48話 自称魔王と??クエスト
ソウタ達を見送った後、デルモンの大将に案内されて一応このホテルで一番いい感じの部屋へ案内された。
そこには何故か数人の屈強な魔族が微動だにせず突っ立っていた。
「デルモン様! 異常はありませんでした!」
「やはやは、それは結構ですな、はい。では、下がってなさい」
『はっ!』
そうして何故か大将の指示に従って去っていった。
「え、あの方たちは?」
「ああ、気にしないでくださいゲルオ殿。わしの部下みたいなもんですわ、はい」
「そうか」
いや、まったく堅気な感じじゃないんだけど……
「ゲルオ、彼等かなりの手練れだぞ」
「えっ?」
「一応だが用心しとこう」
「ああ」
「ニッヒヒ、いざとなったらボクもいマシから大丈夫デシよ」
「おう」
だよな、こういうとこは頼りになる。
「やはやは、どうぞそこのソファーにかけて下さい」
「ああ」
「アい!」
「うむ」
いわれて俺を挟んでボンとヴォルが腰かけた。
「……二人とももうちょい離れられないか?」
ちょっと窮屈なんだけど。
「むむ、す、すまんゲルオ」
「……アい」
いやね、なんかほらお尻がこうムズかゆいじゃん?
てかヴォルはともかくボンもやけに柔らかい……良い匂いすんのが何かなぁ
「やはやは! 仲がよろしいんですな、はい」
「いやぁ」
「まぁな!」
「アい!」
いや、だから寄るなっつうの!
「まぁいいか。で大将、ここに着いたんで詳しい話をしてくれるんですか?」
「やはやは……ふむ。そうですな、先ずは何から話すべきか」
「デルモン氏、向こうで言っていたDMZの噂とは何ですか?」
おお、それは聞いておきたいな。流石だボン!
「ふむふむ、それはですな。そもそもDMZがどのような所かご存知ですかな?」
「あん? いや、なんも」
「なるほどなるほど、まあ仕方ないでしょうな」
「あ、流石に危険だってのは聞いたよ、な!」
「アイ! というかボクもゲルオ様もそれ以外は全くしらないデシ!」
「えっと、ボン様は?」
「うん? ああ、僕もだな。危険なとこだといわれているが正直それ以外の情報を聞いたことが無いんだ」
「ふむ、そうですか……まぁあそこが有名になったのは此処50年ほど前ですからね、ゲルオ殿やヴォルデマール殿が知らないのも無理はないですな」
「へえ」
「ええ、それでいて向かったものが先ず帰ってこないことで有名なのです。情報が極端に少ないのもそれが原因でしょうな、はい」
「うん? でも確か非武装地帯なんて呼ばれてんだろ? 何が危険なんだ」
武器を持てないんだからそんな危険なとこじゃないだろ普通?
「やはやは、そこが勘違いの一つなんですな、はい。非武装地帯というのは相手との停戦状態である場所みたいな意味なのですよ、はい。それだけ危険な領域なんですわ」
「うん? どゆことだ?」
まさか未だにそこは戦争中って事なのか?
「ふむ、その前にゲルオ殿。今一度このクエスト受けて頂けるという事でよろしいですかな?」
むむ、何故このタイミングで聞いてくるんだ?
く、嫌な予感がするが……
「えっと、まあここまで来たしな」
「先ほどの誰も帰ってこなかったという話を聞いてもですかな?」
ぬぬぬ、でも前金のプラチナ硬貨が貰えるまではイエスでいきたい!
「ああ! それだからこその対価だろ、大将! それに挑戦してこその冒険者であり、そして自称魔王を名乗れるってとこじゃないか!」
うんうん、言っててなんか調子出てきちゃったな!
「おお、流石は僕の相棒!」
「ゲルオ様かっこいい!」
だろ? 俺もちょっとそう思ったわ。
「……ふむ。やはやは! 流石はゲルオ殿ですな! 目を付けていただけはあります、はい!」
ん? 目を付けていた?
「では、話の続きといきましょうか。後には引き返せませんぞ?」
そう言われると引き返せないのが性ってもんだよな?
