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8. 怒り心頭に発する男


ひょいっと持ち上げられた。

まるで荷物のように。


「ちょっ、たかいたかいっ。」


肩に担ぎ上げられて、思わず抗議の声をあげる。

対する相手の反応は。


「うるせえ!!いま何時だと思ってんだ!!!」


倍になって返ってきた。

いや、時間を気にするなら、あなたの声のほうが問題じゃありませんか。

いま何時だと思ってるの、この人。

深夜ですよ。


どすどす、という表現が見事に当てはまるような足どり。

やがて、奥の一室に着くと入口を蹴りあげる。

がんっ、と悲鳴をあげて戸が開いた。


「……。痛そう。」


扉に痛覚がないことは承知のうえだが、怒りの矛先が向けられたことに同情してしまう。

…怒らせた原因、私だけど。


そんな怒り心頭に発する大柄の男は、無言を貫いた。

ずんずんと寝台へ進み、ぽいっと落とされる。


「わっ。」


「寝ろ。」


有無を言わさず。


あー、だから怖いとか言われるんだよ。

なんて考えていたら、伝わったのだろう。

じろり、と睨まれた。


「寝ます寝ます寝ます!!」


これは逆らってはいけないやつだ。

履いたままだった靴を脱ぐところを見届けて、ゆっくりと身の内にある怒りを鎮めている男。

ちら、と見上げると目が合った。


「部屋の外にいる。

着替え終わったら声をかけろ。」


ぱちぱち

まばたきして相手を見上げる。


え、本気ですか?

あ、これ本気ですね。


「ユカリ。」


こちらの、何とも言えない気持ちが伝わったのか。

不機嫌ですと、顔にデカデカと書いてある。


「ちゃんと寝るか見張る。

お前、見ておかないと休まないだろうが。」


信用されてないなあ。

仰るとおり、だけど。

だってさあ…。


「夢を見るのが怖いのか。」


あんたはエスパーか。

思わず、胡乱な目つきで男を見てしまった。

すると、また怒りがぶり返したようだ。


「うなされたら起こしてやるって言ってんだろうが!!」


ぐわっと、怒声を浴びせられた。

しかし。

すぐに、しまった、というような後悔が滲んだ顔になる。


知っていたけどね。

医師の話を聞いていることは。

そして、うなされたら起こしてくれるっていうのは、はじめて聞いたぞ。

寝つくまで見張るどころか、一晩中、見張るつもりだったのか。


しかし、人生って本当に何が起こるかわからない。

当たりが強い人は苦手だというのに。

だんだん、この人嫌いを自称する苛烈な性格の男に慣れてきてしまっているのは間違いないだろう。


…まあ、いいか。

うん…気にしない。



♢♢♢



盗賊集団が村を襲撃したのは、日が落ちて間もない頃のこと。


そして、それから数時間後。


カラの村に、数人の冒険者が到着した。

盗賊たちから運良く逃げのびた村人が、東の街へ助けを求めに走ったのだ。


周辺には小さな村がいくつかあるが、戦力となるのは大きな街だ。


東の街には、国の軍が駐屯している。

カラ周辺も、東の街の軍隊の管轄である。

この国の軍は警察の役割も兼ねているので、何か事件がおこると軍に頼ることになる。


そのため、逃げた村人は東の街を目指した。

そこで、日が落ちたにもかかわらず、カラへ向かう冒険者らしき集団と行き合うこととなった。

事情を聞いた冒険者たちは、村人に1人を付き添わせて東の街へと向かわせた。

残りは急いでカラの村へ。


だが、その冒険者たちが到着したころには、既に盗賊集団は村から立ち去っていた。


すっかり夜も更けたころ。

軍も到着し、本格的な救助活動が開始された。

もちろん、盗賊集団の捜査も。

東の街の冒険者ギルド支部の人員も来て、元冒険者の情報提供など、捜査協力をしていたようだ。


だが、実はそのあたりの詳しいことは知らない。

なぜなら、その時すでに気を失っていたので。

冒険者たちが村へ到着し、縄をほどいてくれたとき、心底ホッとした。

私の記憶は、そこで途切れてしまっている。



夜が明ける。

空が白んでくる。


カーテンから漏れる光を眺めて、視線を天井に戻す。


隣から、ものすごく視線を感じるが、そちらを見る勇気はない。

言いたいことはわかる。


だがしかし。

身体が言うことを聞かないのだから、どうしようもないではないか。

それに、何とかなる気もする。

本当に限界がくれば、自然と眠りに落ちるのでは…。


ぼんっと、拳が顔の真横に叩きつけられた。

衝撃で、寝台が揺れる。

横たわっていた私の身体も一緒に揺れた。


先ほどまで天井を映していたはずの瞳は、青筋の浮いた男の顔が映っていた。


あ、これ死んだ。

本当は寝ようと思っていました!

言い訳ぐらいさせてくれ!


「いや、寝ようとしたけど、身体が拒否したっていうか、言うことを聞かなかったっていうか!!」


目を瞑ってはいたが、全く寝ていないことがバレていたようだ。

それどころか、先ほどの開き直った思考まで読まれていたかもしれない。


「…午前中に医師を呼ぶ。」


眉間に深い皺。

深く息をついて、一言。


言いたいことは山ほどあるのだろうが、怒りを抑えて、それだけを口にしたようだ。

寝台脇の椅子に座りなおして腕を組み、それきり何も言わなかった。



そのまま、しばしの時が流れた。

眠れない。

いや、正確には寝たくない。


あれから。

カラの村の事件から10日。


眠りに落ちるたびに、あの日のことを夢に見て飛び起きる。

そのせいだろう。

私の身体は寝ることを拒否した。


そして。

気づかれた。

2日前に医師を手配したのは、この男だ。

その時は、心の安定をもたらす薬草を処方されたが、これは睡眠を促すものではない。

精神的な苦痛を和らげるものだ。

これで眠れなければ、睡眠用の薬を処方しようという話だった。

おそらく、今日の診察で処方されるのだろう。


「ねえ、アッカー。」


沸点が低くすぎて常に怒鳴られている気もするが、なんだかんだで世話をしてくれている。

人嫌いだと言うくせに。


「なんだ、クソガキ。」


もう30だというのに、クソガキ呼ばわりですか、そうですか。

口悪いんだから。


それでも、感謝はしている。

思えば、ちゃんとお礼を言っていなかった。


「ごめんね。ありがとう。」


「寝ろ、ガキが!」


素直な感謝には、期待を裏切らない怒声で返された。

…解せぬ。


RPGで有名な、某ゲーム会社のDとかKとかFとかのゲームが好きです。

この物語も、かなり影響を受けておりますね…。


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