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仮面の下は…【未完】  作者: YUKI
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2.第一・第二の仮面




 ゴールデンウィークが明け、祖父母の家から戻ってきた瑞稀のその表情は常に笑顔だった。


 彼女は私立桜橋(さくらばし)学院高等部2年に属する。この学院は所謂「お金持ち学校」であり、階級制を採用していた。生徒の学力と生徒の家の地位。その2つを総合し、クラス分けを行っていた。

 Aクラスから始まり、Eクラスまでの5クラスから成る。1クラス30人の構成で成されているこの学院は、Aクラスが世界的に有名な企業の子息令嬢。B・Cクラスが日本有数企業の子息令嬢。Dクラスは日本有数企業の上位子会社の子息令嬢。そして、Eクラスが極道の子息令嬢たちのクラスであった。


 そして、瑞稀の所属するのはSクラスといわれる特別クラス。


 Sクラスとは、世界大企業でもTOP100位以内に名を連ねる企業の子息令嬢たちで構成されているクラスであった。その中でも、〔第○位〕と生徒の優劣を付けているこの学校でもTOP10位に入る生徒たちがいた。


 もちろん、世界第14位・日本第2位「月宮グループ」の令嬢である瑞稀はこの学院でも〔第2位〕の生徒であった。



「ごきげんよう、瑞稀様」

「ごきげんよう、皆さん」



 にっこりと綺麗に微笑む瑞稀。そんな彼女に見惚れる桜橋学院の生徒たち。ここに一種の“日常”と呼ばれる風景が広がっていた。



「ご機嫌麗しゅう、瑞稀様」



 瑞稀の前に現れたのは、Sクラス〔第3位〕世界第32位、日本第3位「|甲斐崎《かいざき」財閥」令嬢、甲斐崎 優菜(ゆうな)だ。



「ご機嫌よう、優菜さん」

「お久しぶりです。お元気そうで何よりです」



 桜橋学院は初等部・中等部・高等部・大学部の4つから成り、東西南北に各部の棟が建っている。その中央に管理棟と中央棟があった。



 いつも通り周りを生徒たちに囲まれ笑顔を顔に貼り付けた瑞稀と、そんな彼女を内心苦笑しながらも満面の笑みを浮かべている優菜。廊下を埋め尽くす勢いの生徒がいるにも関わらず、Sクラスへの道は勝手に開けていく。



――ゴーン… ゴーン… ゴーン…



 中央管理棟の屋上にある鐘が鳴り、授業開始の合図を知らせる。それまでには全員がクラスに入っていた。



「では、本日の授業を始めます」



 各教室に教師陣が入ってくる。

 もちろん、Sクラスにも同じく。



――が、Sクラスの教室に瑞稀の姿はなかった。






◇◆◇◆◇






 桜橋学院の最東に位地する理科棟旧校舎に、彼女の姿があった。



「…いつもながら、ココは息が詰まるね…」



 無表情の彼女のつぶやきのみが、この空間に溶け込む。


――prrrr… prrrr…


 虚ろな目で古い天井を見つめる。そんな中、高等部生の証拠であるブレザーの内ポケットに入れていた白のスマートフォンが鳴りだした。

 面倒くさそうに画面を見て、ため息をつきスマホを投げ出す瑞稀。その間も鳴り続けるスマホを完全に無視し続ける。


 程なくして鳴り止むスマホ。だが、数秒後にはまた鳴りだす。



「……」



――prrrr… prr…ピッ


 無表情とは程遠い冷酷な表情で電話に出る彼女。



「…いかがなさいましたか、旦那様」


 電話の相手は、父・月宮 康輝(やすてる)氏。決して仲が良い親子とは言い難い二人の間には、氷点下以下の冷気が漂う。


「瑞稀、今どこにいる」

「…学校です。今は平日の昼間ですので」

「そうか。明日、椿会の定例会があるのは知っているな」

「はい、もちろんです。今月は香港で開催予定のはずですが」

「その会に出席しろとのことだ」

「…は?」

「私に何度も言わせるな。明日の20時からの椿会定例会に出席しろ。これは会長からの命令だ」

「……会長…。…大旦那様からの…ですか」

「ああ。会長は今日付けで会長職に復帰された。よって、月宮家本家並びに分家の最高権力者となるのは会長だ」

「…かしこまりました」

「明日、粗相のないようにしろ。分かったな」

「はい…」



――プーッ プーッ プーッ…



 父の一方的な話に半ば着いていけず、茫然となりながらもどうにか話を飲み込んでいる瑞稀。康輝も実の父である輝一の事を“父”と呼ばず、“会長”と呼ぶ当たり、彼ら親子の仲も冷えているのだろう。



(私に椿会から出席命令?それに会長って…。おじいちゃんは椿会のメンバーではないはず…。なのに、どうして)



 疑問しか湧いてこないこの話に、久しぶりに彼女の脳はフル回転する。

 彼女は輝一と狼麗グループ会長たちが知り合いなのを知らなかった。



(それに、社長はお父様でしょ?なんで一社長令嬢の私が社長であるお父様を差し置いて出席するの…?)



