砂漠の楽園の噂
近頃、エイモス王国中にある噂が囁かれている。
曰く、水の魔法使いの魔法により、砂漠にオアシスが新しく出現した。オアシスの綺麗で冷たい水を自由に飲むことができる。王都で出回っている果物も、魔法で出来ている。現地では果物が食べ放題らしい。6日に1度、オアシスでラクダレースが開催される。常にトップに君臨するのは、水の魔法使いとそのお供の人間の言葉を話す奇妙なラクダ。そのオアシスは砂漠の楽園のようだと噂されている。
王都の中央市場に、魔法で出来た果物を買おうとする人で賑わっている。
市場は果物以外に食べ物、服に骨董品と何でもあるが、果物を売ってる場所は一際人が多い。
店主の親父が一人5個までだと大声で宣伝している。
果物売り場の列に並びながら、二人の若者が会話をする。
「親戚が今話題のオアシスで仕事をしていたらしいけど、噂通りの楽園らしいって」
「いいよな~。俺も一度行ってみたい。どこかに仕事募集してないかな?」
「今はないんじゃないかな。おっと、そろそろ番か」
男たちの手には購入したばかりのリンゴとみかんがある。
市場の端まで歩く。
「それにしても…この果物冷えてないか?」
「冷たいな。どうなってるんだ?」
背の高い男と低い男、二人で話ていると身なりのいい銀髪の女の子が声をかける。
「おじさんたち大人なのに何も知らないのね。いいわ、わたしが教えてあげる。魔法で出来た果物の温度は、魔法使い様の力により冷たくできるの!腐りもしなくて、それに食べるまで冷え冷えなの!」
女の子は、ふふんと得意げに鼻息を上げる。
そして男たちに左手を出す。
「へー知らなかった。魔法って便利なんだなあ。ところで、お嬢ちゃんその手は何だい?」
「馬鹿ね。タダで教えてあげる訳ないでしょう。リンゴ1個で我慢してあげる」
突然口調と顔つきが大人のようになった。
この餓鬼…。リンゴ1個で俺の1日の食費分くらいだぞ?
背の高い男は女の子にリンゴを1個渡した。こいつは子供に弱いからな。
チッ。しょうがねえな。
「ほらよ」
背の低い男も女の子にリンゴを乱暴に渡す。
「どうも!」
女の子は人込みのなかへ消えた。
男2人は民家の石壁に寄りかかり、みかんの皮をはぎ取り食べる。
「「甘い!」」
2人は口を揃えて同じ言葉が出た。
冷たくて、甘い。王都なので甘い食べ物はある。だけど、素材そのままのこのみかんよりうまいだろうかとつい考える。
背の低い男は隣にいる背の高い男に、
「俺は我慢できねぇ。リンゴも食ってみたい。体が、口が、舌が、胃が求めている」
と話す。
「同感だ。売り切れる前に早く行こう」
再び果物売り場に行くと武装した兵士が列に並んでいた。
若い男達も遠目で見ている。
何があったんだ?兵士も果物を買うのか。
前に並んでいる男に聞く。
「今、ミリー様がお忍びで果物を買いに来ているんだよ。滅多に姿を現さないと有名なミリー様がだぞ?」
…ミリー様?あの?俺たちが普段食べているパン。土の魔法の力でミリー様が砂からパンを生み出しているという。
「果物ね。確かに美味いが…自分で来るほどの物なのか?」
「ミリー様は魔法の果物にお熱だよ。ここ最近、市場に魔法の果物が流れるたびに現れて自分と兵士が5個ずつ買っていく」
ミリー様も数は守るのか………。
食糧事情を改善したエイモス王国の英雄様の顔を見てみたいな。
「なあ、それで誰がミリ―様何だ?」
「ん?兄ちゃん下だよ。下」
男の指さす方向に、先ほどリンゴをあげた女の子がいた。
魔法使いになったら外見が変わらないと聞いたことがある。まさか先ほど会った子だとは思わなかった。
待てよ…俺たちは今年で19歳。ミリー様は10年前に魔法に目覚めた。
外見に騙されていたが本当の年齢は2…。
突然身震いした。本能的にこれ以上考えてはいけないと思い、魔法のリンゴの味を想像しながら待つことにした。




