ラクダ
島緑は現地に住む人とようやく接触できた。砂漠に移動してから1週間も時間が過ぎていた。オアシスを自由自在に出現させる魔法?で砂漠を横断しようと思ったが、まだ能力を検証したいと思い砂漠にいた。商人から思わぬ情報を入手して顔は笑顔でほころぶ。
島緑がいる場所はエイモス王国の西にあるノダル砂漠。現地人の商人たちは日本もアメリカもその他の国も知らなかった。話を聞いてみると、電話に飛行機等、現代文明が存在しない異世界に俺はいるようだと分かった。なぜか言葉は通じた。
この世界は近年、砂漠化が世界規模で広がり、緑が減りつつあるらしい。エイモス王国の国土の大半を砂漠と荒野が占めていると聞いた。水は大変貴重で、人命より重い価値があるそうだ。
オアシスを自由自在に出す能力があれば緑化できるのでは?食料も無限に生産できるし、この世界ではまさに神の力と言ってもいい。
何となくで漠然としているが、もう2度と日本には戻れない予感がする。
隊商の中継地点にオアシスの利用を許可したのは、人と関わりたいと思ったからだ。何れこのオアシスの周りは人が増えて、町ができるかもしれない。
「隊商の人達はラクダを利用してたよな」
砂漠と想像したらラクダ。オアシスと想像したらラクダ。自己暗示完了。
目を開けると、ウインターさんが連れていたラクダにそっくりのラクダがいた。
「おおー、成功した。1週間の魔法の練習の成果が出たようだ。名前を決めないとな。ラクダの性別は分からないが、多分…男だ。クリスだ。よろしくな」
「名前を命名してくれてありがとうございます。ご主人様」
少年のような明るい声が聞こえた。
「…今の声はクリスなのか?」
「そうです。ご主人様に生み出されたラクダのクリスです」
「ご主人様は止めてくれ。俺の名前は島緑だ。みどりとでも呼んでくれ」
「承知しました。ミドリ様」
「…様もつけなくていい。ただのしまか、みどりでいい」
人間の言葉を話すラクダなんているはずがない。待てよ…こは地球じゃなかった。
疑問をクリスに投げかける。
「ミドリが望んだ事が反映されたのでしょう」
「俺が望んだ…こと…?」
思い当たることがある。この砂漠の楽園で常に1人でいた。孤独で寂しかった。誰かと話したかった。商人達を引き留めて食事を振る舞ったのは会話がしたいから。だから島緑は話せる相手が欲しいと願い、会話をできるラクダを作りだしたと思う。
クリスに乗せてもらったが揺れて気分が悪くなった。
島緑は練習しようと決意した。