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砂漠化する世界でオアシスを創る  作者: 地下水
第三章 砂漠の王国
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恐ろしき妹

 人類にとって、砂漠の環境で生活するのには厳しい。砂漠には寒暖差がある。太陽が昇る昼間はうだるような暑さが続く。砂漠に滞在するのならば、大量の飲料水がどうしても必要になる。逆に夜になると、冬のように寒くなる。そのため、砂漠で一夜を過ごすには、それなりの準備と知識が必要になる。


 月に照らされた砂漠に、たき火による一筋の明かりと、煙が空に立ち昇る様子が遠くからでも認識できる。たき火を囲むように5人の男女が暖を取り、ご飯を食べている。男女が乗ってきたと思われるラクダたちは、身を寄せ合うようにテントの近くに固まっている。

 一人の痩せこけた男が、対面に座る銀髪の少女を舐めるような視線で盗み見ている。少女の体形は出る所は出て、引っ込む所は引っ込んでいる。それに気づいた大柄の男は、頭を小突く。痩せこけた男は舌打ちをして、「トイレ」と一言断り、砂丘の方へ歩く。

 倍以上年齢が違うと思われる大柄の男が、少女に敬うように話しかける。

 

 「ところで、レニー様。夜の見張りはどうしましょうか?」

 「必要ない。ミドリが近辺に潜む、砂漠で要注意生物のワームを殲滅してくれた。よって、寝ている間に、地面から襲われる心配は少ないだろう。他に旅人や隊商キャラバンも寝てる時間だから接触してくることはなかろう。仮に襲撃者がいても、ジンならその程度問題ないよな?」

 「お任せください。我が身に代えてもお守りしましょう」

 「よく言った。私はもう眠いから先に寝させてもらう。レモン行くぞっ」


 ひっそりと、まるで亡霊のように、静かに付き添う少女レモンはレニーの後を付いていき、天幕に入る。

 レニーは砂漠にあるオアシスに見つけてから生活ががらりと変わった。

 王都にある自宅で過ごす日数より、魔法のオアシスでの滞在数の方が多くなった。自宅に滅多に寄りつかず、魔法のオアシスに滞在するのは、気温が快適で過ごすことができるから。また、ラクダレースの娯楽があり、退屈しない事に気にいっている。

 

 レニーには最近悩みがある。レモンを奴隷の身分から解放して、正式にレニー専属の世話係として雇った。それからだ。内気だと思っていた、レモンの性格や態度ががらりと変わった。私の前で、明るく振る舞うようになったのは歓迎するが、奇妙な事をするようになった。


 レモンは天幕に入るとなぜか服を脱ぎだした。黒いセミロングの髪に似合う、開放的で扇情的な格好。もしもこの場所にミドリがいたのならば、中東の踊り子のような姿の衣装だと言っているだろう。普段は決して見せぬ妖艶な恰好に、レニーはついドキリとしてしまう。

 一体レモンはどうしてしまったのだろうか?ミリーに相談するべきだろうか?それともレモンが話してくれるのを辛抱強く待つべきだろうか?私にはどうしていいのか分からない。

 砂漠の夜は想像以上に寒い。いくら天幕の中とはいえ、風邪を引いてしまうだろう。


 「おへそまでだして、寒くないのか?」

 「あ、あ。あーあ。あああああ゛あ゛」


 座っているレモンが突然、奇声をあげる。


 「ど、どうしたのだ?体調が悪いのか?」

 

 レモンを再び見ると、産まれたての子牛のように痙攣けいれんをしている。次第にぐったりしていき、ついに動かなくなる。

 まさか、し、死んだ……の?

 私がついていながらなんてことに。変な恰好をさせなければ良かった。直ぐにでも止めるべきだった。幾度となく考えを巡らせている中、レモンは目を開け、チラっと私を見る。衣服を着替えて「先ほどは冗談です。もう寝ます。お休みなさい」と答える。彼女はそのまま寝ようと横になる。


 冗談で死んだふりをするために、痙攣の真似をする者なぞ聞いたこともない。理由を聞かなければ。

 

 「待て、なぜ奇行に走ったのだ?本当に死んでしまったと思った。心配したぞ。頼むから、もう変な事はやめてくれ」

 「レニー様がミリー様と比べて、ご自分の事を悩んでいたのを知っています。私は少しでもレニー様の役に立ちたかったのです。奴隷市場でレニー様のお目にかかり、買って頂いた感謝しています。若い娘の奴隷が買われるとどうなるか、学のなかった私でも簡単に想像できます。ふふ、少しでも報いるために必死に勉強しました。それからミドリに譲渡されたときは、捨てられたと思いました。結局、私をまたレニー様のお傍に仕えさせてもらい、奴隷の身分から解放されてどれだけ感謝していると思いですか!だから、レニー様に笑ってもらいたかったのです」

 

 ……どうしよう?私の事を真剣に考えてくれたのに、酷い言葉を投げてしまった。

 ミリーと比べられる事に悩んでいたことに、吹っ切れたと思っていたのに。まだ顔に出ていたか。それより、レモンの行動は笑うより怖いよ。傍に仕えてくれるだけで十分役に立ってくれている。それとなく言っておこう。


 「……ところで、知っていましたか?レニー様をお慕い申す者が多いことに――」

 

 レモンやジンも、レニーの人となりの魅力に惹かれた内の一人である。

 レニーに関わった人間が彼女に惹かれていくことに、自分だけ知らなかった。

 彼女は恐ろしく魅力的な少女なのである。

 

 「ふん、そんなことか。それより明日にはオアシスに着く。今度こそ寝る。お休み」


 ソプラノの声色はどこか嬉しそうに聞こえた。


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