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仮面の下は…【未完】  作者: YUKI
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1.本当の彼女




 ある晴れた日の昼下がり。初夏の風を感じながら一人の少女がピアノの周りに楽譜を散らかして気持ちよさそうに寝ていた。



 腰あたりまである白銀の長髪は柔らかなそよ風に(なび)いていた。

 真っ赤に熟れたサクランボの様な唇と、赤ちゃんのような白く美しい肌。そして、まるで西洋の人形の如く美しく整ってる顔。周りの人に彼女の第一印象を聞けば、間違いなく全員が“美女”と答えるだろう。



 そんな彼女―――月宮(つきみや) 瑞稀(みずき)・高2は現在、ゴールデンウィークとのことで田舎の祖父母の元へ一人、遊びに来ていた。


 100平米は余裕であるであろう日本屋敷に住んでいる祖父母は、家族とは口だけの彼らのせいで素顔が出せなくなった瑞輝が唯一“本当の”自分が出せるところであった。



「瑞稀ちゃん、瑞稀ちゃんっ。ほら、起きて?おやつにおはぎを作りましたよ。一緒に食べましょう?」

「…ん…」



 料理上手で笑顔が絶えない祖母・紗代(さよ)が瑞稀を起こしに来る。

 まだ寝たりないのか、起きて座ってはいるがボーッとしている彼女。大きな二面の開いた窓から生暖かい風が入ってくる。それは瑞輝の銀の髪を撫で、散らばった楽譜をまたバラバラにしていく。



「ほらほら?瑞稀ちゃん、おはぎをどうぞ?」

「…ん」



 欠伸を噛み殺し、目を擦りながら起きる。



(……眠い…)



 二人がいたのは瑞稀が昼寝をしていたピアノが置いてある40畳はあろうかという大きな洋室。壁二面分が大きな窓になっており、そこから初夏の光と風が入ってくる。紗代と瑞稀はそこから隣にあるダイニングに移動する。そこには、ニコニコしながら祖父・輝一(てるかず)が既におはぎを食べていた。



「おや?瑞稀、起きたばかりか?おはよう」

「…ねぇおじいちゃん、今何時か分かってて言ってるの?3時過ぎてるよ?それとも、もうボケちゃった?まだ65歳なのに?おばあちゃんはまだまだ元気なのに?やっぱり男性って女性よりも早死にするって言うけど…その通りなのかな?心配だねぇ~、おばあちゃん」

「本当にそうねぇ~。輝一さん、長生きしてくださいね?」

「…二人とも、儂の事を少しバカにしとらんか…?」



 少し拗ねる様につぶやく祖父を放っておき、瑞稀と紗代は笑っておはぎを食べ始める。


 ニコニコの紗代と同じくニコニコの瑞稀。そんな二人を見て、輝一はフッと笑みを漏らす。そこには温かい家族の輪がそこに広がっていた。



「それで、学校は楽しいかしら?」

「…んー。楽しい…のかな?」



 瑞稀はおはぎを頬張りながら学校での生活を思い出すように言う。



「なんじゃ、それは。曖昧ではないか」

「まぁ、一部の人達だけと一緒にいる時は楽しいよ?」

「あら、ちゃんと青春してるじゃないの。よかったわ」


 

 紗代は笑みを浮かべ、庭のハーブたちで作ったお気に入りのブレンドハーブティを口に運ぶ。



「クラスとかは相変わらず面倒だけどね」

「そんなこと言っちゃダメよ?お友達は大切にしなくちゃね」

「ちゃんといるよ?まぁ、親友って感じかな」

「…まぁ、月宮の名からは逃げられんからな…」



 これまで黙っていた輝一は遠い目をしながら悲しそうな声音でいう。

 その何気ない一言で、三人の空気は凍り付いた。


 そして、居心地の悪すぎる沈黙が流れる。



「ねぇ、瑞稀ちゃん。ピアノ、弾いてくれないかい?」

「…ピアノ?」

「そう、ピアノ。おばあちゃんね?瑞稀ちゃんのピアノ大好きだから」

「…いいよ」



――カタン……。



 静かに立ち上がり、先ほどまで昼寝をしていた部屋へと足を進める瑞稀。彼女のこの世のものとは思えぬ程美しい銀髪が風に靡く。


 その後ろを、微笑みながら輝一が追う。キッチンへ向かった紗代は、輝一の好物であるコーヒーを準備しに行ったのだろう。



「……」



 彼女が無言で弾き始めたのは「ベートーベン作曲 交響曲第九番 第四楽章『歓喜の歌』」。合唱部分もあるこの曲と、瑞稀は一瞬にして変奏していく。コーラスを二声で弾き、左手は巧みな指裁きで天井の調べを奏でていく。《我々は神の名の下に平等なのだ。さぁ、互いに手をとり、喜びの園へと進もう》という歌詞を体で表現するかの如く、瑞稀はその抜群のスタイルを誇る体で曲を奏でていく。

