2 嫁さん離婚とお礼をする
「いやぁ、よく生きてたよね。当たりどころが悪かったら死んでたかもねぇ。あはは」
そんな先生の明るい言葉にげんなりしてから、病室で大人しく寝ている俺。あれから色々あって、兄貴は施設に入れられることになった。本当ならもっとややこしくなるのだが、多分うちの親がそれを嫌がって、なんとかそこに落ち着いたのだろう。
まあ、というか俺がある条件で納得させたのだが。
「林檎剥けましたよ」
そう言いながら俺の病室に何故かいる兄貴の嫁さん…錦美星さんは、あれからすぐに兄貴と離婚したそうだ。まあ、これから会うことはないのだろうが…
「あの、別に無理に来なくても大丈夫ですよ。色々大変な時でしょうし」
「そうはいきません。離婚の手助けにしろ、借金まで肩代わりして頂いて何もしないのは落ち着きませんから」
そう、借金問題という深刻な問題は俺が肩代わりすることで1度決着をつけたのだ。示談の条件として離婚届にサインをさせたのも記憶に新しい。
何故そこまでしたのか…これは、俺自身の負い目からだ。兄貴があんな風なのは前から知っていたのに、それを矯正出来なかった俺にも多少の負い目があるから…まあ、こればかりは下心なんてまるでなかったんだ。
なのに、この人はそれに恩義を感じてこうして毎日忙しいだろうに見舞いにきてくれているのだ。
女性というものは本当に男よりメンタルが強いものだなぁと、思っていると、美星さんは言った。
「あの…ありがとうございました。あの時に、ああ言って貰えたから、私と娘はあの人から逃げられました」
「いえ、俺はただ、自分にしていたことを家族にしていないか不安だったので…むしろ、気付くのが遅れてすみません」
「あの……これは聞いていいかわからないのですが…清隆さんもあの人に何かをされてたのですか?」
そう聞かれたので、俺は思いつくことをいくつか話した。すると、美星さんはポロリと涙を零し始めたので驚いていると、俺の手を握って言った。
「そんなにお辛かったのに私達のことを…本当にありがとうございます」
「いえ、でもこれで美星さんと娘さんは自由です。後のことは気にしないで自由に生きてください」
借金の支払いをしても、元々働き初めてからの貯金が少し減った程度なので何の支障もないし、そう言うと美星さんは首を横に振って言った。
「いえ、借金はお時間かかっても必ずお返しします。それにこの恩も決して忘れません。ですから、あの…わ、私に出来ることが、あればなんでも言ってください!」
うーん…その台詞は誤解を招きそうな気が。
バタンと、ふと音がして扉の方を見ると会社の後輩が気まずそうに立っていた。
「あの~お取り込み中のところすみません」
「あ、会社の後輩です」
「でしたら、私はこれで失礼します。また明日も来ますので」
そう言ってから立ち去った美星さんを見てから後輩の坂口は言った。
「えらい美人さんっすけど、錦先輩の恋人さんですか?」
「いや、元兄嫁かな?」
「はぁ~、じゃあ、NTRっすね」
「むしろ奪われる側なんだよなぁ…」
そもそも、美星さんにはこれから他に好きな人が出来ることだろうし俺がしゃしゃり出るのは可笑しいだろう。
「それで、なんか用でもあったのか?」
「あ、そうそう、早く帰ってこいって社長がうるさいんすよ~。田原パイセンもサボれないから早く来いって怒鳴ってて~」
「それはすまない。まあ、そのうち退院になるから大丈夫だよ」
そうして後輩と話しつつも、退院したらきっと美星さんとはもう会わないだろうなぁと、密かに思っているのだった。あれだけ美人なら子持ちでも引く手あまただろうし、年齢的にも能力的にもかなりの逸材っぽいしね。
ま、それが自然なことで、俺は俺の美星さんは美星さんの人生を生きていくのだろうとこの時は思うのだった。




