【世界の終わりはそこに】
ずっとずっと前の世界。
人間とアンドロイドが共存する世界。
だが、アンドロイドに対して邪険に思う人も少なくはなく、いつもどこかでアンドロイドに賛成派と反対派に別れて対立し合うニュースが毎日流れていた。
アンドロイドが普及され始めてから、昔では考えられない世間一般の常識が歪み始めていた。
それはここに残す事が出来ない程のものもある。
それが対立するにあたっての原因の一つでもあった。
そんな世界の中、人の目が集まらないひっそりとした場所にポツンと研究所があった。
そこはアンドロイドに対する技術と情熱、愛情をどこにも負けない人達が集っていた。
この研究所を作った夫婦と、数人の職員と一体のアンドロイドの零が働いていた。
零は夫婦が造ったアンドロイドだ。
コンピューター処理や来客応答、職員のカウンセリング等を行い、サポートをメインに稼働していた。
ある日、夫婦の間に命が産まれた。
夫婦が帰宅すると、それはそれは盛大に喜ばれ可愛がられ、研究所の人の皆に愛されていた。
祝福ムードに包まれていた。
そんな新しい命に名前がつけられた。
全てが輝いて見えた。
数年後、突然別れを告げる事になるまでは。
研究所内のアラートが劈く。
複数のモニターで警告マークが赤く光る。
皆が警戒に入る中、慌てて戻ってきた研究員が息を切らしながら叫んだ。
「た、大変だ!あと3日で世界は滅びる!」
一瞬時が止まったような空気が流れるが、すぐに打ち消されていく。原因が何かを告げていた気がするが、そんな事は耳に入らない。
研究所内もパニックに陥る人、涙を流す者がいた。
その中に夫婦の子供もいた。
皆が混乱するものだから、脳内が処理に追いつかずにパニックに陥り涙を流し過呼吸になる。
すぐに気づいた零が子と別室に行き処置を行う。
10分近く経った後、零が子供を抱き上げた状態で戻ってきた。疲れたのかスゥスゥ…と寝息をたてて眠っていた。近くに置いてあったソファーに子供を寝かせた。
激しくけたたましく鳴っていたアラートは鳴り止んでいた。
あの後、研究員の皆は外に向かって走っていってしまった。突然地球が滅びるだなんて聞いて、冷静でいられる人の方が少ないだろう。
その中でただ1人、男は事実だけを受け止めて、部屋の中で1人籠ってしまった。
騒いでもどうにもならないからだ。
この騒ぎを聞く数ヶ月前に愛する人が亡くなった事も重なり、酷く心に負担がかかったのだ。
世界が滅びる数時間前。
男は零を自身の部屋に呼んだ。
部屋の中に静寂が流れる。
部屋の中にある回復ポッドの中には眠っている息子がいる。
男はモニターに目を向けたままぽつりと呟く。
「零、今まで私達と居てくれてありがとう。おかげでいろんな思い出が蘇ってくるほど楽しかった。最後も息子を守ろうとしてくれて嬉しかったよ」
男は弱々しく微笑んでいた気がする。
零は目を伏せて何も言わなかった。
「零、今から君に重要任務を任せる。これは私達の最後の願いだ……」
そう呟いた男の口からは、男の願い、果たす事、暮らしでの大切な事等が呟かれた。
必要な物は教えた場所に保管されているから使うように話した。
「……頼んだよ。零」
零は少し辛そうな顔をした……がすぐに前を見る。
「……かしこまりました。必ず果たしてみせます」
男は零に、回復ポッドから出した息子を託した。
息子を優しく抱いて見る。とても優しそうな顔をしている。すやすや寝息をたてながら。
眠る顔を2人で見てから、互いに顔を見合わせる。
「……主人、貴方との過ごした日々を絶対に忘れません」
そう呟いた。
呟いた零は研究所の地下に向かって走って行く。
男と零以外誰も知らない空間に逃げ込んで行く。
「これで……本当に良かったのか……」
男は零の走り去った背中を見届けながら呟く。
「いや……これで良いんだ。良かったんだ……。私達は少し休むだけ。それだけさ」
そう呟き、男の部屋に飾られていた写真立てを手に取る。
その写真には、男と妻、子供と零の4人が仲良く写っていた。どこか旅行したのだろうか、4人ともオシャレをして笑顔を向けていた。
とても幸せそうな顔をしていた。
写真立てに1粒の雫が落ちた。
「私もすぐに向かうから」
世界は滅びた。
1つの研究所の深くにある地下を除いて。