 いくら考えても何もわからない。

 悶々としながら考えていると、いつの間にかお昼の鐘が鳴り響く。



(…考えてもわからないものはわからないからね…。お昼行こっ)



 彼女の本性の一部である“楽観的思考”が発揮された瞬間だった。






◇◆◇◆◇






 中央棟の3・4階にあるシンプルの中にある豪華絢爛なこのカフェテリアには、お昼だからだろうか、多くの生徒がいた。構造は3階に2000以上の席があり、中2階に1000席以上。そして4階に50程の席が置かれている。また、3・4階の壁の一面は全てUVと熱を90%以上も遮断するガラスが張られていた。そして4階の床は半分なく、突き抜けで開放感満載だ。

 もちろん、このカフェテリアにも階級はある。下はC・D・Eクラス、中2階にA・Bクラス、そして4階にSクラスの生徒が座るというのがこの学院の暗黙のルールだった。



「瑞稀、おはよー」

「…ごきげんよう、萌々(もも)さん」



 4階に着いた瑞稀に声を掛けてきたのは、Sクラス〔第1位〕世界第2位・日本第1位「(すめらぎ)グループ」令嬢で、瑞稀の幼馴染でもある皇 萌々だった。



「ねぇ瑞稀、あんたもしかしてずっと旧校舎にいたわけ?」

「……ええ、まぁ」

「はぁ…。朝、正門のとこにいたでしょ?」

「……いましたよ?」

「じゃ、それからずっとどこにいたのさ」

「……えっと、旧校舎の方に…」

「……だったらずっといたってことでしょうが…」



 眠そうな瑞稀に呆れながらため息をつく萌々。萌々のハニーブラウンのフワフワしたショートヘアが風に揺れる。


 世界でもTOP5に入る皇グループの長女が、こんなに口調が悪いという事実を知っているのは、恐らく生徒では瑞稀のみなのではないだろうか。(というか、大企業のご令嬢がこんな言葉遣いでいいのだろうか…)


「あ、瑞稀。明日の椿会に出席するってホント?」

「…相変わらず情報を掴むのがお早いことで」

「そりゃ、父様が椿会のメンバーだからね。昨日の夜、父様と壱成(いっせい)兄様がディナーの時に話してたんだ」

「…龍さんが壱成さんに?」



 さっきまでの“月宮家令嬢”としての顔が崩れ、意外そうな顔をする瑞稀。



「そう。なんでも、今回の定例会から壱成兄様も試しで参加するって」

「…そういえば、そのような事を聞きましたね」

「へぇ。……にしても、あんた猫被るのホントに得意だよねぇ」

「…お褒め頂き光栄です…」



 この学院の生徒で、唯一瑞稀の仮面の下を知っている萌々は褒めているのか、はたまた貶しているのか…。いつもの調子で瑞稀と会話していた。



「って、そろそろお昼終わるじゃん。私教室に戻るけど、あんたどーすんの?」



 特選牛のステーキをメインにしたAコースのランチを食べた萌々は、いつもよりも満腹になったのだろうか。少し苦しそうな顔をしている。



「…いいえ、遠慮しておきます。…退屈ですし…」



 何を言っているの。と言わんばかりに瑞稀がいうと、だよね。と呆れながらため息をつく萌々。どうやら納得しているようだった。



「んじゃ、放課後。…今日もELICの仕事するんでしょ?ゴールデンウィーク中は紗代様たちのところに行ってただろうしね」

「…おっしゃる通りです、萌々副社長」



 怖い笑みを浮かべ合う二人。


 ELIC――「Eosu(エオス) lrene(エレーネ) |Internationlインターナショナル Company(カンパニー)」。アメリカに本社を構える世界企業第1位のグローバル大企業。

 この会社は、瑞稀が16の時に立ち上げあたIT企業であり、元々は彼女のみで設立した会社であったが萌々の対人スキルが意外にも高かったのを知っていた瑞稀は、彼女を副社長とした。もちろん、面白いことが大好きで好奇心旺盛な萌々は、すぐに返事をした。いい方のね。そのまま「月宮 瑞稀」として社長職に就こうとしていたが、父の性格上、使える者はなんでも使えという性格なのを知っていた瑞稀は、「九條 稀弥」として偽りの名を使っているのだった。



「…では萌々さん、また後程(のちほど)

「うん。…あ、後で理事長室に寄って行く?」

「いいえ、それはちょっと…。私、理事長先生の事少し苦手ですし…」

「…あんたのその対人スキル、もう少し上げたら?」



 萌々は目の前で優雅に紅茶のカップを運ぶ瑞稀に、呆れたような視線を向ける。



「必要な時はちゃんとできますよ。それに、対人スキルなんて社交界の時だけでよろしいのでは?」

「ま、そうだけどね。けど、あんたの対人スキル、必要な時は私よりも高いよね。…なんで?」

「…いや、なんでと言われましても…。実家の英才教育の賜物でしょうね。貴女は理解しているでしょうに」



 ため息を付く瑞稀。萌々は少し苦笑を漏らしている。



「そうだったね。…って、時間マジでヤバいかも」

「早く戻った方がよろしいのではなくて?」



 ソーサーにカップを置き、親友ににこやかに笑みを向け喋っていた瑞稀が、一瞬にして冷たくなる。



「うわっ。冷たっ」

「そうですか。では、さようなら」



 そう言うと瑞稀は席を立つ。

 萌々もため息をつき、左腕の腕時計を見て慌てて走っていった。








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