ミドリの島
島緑がモンブランと飛行訓練の練習をしている中、旧グロ村の住人は第5オアシスで野菜の栽培ができるか実験をしていた。
「トマト、トマト、トマト」
少し緊張した雰囲気の青年が、初めて収穫した若干緑色の赤トマトを、山盛りに入れた籠を島緑に渡す。
出会った頃、ザコ―は島緑に何かと反発していた。だが歳が近く、男同士ということもあり、お互い話す機会が自然に多くなって仲良くなれた。今では気が置けない友達同士だ。
「最初にできた野菜だ。一番最初の収穫した野菜はミドリが食べてくれ。旧グロ村の皆の願いだ」
ザコ―の目つきが真剣になる。グロ村の20名が正式に第5オアシスの住人になって1カ月たつ。
1カ月の間で島緑も手伝い簡易な住居をオアシスの南側に整えた。
いつまでも、第5オアシスという名称のままにするわけにもいかないので、旧グロ村の住民との話し合いにより、『ミドリの島』と名付けられた。
3キロの円系のオアシスの水源の中心部分に、猫の額ほどの狭い緑の島をつくったことと、島緑の名前を掛けて『ミドリの島』という名称に決定した。
100円硬貨を取り出して、桜をを眺めたら哀愁が募った。もう3カ月以上も異世界で生活している。試行錯誤して桜の木を魔法で出そうと思った。何度試しても桜の木が出てくることはなかった。当たり前か。しかし、この世界にも桜があるかもしれないので、探しに行く楽しみも生まれた。
村人たちは痩せていたので、果物とウインターたち隊商から仕入れたパンや肉などを与えて食べさせた。1カ月で体の健康状態は改善されたと思う。
住居の小屋を作る作業と平行して、ダーチがリーダーで、ザコ―が副リーダーとして、野菜を魔法のオアシスで育つことができるか実験した。
その結果がザコ―から渡されたトマトだ。
「嬉しそうだな?お言葉に甘えて、一番最初に食べる名誉をいただこう」
軽く水で洗っただけの形の悪いトマトを齧る。大地の恵みを受けたトマトの味は美味しく感じた。第三者に話しても、このトマトが砂漠で栽培したとは信じられないだろう。
「すごく美味しいよ。ザコ―も食べてみろよ」
「おう、1個貰うな。うまい」
知らずにザコ―の目から涙が零れていた。島緑が黙っているとザコ―は語りだした。
「また野菜をこの手で栽培できるとは思わなくてな…グロ村を見ただろ。信じられるか?1年前まであった川も干上がり何もない!水路も当然使えなくなって、作物が育てられない。ここ数年、俺たちは水がない絶望感しかなかった。ミドリが思っている以上に俺たちはお前に感謝している」
「よせやい、大袈裟すぎる」
「あのな……、この手に持ってるトマトは、種を植えてから収穫するまでに掛かった時間が分かるか?」
「1カ月未満だろ?それがどうした?」
「はぁ…お前は本当に世間知らずだな。いいか、良く聞けよ。どれだけ早くても5ヵ月はかかる。それが3週間で収穫だ。それだけではない、種を植える時期もめちゃくちゃなのに――」
ザコ―の話をまとめると、魔法のオアシスの周囲の土壌でつくられた作物は育ちが早い。季節が関係なく育つ可能性がある。オアシスで野菜栽培の実験は大成功に終わった。本格的に麦や野菜を育てるのはまだ先だ。食料が十分すぎるくらいあるので焦らず、計画的に畑を作るらしい。
「それで、例の計画は順調に進んでいるか?」
「問題ない」
本当に問題ないのか。計画とはオアシスに浮かべる木船を作ることだ。
船の制作はライフの息子ラニンが中心になり活動している。
木材は十分すぎるほどあるので、後はどのような船ができるか楽しみだ。