押すなと言われたら押しちゃうみたいな?
「あ、ああ!」
「素晴らしい!」
「いやぁ」
すると大将は一度ゆっくり瞬きをすると静かに話し始めた。
「では……DMZとはその相手との境界みたいなとこなんですがね? それはつまり常に其処と緊張状態にあるようなもんでしてな。この世界の為にも興味本位できた連中なぞ排除するしかないって訳なんですね、はい」
「……」
ちょいちょい、なんかヤバい話になってきてないか?
大将の雰囲気もほんわかさが無くなって来てるような……
「そもそも、こんな護衛だけでプラチナ硬貨二枚なぞ当然、異常だとはゲルオ殿もお思いでしょう」
すいません、全然考えてなかったです。
けど、怖くて頷くしかできない!
「ええ、その通りですな。今回のクエストは実は選ぶ権利は冒険者にあるのでなく、彼等にあった極秘のクエスト……」
ゴクリ、と思わず喉が鳴ってしまった。
「クラン専用クエストである国家規模のクエスト何ですね、はい」
「か、彼等ってのはやっぱり……」
「ご想像の通り、魔王神様の直属の部隊ですな、はい。もちろん、この事は闇の囁き亭のギルドマスターですら知りえない事ですがな。ああ、でも水のせせらぎ亭のアシッド殿やこの街の魔王ギプス様はご存知ですがね、はい」
「……えっと、まあそれはなんとなーくわかってましたよ。うん、いやぁそれでいてうちのクランに目を付けるとは流石は大将ですね!」
「やはやは、そうでしょう! 正直、規模だけのクランや同じようなステータスやスキルしかもたないクランなどばかりで困っていたのですな! そこでちょうどゲルオ殿のような魔王という特別な力を有するクランを見つけてしまいまして、此処しかないと目を付けさせてもらっていたんですよ、はい! いやあ思わず飛びついてしまいましたな!」
いやいや、ヴォルやポミアンは確かにすげえけど俺は大したことないよ?
伸び縮みだけだよ? いいのそれで?
「えと、で因みに肝心のその相手とは……」
「ふむ、まあ一般には知れ渡っていない情報ですからな。ところでゲルオ殿、異世界人の召喚についてどう思われますかな?」
「あん? どうって、まあできるんだなってぐらいだが」
別になんも思わんけど?
「それがなにか?」
「召喚される際、彼らは何処を通っているんでしょうな? しかも今ではかなりの数だ、最初は小さな穴だったかもしれない、でも小さな穴も通し続ければ必然大きくなると思いませんか?」
「うん? まあそういうこともあるかもな」
え、というか関係あるのかこの話?
「その穴が大きくなって行くと、当然穴の中身が此方を侵食してくる。そこでゲルオ殿、そんな異世界に通じる穴が果たして一つだけの世界につながっているものでしょうか? 他のもっと得体のしれない、我々に危害しかもたらさないものが都合よく来ないものでしょうか?」
「え、いやぁどうだろ? 神様が気を利かせてくれてんじゃない?」
あ、言っててそりゃないわって自分で今思ったわ。
「だと良かったのですがな。そうもいかなかったのですよ、はい。だから敢えてその者らに汚染されてもいい境界を設けたのです。ええ、ここまで言えばおわかりでしょう?」
いや、いやいや! 分かりたくない、知りたくなかったよこんな事!!
「つ、つまりデルモン氏。今回の僕たちへの本当の依頼は……」
「ええ、このわし魔王神様のお抱えである武器商人オッサ=デルモンを、苦戦している序列10の魔王『停滞』のアシモフの城まで物資と共に送り届ける事ですな、はい」
「は、はは」
あれ、こんな重要な事聞いたら俺達ヤバいんじゃないか?
「ああ、勿論ここまで聞いたのです。今更なかった事にはできないし、その場合は彼等が全力で貴方がたをなかった事にするので、はい。でも心配無用! その場合はわしも一蓮托生ですわ! やはっやはっやはっ!」
「え、あのぉ」
心配無用の使い方間違ってますよ?
