1 嫁さん決意する
レビラト婚って単語を知って衝動的に書いてしまったものですw設定とかはこれから考える予定(^_^;)更新頻度は低めかと…すみません
俺、錦清隆の兄貴は所謂天才だった。あらゆる才に恵まれており、容姿も良く、性格も基本的には良かった。
ーーー俺の前以外では。
兄貴は出来の悪い俺のことを表面上は親しげにしてくれたけど、裏では殴ったり蹴ったり罵倒したりと俺は兄貴のストレス発散に使われていた。
『本当、お前みたいな出来損ないが俺の弟とか人生の汚点だよな』
ごめんなさい、ごめんなさい。そう謝ると必ず兄貴は言っていた。
『マジで、早く死んだ方がいいんじゃね?このクズが』
兄貴と同じ家に住んでいた頃は毎日のように暴力を受けていた。お小遣いも取られて、好きだった女の子も兄貴は俺への当てつけで奪っていく。友人も家族も皆兄貴のことが大好きだから居心地が悪かった。
両親は不出来な俺がどんな扱いを受けていても何も気にしなかっったが、それでも兄貴のせいで出来た怪我を見せるわけにはいかずに夏でも長袖を着るしかなかった。
でもね、この頃の俺はこの扱いをそこまで気にしていたわけではないんだよ。心配だったのは、兄貴がこの先結婚とかして家族に同じようなことをしないかどうか。
俺だけが辛い目にあうなら耐えられるが、見知らぬ他人がこんな思いをするのは心苦しい…だから、無理をしてでも兄貴と同じフィールドに立とうと頑張ったけど、それでも高校までついて行くのが限界だった。
そうして、高校を卒業してから兄貴は最難関の大学を通って一流企業に。俺はといえば、卒業してから24時間営業のディスカウントストアに務めることになった。
兄貴が結婚をしたと聞いたのは兄貴が就職をしてからすぐのこと。相手はかつて俺が好きだった女の子…ではなく、同じ大学で知り合った人らしい。
らしいというのは、結婚式に呼ばれなかったからだ。親からはなんで来なかったと叱られたが…まあ、それは些細なことだろう。子供も産まれて順風満帆のはずが、いつ頃からか、親から頻繁に連絡が来るようになった。内容はお金の相談。
嫌な予感がして、聞くとどうにも兄貴が多額の借金を背負ったとのこと。仕事も辞めたそうで、俺はますます嫌な予感に囚われて親から無理に住所を聞き兄貴の家に向かうと、家の前で倒れている女性を見つけた。
「大丈夫ですか!?」
「あ…すみません。ちょっと立ちくらみがしただけです」
そう言いながら無理に立ち上がろうとするその人は、前に写真で見せて貰った兄貴の嫁さんに違いなかったが、見るからにやつれていた。
睡眠不足なのか目にはクマが出来ていたし、肌も青白くなっており、顔色も悪かったので救急車を呼ぼうとする前にそれは聞こえてきた。
「美星!酒が足りねぇって言ってるだろうが!」
びくん、と怒鳴り声に怯えるその人を庇いながら俺は兄貴に言った。
「久しぶり。兄貴」
「あん?誰かと思えば馬鹿弟か。相変わらず粗末な顔してんなぁ」
「兄貴。まさか俺にしてたようなこと自分の家族にしてないよね?」
そう聞くと兄貴はにたぁと笑って言った。
「だったらなんだ?コイツは俺の所有物だ。何をしてもお前には関係のないこだろう?あぁ、娘も何年かしたら食うのもいいかもなぁ」
「ーーー!あ、あの子だけは見逃してください…」
ガタガタと震えながらそう言うその人。どう見ても明らかに今の兄貴はヤバいと思い俺は言った。
「兄貴。病院に行こう。今の兄貴は精神を病んでるんだよ」
「はぁ…あのなぁ」
バリン!と、手に持っていたビール瓶を振りかざしてから、それを思いっきり俺に打ち下ろしてきた兄貴。まともに頭に受けてしまい、倒れ込む俺に向かって兄貴は怒鳴った。
「俺は正常に決まってんだろうが!グズの分際で指図するんじゃねぇ!」
「…!?だ、大丈夫ですか!?」
正直意識が朦朧とするが、それでも俺はその人に向かってなんとか思っていたことを言った。
「ちゃ…ちゃんと、助けてって…言葉に…しないと…助けられな…いですよ…」
「えっ…」
多分、この人は昔の俺と同じ境遇にいるはずだ。だからこそ誰にも言って貰えなかった台詞を言いたくてここまで来たのだ。助けられるかなんてわからない。でも、あの地獄を知ってるからこそ手を差し伸べたいのだ。
朦朧とする意識と、騒ぎを聞きつけた近所の人が呼んだのか救急車とパトカーのサイレンが鳴る中で、最後に見えたのはその人の何かを決意する表情だった。