断罪したのに対し・・・・時の国王たるプログレズ陛下と、その御子息イプロシグ陛下はその苦悩を癒やしたんです」
「良き国王に恵まれたのは幸いな事ですね。領主にしても領民にしても」
ダニの言葉に私は頷いた。
プログレズ陛下とイプロシグ陛下の言葉で救われた領主は以前に増して公明正大な行政を旨とし領民と共に生き続けた。
それに対し領民も領主の気持ちに応えたのは言うまでもないよ。
「だから貴方が感じ取った気持ちは自国民として嬉しいです」
「そういう風に言える貴殿の素直さが私は羨ましいです。しかし・・・・この道を間もなく通る輩には怒りをぶつけます」
「私もです。この地は自由の地。それを我が物顔で蹂躙する権利は誰にもないのですからね」
ギュッ・・・・・・・・
私は拳を握り道を整備した人間達の領主に語り掛けた。
「貴方様の寝室を護り続けた“双頭のワイバーン”と戦ったハインリッヒ・ウーファーです。どうか、貴方様の加護を私達に・・・・・・・・」
大地に深く頭を下げた私は暫く動かなかった。
それは大地が軽く揺れたからだけど地震ではないとダニは言った。
「思う存分に戦えと・・・・言っていますよ」
「・・・・感謝します」
私はダニの言葉を聞いて大地に厚く礼を述べた私は立ち上がった。
その時・・・・上空を一匹の鷲が飛んだ。
「私の愛する女神・・・・君も見ていてくれ」
君が眠る、この自由の土地を私は護ってみせる。
「・・・・我等は獅子の盾なり」
『我等は如何なる災いをもたらす存在からも王国に住む全てのもの達を護る者なり。
例え強大な敵だろうと我等は引かん。
何故なら我等は獅子の盾なり。
獅子の勇気と百合の慈悲を旨に盾、日向の如く民草に寄り添う者達』
誰かが歌い始めると同僚達は一斉に声を揃えて歌った。
その歌声は今から血みどろの戦いを始める私達の気持ちを鼓舞するように力強い。
そして私達に自覚を与えた。
私達はアグヌス・デイ騎士団と違うと・・・・・・・・
そう・・・・私達はアグヌス・デイ騎士団と違う。
この自由と平等な土地を護る者達だ。
覇者も暴君も・・・・この地には要らないのさ。




