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最弱スキル〈保存庫〉を笑われ追放されたけど、中に神代の秘宝が眠ってました  作者: 妙原奇天


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第4話 廃都アーケルと沈黙の魔王

 風が冷たくなった。

 北の空は常に曇っていて、陽の光が地を照らすことはない。

 廃都アーケル――かつて王国最大の魔導都市として栄え、いまは灰色の遺跡と化した街。

 かつての戦争の中心地であり、“最後の封印”が眠る場所でもある。


「……この街が、かつて王都を凌ぐほどの文明を誇っていたなんて、信じられないな」


 足元に砕けた魔石と焦げた金属の残骸が散らばっている。

 崩れた塔、途切れた橋、そして半ば溶けた魔法陣の跡。

 死の静寂の中に、かすかに魔力のざらつく音が響いていた。


「アーケルは、神代の終焉を見届けた地。

 この地に“魔王”が最後の命を燃やし、人と神を分かつ境界を作ったと伝わります」


 セリスの声は低く、風に掠れていた。

 青い鎧の表面にも、長旅の埃が積もっている。

 それでもその背筋は、一本の剣のように真っ直ぐだった。


「境界、か。つまり――ここが、神々と人間の決別点ってわけだな」


 俺の言葉に、彼女は頷いた。

 そして、俺の右手に刻まれた紋章を見つめる。


「〈保存庫〉の反応は?」

「……高い。これまでとは比べものにならない。

 封印が、まるで“呼んでいる”みたいだ」


 足元の地面が微かに震えた。

 灰色の石畳の下から、淡い赤の光が滲み出している。

 まるで地の底で、誰かが目を覚ますのを待っているかのように。



 街の中央――円形の広場。

 そこに、巨大な黒い玉座があった。

 かつて王が座したはずの場所。今は誰も座っていない。

 だが、玉座の背後には、確かに人影があった。


「……誰だ?」


 声をかけると、影がゆっくりと顔を上げた。

 長い白髪、紅い瞳。

 その男は、まるで死者のように蒼白い。

 だが、確かに息をしていた。


「来たか……継承者よ」


 静かで、深く、底の見えない声だった。

 セリスが剣を抜くよりも早く、男は手を上げた。

 その動作ひとつで、空気が変わる。

 地面に刻まれた古代文字が光を帯び、封印陣が浮かび上がった。


「封印庫の継承者レオン・クロード。

 私は“魔王ヴァルゼイン”。神代最後の守護者にして、世界を閉ざした者だ」


「……魔王、だと?」


「お前たち人間の歴史では、私が“破壊の王”と呼ばれているのだろう。

 だが、実際には違う。私は、神々が遺した力を“封じる”ためにこの地に残った」


 魔王――世界を滅ぼした存在。

 だが、その瞳には怒りではなく、悲しみが宿っていた。


「お前の中に眠る〈保存庫〉。

 それは神々が創り出した“記録の箱”だ。

 私がそれを封印したのは、神の記録が再び戦争を呼ぶことを恐れたからだ」


「戦争を……?」


「神々は人を滅ぼそうとしたのではない。

 人が神を利用しようとしたのだ。

 魔法、武具、知識――全てを自分の支配に使おうとした。

 だから私は、神々と共に封印した。

 記録を、世界の底へと沈めてな」


 セリスが息を呑む。

 俺も言葉を失っていた。

 神々は敵ではなく、守ろうとした。

 そしてこの“魔王”と呼ばれた男もまた、同じ目的を背負っていたというのか。


「……じゃあ、俺は何をすればいい。

 この力を、どう使えばいいんだ?」


「それを決めるのは――お前自身だ、継承者。

 封印を解けば、再び神の記録が世界に溢れる。

 その力を人がどう使うか……私はもう、見届ける資格を持たぬ」


 ヴァルゼインの瞳が俺を射抜く。

 その瞬間、〈保存庫〉が反応した。

 掌の印が熱を帯び、光が走る。


「――〈封印同調〉開始」


 意識が一瞬、引き裂かれた。

 視界の中で、瓦礫の街がゆっくりと反転する。

 音が消え、世界が沈黙に包まれる。



 そこは、灰色の空間だった。

 時間の流れを失った世界。

 目の前には、封印の中心に浮かぶ黒い結晶。

 その中に、人の形をした“影”が閉じ込められていた。


「これが……魔王の心臓……?」


 声を出した瞬間、影が微かに動いた。

 目を開け、俺を見た。

 その瞳には、怒りも憎しみもない。

 ただ、悲しみだけがあった。


――〈継承者よ〉

――〈我が記録を、解く覚悟はあるか〉


 脳裏に声が響く。

 問いかけというより、祈りのようだった。


「……ある。俺は、全部知りたい。

 神々が何を守り、人が何を失ったのか――それを確かめるまで止まらない」


 言葉と同時に、右手の光が結晶に触れた。

 眩い閃光。

 封印が崩れ、影が霧のように消えていく。

 そして、その中に“記録”が残された。


 ――〈神々は眠った。

   だが、彼らの意志は“人の記憶”として残る。

   継承者よ、記録を継げ。

   この世界の過去と未来を、保存せよ〉


 光が弾け、意識が現実へと引き戻された。



 目を開けると、セリスが俺を抱き起こしていた。

 彼女の頬には、涙の跡があった。


「レオン……無事ですか?」


「ああ……。でも、見たよ。

 魔王も、神も、同じだった。

 この世界を、守ろうとしていたんだ」


 言葉を紡ぐたびに胸が締めつけられた。

 〈保存庫〉はただのスキルじゃない。

 過去の命が息づく、世界そのものの記録だ。

 そして、それを継ぐのが俺。


 セリスが静かに頷いた。

 「次の封印を開けば、すべてが繋がるはずです。

  でも、同時に世界中の勢力が動き始めるでしょう。

  封印庫の存在を知る者が、放っておくはずがない」


 その時、空を裂くような音がした。

 遠く、雲の向こうに黒い鳥の群れ――いや、違う。

 鋼の翼を持つ“飛行兵”の群れが迫っていた。

 王国の紋章を掲げた旗が翻る。


「……早いな。もう嗅ぎつけてきたか」


「彼らは“教国の討伐部隊”です。

 封印庫を危険視し、継承者を“神の冒涜者”として処刑するつもりでしょう」


 セリスの言葉に、俺は息を吐いた。

 逃げるわけにはいかない。

 今さら、また追放者に戻る気もなかった。


「なら、迎え撃つさ。

 この〈保存庫〉には、まだ眠ってるんだ――“戦わなかった英雄たち”の力が」


 右手を掲げる。

 光が再び集まり、背後に無数の武具と影が浮かぶ。

 それは、過去の記録に宿る魂たち。

 俺の“倉庫”に眠る、忘れられた戦士たち。


「行くぞ、セリス。

 ここからが本当の戦いだ」


「……ええ、継承者。あなたと共に」


 廃都の空を、光と炎が切り裂いた。

 世界の記録が再び動き出す。

 追放された男と、女騎士の戦いが、やがて“神話の続きを書く戦場”へと変わっていく。


次回 第5話「継承者討伐令と裏切りの翼」

封印庫を危険視した王国と教国が動き、レオンに“神罰”が下る。

だがその陰で、“もう一人の保存庫使い”が目を覚ます――。

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