2大都市アルブ
やることが無くなり、暇だからささっと観光に行きたい。異世界の料理も気になる。とにかく、いろいろ町を見て回りたい。屋台はそのままにして離れて良かったのか?さすがにそこまで無責任なことはできないか。
島緑は、屋台の近くでじっと果物を見ていた子供がいたのに気付いていた。
足を見ると裸足だった。
「君、そこの君」
薄汚れた格好の10歳くらいの少女はきょろきょろ辺りを見ている。
「…あたし?」
「そうだよ。リンゴが欲しいかい?」
袋からリンゴを出すと少女に見せる。
「…リンゴを買うお金がないの…」
ぐうぅぅ~。と可愛らしい音が聞こえた。
「ち、違うの!」
少女は顔に赤みが帯びて必死に腹の音を否定する。
「そっか。お腹空いてるんだ。余り物だからこのリンゴあげるよ」
「本当に貰っていいの?2日も何も食べてなくて……」
うわっ、重い話は勘弁してほしいんだよな。
「どうぞ。その代わりに少し質問に答えて欲しい。俺はこの辺りの事を知らなくて」
「うん!」
少女は余程お腹が空いていたのか、ばくばくとあっという間に食べてしまった。まだ物足りなそうな顔で、島緑をグリーン色の目で見る。そんな目で見ないでくれよ。
「まだ食べれるだろ?」
島緑の特製のサンドイッチを与えたらそれも全部食べた。島緑のお手製のサンドイッチ。中身は山羊の肉とレタスがぎっしり入って、ボリュームがある作りになっている。パンだけだと食べにくいと考えて、冷たい水も渡した。
「とっても美味しかった。ありがとう」
「まずは自己紹介といこうか。俺の名前はミドリ。普通の商人だ。果物や野菜をこの場所で販売している」
「あっ…あたし、オリーブで…す」
「オリーブの保護者はどこにいるの?」
「買い物に行くからお父さんにここで待つように言われて…13日過ぎたの…」
話を聞くと、僅かな小銭を持たされ、13日間過ごしていたらしい。そのお金も使い果たして2日間は何も食べれない状態だったようだ。
どうやらオリーブは親に捨てられたようだ。オリーブも10歳だ。認めたくないもしれないが、そのあたりの事は察しているだろう。母は死に、兄弟もいなくて頼れる人はいないようだ。オリーブの家族も砂漠化により故郷を捨てて、アルブに仕事を探しに来たようだ。ついでに、観光名所や美味い料理のお店がある場所を聞いた。
「俺はアルブに来るのは初めてでね。今すぐにでも観光に行きたい。だがこの屋台とラクダをそのまま放置するわけにはいかない。そこで、オリーブに店番をしてほしい。もちろんちゃんと店番をしてくれたら代金を払おう。どうだい?引き受けてくれるかい?」
「うん。頑張るよ」
「3時までには戻るつもりだけど、その間にライフと名乗る男の人が来たら俺は観光に行ったと伝えてくれないか?あー、ライフは同じ商人の仲間だ。あと、そのラクダはほっといていいから」
「僕も観光に行きたい」
「えっ!?」
オリーブは一瞬、ぎょっとした顔でラクダを見る。
約束を破ったな。クリスに絶対お仕置きする。
「どうしたのかな?」
「え…今…ラクダが…喋った!?」
「はは、善良なラクダが話すわけないだろ?気のせいだって。店番お願いね」
初対面の子供に店番を任せて良かったのか?クリスもいるし、失敗したらそれでもいいさ。
オリーブに聞いた。飯屋『アルブ料理店』に入った。アルブの伝統料理をここで食べれるらしい。
店中は小奇麗でまだ飯時前なのにそこそこ人が埋まっていた。
島緑がカウンター席に座ると、店員の男が注文を聞く。
「お客さん、何にしやすか?」
「すみません、文字が読めないんで本日のおすすめをください」
「あいよ」
しばらく待っていると、小さい茶色のパンが2つ。何かの肉と豆が入ったスープが出された。
「あの、これは何の肉ですか?」
「ラクダだ」
「ラクダ?ラクダの肉を食べるのですか?」
「お客さん、変わったことを聞くね」
店員は他の客の注文を聞き行く。
硬いパンは美味く感じなかった。魔法のパンのほうが100倍美味い。硬いのでスープに浸して食べる。スープも味は薄く、肉の量も少ない。肉の味はまあまあだった。ついに、ラクダを食べてしまった。会計は想定してたより高かった。食料の値段が高騰しているようだ。
あとはどうするかな。お腹がいっぱいになったので昼寝でもしたい気分だ。
2大都市だけあって人は多く活気がある。建物も多くて迷ってしまいそうだ。あまり遠くには行かない方がいいな。
中央には市場があり、食べ物なり、日用雑貨や服など多くの物が並べてある。
市場で子供用のサンダルを買った。
市場にいると時間を忘れる。端から見て回っていると興味深い物を見つけた。“本”だ。
文字を習うために本が欲しいと思っていた。
店番をしているのは60代前半くらいの男で、白髪の髪をオールバックにしていた。顔に刻まれたしわからずいぶん苦労したと勝手に考えた。
「爺さん、珍しい物を売ってるな?」
「何だ。冷やかしなら帰ってくれ。邪魔だ」
「違う違う。本が欲しかったの。俺は文字が読めない。この言語はどこの国の文字だ?」
「言語?この大陸には文字は一つしかないだろ?それすら知らんのか?」
「そうなんだ。常識がなくて悪かったな。ここにある本全部くれ」
代金を払い。3冊の分厚い本を受け取る。
立ち去ろうとする島緑に本売りの爺さんが声をかける。
「おい、待て。お前さん、文字が読めないのに本を買ったのはなぜだ?」
「文字を勉強するためだよ。文字については知り合いから習うつもりだ。用がないなら行くぞ?」
「ま、待て。私を雇わないか?私はかつてアルブで、貴族の御子息に家庭教師をしていた。お前さんが買った本は、子供用の文字の勉強と歴史について書かれている。自分で言うのもなんだが私は優秀だと思うぞ?」
「おいおい。優秀なら何でここで物売りをしている?」
「そ、それは…私の教育が厳しすぎてだな」
本は貴重品なので高価である。本3冊を買ったので金持ちだと思ったのか。爺さんの事は大体分かった。家庭教師か。暇な時を見つけてライフさんに文字を教わろうと考えたが、この爺さんでもいいかもな。
「初めに話そう。信じなければそれでいい。俺はノダル砂漠に住んでいる。それでもついて来るか?」




