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最弱スキル〈保存庫〉を笑われ追放されたけど、中に神代の秘宝が眠ってました  作者: 妙原奇天


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第5話 継承者討伐令と裏切りの翼

 冷たい風が吹き抜ける。

 廃都アーケルの空を覆うように、数百の影が舞っていた。

 鋼の翼を持つ飛行兵。

 魔導国家レグナート、そして聖教国アリアスの連合軍。

 空を裂く機械の羽音が、戦場の前触れのように響く。


「まさか、本当に来るとはな」


 俺は廃都の屋根に立ち、上空を見上げた。

 灰色の空を背に、光る紋章旗が翻る。

 白と金――“聖教国”の象徴。

 彼らは神を語り、世界の秩序を管理する存在だ。


「“神の記録を開いた者を討て”。それが、彼らの大義です」

 隣でセリスが低く言った。

 その声に迷いはなかったが、わずかに震えを含んでいた。


「皮肉だな。神の力を守るために戦ってるはずが、

 実際は神々の“意志”を踏みにじってる」


「ええ。でも、彼らには見えないのです。

 神々がこの世界に何を遺したのか。

 そして、それをどう“託した”のかを」


 風が一陣、吹いた。

 廃都の瓦礫が舞い上がり、灰色の空に散る。

 まるで、この街が再び血を流すのを予感しているようだった。



 空から声が降ってきた。

 拡声魔法を通じた、男の声。


「継承者レオン・クロード。貴様の所業は神への冒涜であり、禁忌の力の使用に等しい。

 今すぐ降伏せよ。従わぬ場合、この地ごと“清め”る!」


 その声には傲慢な威厳があった。

 おそらく、王国の将――かつて俺が所属していたギルドを束ねる者たちだ。

 懐かしい名前が耳をよぎる。

 あの時、俺を笑って追放した奴ら。


「……笑えるな。俺を追放した連中が、今度は“処刑”に来たのか」


「レオン。彼らはあなたの力を恐れている。

 それだけ、あなたの存在が“世界の秩序”を揺るがせるということです」


「恐れ、ね……。なら、証明してやるさ。

 俺が何のためにこの力を持っているのかを」


 掌に意識を集中させる。

 右手の印が強く輝いた。

 空間が歪み、〈保存庫〉が開く。

 そこから、光の粒子が流れ出した。

 武具、魔導書、失われた装置、そして――翼。


「……これは?」


「〈封印庫記録:第七層〉より抽出。

 “神鳥エルメリア”の残骸だ。飛べるかはわからないが、試してみる」


 膨大な魔力が流れ込み、空気が震える。

 光が凝縮し、俺の背に白銀の翼が生えた。

 風を切る音がする。

 まるで、封印庫の記録そのものが形を取り戻したようだった。


「セリス。地上の守りを頼む。俺が上へ行く」


「……危険です。彼らは神殿兵器を持っています!」


「だから行くんだ。見せなきゃいけない。

 “神の遺産”が、破壊じゃなく“再生”のための力だってことを」


 翼を広げ、一気に跳んだ。

 体が軽くなる。風が頬を切る。

 空の向こう、無数の飛行兵たちが槍を構えた。

 魔導光弾が雨のように放たれる。

 空が閃光で満たされた。



 爆音の中、俺は両手を広げて〈保存庫〉を最大展開する。

 空中に無数の魔法陣が開き、古代の防御装置や盾が現れる。

 そのひとつひとつが光を放ち、無数の光線を反射していく。


「何だあれは!?」「攻撃が通らない!」


 兵たちの叫びが聞こえた。

 その声の裏で、俺の耳に別の声が響いた。


――〈記録継承:戦空の時代〉

――〈指令:記録の再構築〉


 視界の中に、遠い時代の光景が流れ込む。

 神と人が空を渡り、互いの信念をぶつけ合った“天空戦争”。

 封印庫はその記録を再現している。

 俺はその中心に立ち、両手を掲げた。


「この記録は、破壊のためじゃない。

 神々が人に“空を返した”記録だ!」


 翼を大きく羽ばたかせる。

 風が逆巻き、空の光が収束した。

 雨のように降る光弾を、すべて包み込み、溶かす。

 光が空を洗い流すように散った。


 静寂。

 ほんの一瞬、敵の攻撃が止まる。

 その間隙に、俺は叫んだ。


「俺は神を冒涜なんてしてない!

 神々の記録を、この世界に“残す”だけだ!」


 言葉が風に乗って広がった。

 その瞬間、空の一角で閃光が弾けた。

 飛行兵の一部が、突如味方に槍を向ける。


「……内乱? いや、違う――」


 俺の視線の先。

 隊列の中央に、一人の少女がいた。

 銀の髪、白い軍服。

 その手には、俺の〈保存庫〉と同じ紋章が輝いていた。


「――まさか」


 彼女が微笑んだ。

 その唇が、はっきりと俺の名を呼んだ。


「久しぶりね、レオン。

 あなたの“保存庫”は、まだ完全じゃない」


「……誰だ、お前は」


「私は、あなたと同じ継承者。

 “もう一つの封印庫”――〈虚無保存庫〉の管理者、リュナ・クロード」


 名前を聞いた瞬間、時間が止まった気がした。

 その姓。

 俺と同じ、クロード。


「“クロード家”の血は二つに分かれたの。

 一つは、記録を“残す”者。もう一つは、“消す”者。

 あなたが保存なら、私は削除。

 ――つまり、あなたの存在は、私の敵」


 笑顔のまま、彼女は指を鳴らした。

 次の瞬間、空が歪んだ。

 俺の〈保存庫〉が反応し、強制的に閉じ始める。

 光が乱れ、空気が弾けた。


「くそっ……!」


「会えて嬉しいわ、兄さん。

 でも、あなたが“記録を開く”なら、私は“その全てを消す”。

 ――それが、神々の最後の命令よ」


 彼女の声が風に消えた。

 空の裂け目が閉じ、飛行兵たちは撤退していく。

 残されたのは、灰色の空と静寂だけ。



 地上に降りると、セリスが駆け寄ってきた。

 その顔は青ざめていた。


「レオン、空で何が……?」


「新しい継承者がいた。

 俺と同じ“保存庫”の使い手だ。

 だがあいつは、保存じゃなく“削除”を司ってる。

 ――俺の妹だ」


 セリスが息を呑んだ。

 言葉を失い、ただ俺を見つめる。

 遠くで雷が鳴った。

 世界が軋むような音を立てて、動き始める。


「兄妹が分かたれた理由。それこそ、神代の最終記録でしょう」

「……そうだろうな。

 けど、もう逃げない。俺はこの力の全てを解く。

 そして――あいつを、取り戻す」


 風が吹いた。

 灰の空の向こうで、かすかに光が差した。

 それは、神代の記録が再び目を覚ます合図のように思えた。


次回 第6話「虚無保存庫リュナと再会の記録」

レオンは“記録を消す”継承者リュナの正体に迫る。

神々の命令に隠された真実、そして兄妹の記憶が明らかになる――。

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