「いやぁゲルオ殿が話の分かるお人で良かったですな! やはっやはっやは!!」
ああ、これ久々に詰んでね?
「……ニひ。それはゲルオ様に危害を加えるというコトでシカ?」
「ヴォ、ヴォル?」
「やはやは……うん? ヴォルデマール殿?」
「そうなら、アレでしね。ここでお前を肉にするしかないでシヨ?」
そうヴォルは大将にニンマリと顔を歪めて何処か楽しそうに言った。
ヤバい、そういやすっかり忘れてたがヴォルはこういう奴だった。
「し、しかしですな? わしもある意味命令された身なんですわ、はい。ここでわしを殺したところで状況は悪化するだけですぞ?」
「にっひひ、それで?」
「それでとは?」
「それで何か不都合なことがあるデシか? お前が肉の塊になることは変えようがないだけでシヨ? その後の事をお前が保証する意味なんかあるのか?」
「く、だとしても既にわしと此処で話をしたことは彼らに伝わっております! は、反逆の意志があると魔王神様に思われるんですぞ!」
「ひひ、ちょうどいい。あいつは気に入らなかったデシからね」
「マズいな、このままだとヴォルが暴走するぞゲルオ?」
ボンも流石にマズいと思ったのか戦闘態勢にはいる。
「ニヒヒ……」
「わ、わしが死んだらゲルオ殿がどんな目に遭うかわかっているのか!」
「ま、マズいぞゲルオ!?」
ああ、もう分かってるよ!
「おいヴォル」
「……いヤ肉に変えるどころかこの場でクビリコロ――」
「ひっ! た、たす――」
「ヴォル!」
「――あい?」
「どっちにしろ俺に迷惑かかるだろうが! このバカ!!」
パコンっと思いっ切り頭をはたく。
「にひゃん! で、でもでもゲルオ様! コイツが先に脅して……」
く、て、手が……どんな頭してんだよコイツ! あーいてぇ!
「フーフー……でもじゃねえよ! それによ、逆に言えばうまくやりゃ魔王神の奴公認みたいなクランってことだろ? そっちの方が気分いいじゃねえか、あの魔王神が俺やお前に感謝すんだぞ?」
リストラした奴と散々利用してた奴にだ。ざまぁねえぜ!
「……にひ、それは良いデシネ。にひ、にひひ! 流石はゲルオ様デシ!」
「は、はあ……た、助かったのですかな?」
「おいデルモン、お前は此処で本来ならボクに殺されてたデシよ? それなのにゲルオ様のおかげで生かされたんでシ。今後の態度ってもんわかってるよな?」
「は、はい! わ、わわ、分かっておりますとも! むしろこのクエストを受けて頂いた時からか、かか、感謝しておりましたから、はい!」
すっげえチラチラとヴォルを気にしながら言われてもなぁ。
「いや、あの大将。今のはヴォルが悪かった――」
「いえいえ! 大将だなんてとんでもない! こ、ここ、これからはデルモンでもオッサとでもいって頂いていいのでゲルオ殿!」
「アい? どの?」
「ひ、ひぃい! ゲルオ様!」
おいおい、心からでないもの以外は様で呼んじゃいけないとか言ってなかったかお前?
「……はあ、依頼人を脅すとか何やってんだよ?」
「うう、俺のせいじゃねえだろ?」
「直接的にはな?」
はい、間接的には俺のせいですね。
「うう、怖かった……わし、わし生きてる……うう」
「はぁ泣くほどかよ……」
つーかちっさいおっさんがむせび泣く姿ってのはこう……なんか悲しくなるな。
「緊張の糸が切れたのだろう。まあ、ヴォルはなんといっても元とはいえアノ序列3の魔王だからな。むしろここまで強気でいられた彼の商魂は素直に褒めたいとこだよ」
それで死んじゃ意味ないがな?
「にひひ! ゲルオ様、褒めてもいいデシよ?」
「……」
「いいデシよ?」
「……はあ」
しっかし、ソウタ達に何て説明すっかなぁ……