 紗代の最も好きな楽曲であり、瑞稀が最も得意とする楽曲でもあった。



 静かな空間にピアノの音のみが広がる。



「…瑞稀ちゃん、やっぱり元気ないですね…」

「…お前もそう思うか」

「ええ、なんだか元気がないように思えます…」



 紗代の一言で夫婦はカップを片手に少し黙り込んでしまう。



「恐らく、婚約者の件だろうな…」

「…輝一さん、どうにかなりませんか?」

「それは無理な話じゃな。月宮グループの社長は儂じゃないからの。…康輝の決定は絶対じゃ…」



 輝一が静かにコーヒーを口へと運んでいく。



「…そうでしたね。月宮グループの権限は全て社長である康輝にありましたね…」

「ああ。儂が引退した時に決めたじゃろう。…やっぱり会長として仕事するかのぉ…」



 遠い目をしながら息を付くように言う。



「あら、もうお歳でしょうに。大丈夫ですか?瑞稀ちゃんにも先ほど言われていたでしょうに」

「はっはっはっ。大丈夫じゃ。無理はせんよ。…さて、久しぶりに(ロン)のやつに会いに行こうかの…」

「狼…() 狼龍(ロウロン)様の事ですか…?」



 紗代は少し意外と言わんばかりに瑞稀の左目と同じ蒼い瞳を見開かせ、輝一を見る。



「ああ。あ奴は“ウーラノス会”の一員だ。儂が何とかするよりは可能性が高いからな」

「ウーラノス会…。椿(つばき)会…ですね。…確かに、あの方々ならばできるかもしれませんね…」

「あ奴らならば、どうにかできるやもしれんしな」

「……一体どなたですか?」

「龍成たちじゃ。それに、2年くらい前だったかの。MOIRA(モイラ)社の社長と狼麗(ロウレイ)グループの専務。それからFly(フライ) Wing(ウィング) Company(カンパニー)(FWC)の専務の三人が新しく加わっておるよ」

「そうなんですか。では、瑞稀を入れて十人になったのですね」

「…結構大所帯になっておるの…。にしても、いつまで九條(くじょう) 稀弥(きや)としてELICの社長をするのかの」



 またも少しの沈黙が二人の間を駆ける。



「康輝たちにも言っとらんみたいだからな。…家族にくらい少しは頼れば良いものを…」

「…それができない環境で生活をさせてしまった、私たちのせいなのかもしれませんね…」



 瑞稀がピアノを弾いている約10分の間、紗代と輝一は紅茶を片手に静かに話していた。


 二人の話に出てきた“ウーラノス会”とは、表には決して出ない、世界大企業トップ5のそのトップに君臨するものだけで構成された会のことであり、通称・椿会の異名を持つ会だ。

 そして現在、その会に属しているのは、十人。

月宮グループ社長令嬢である瑞稀が社長を務める世界第1位・Eosu(エオス) lrene(エレーネ) |Imternationlインターナショナル Company(カンパニー)通称【ELIC】社長/九條 稀弥(瑞稀)。

世界第2位・日本系企業・(すめらぎ)グループ社長/皇 龍成(りゅうせい)

世界第3位・香港系企業・狼麗(ロウレイ)グループ会長/李 狼龍、社長/李 耀狼(ヤオロン)、専務であり次期社長/李 狼偉(ロウウェイ)。世界第4位・イギリス系企業・Fly Wing Company通称【FWC】会長/ローレンス・セシル・クレヴァリー。社長/マーティン・ウィル・クレヴァリー。専務であり次期社長/クライヴ・レナード・クレヴァリー。

そして、世界第5位/イタリア系企業・MOIRA社会長/フォルトゥナート・マルコ・オルランドーニ、社長/グラツィアーノ・ジャンピエトロ・オルランドーニ。


この十人によって構成されていた。


 また、輝一と大親友であるフォルトゥナートとローレンスの三人は今でも月一でお茶会を開いていたり、輝一のアドバイスのお陰で会社を大きくすることのできた龍成は一番忙しい元旦に必ず自らが挨拶に行くという尊敬ぶりであった。そのため、ウーラノス会に所属していない輝一が彼らに影響を与えることができるのであった。



「…ねぇ、おばあちゃん?」

「…ん?どうしたの?」



 目を瞑りピアノを弾き続ける瑞稀が紗代に聞いてくる。



「…私、来年も再来年も、こうして笑っていられるかな…?」

「……」



 可愛い孫がふと言った一言に、紗代は言葉を失った。隣で紅茶を飲んでいた輝一も思わず手を止めてしまう。



「…どう思う?おばあちゃん」

「…そうねぇ…。またここにいらっしゃい?おはぎを食べて、またピアノを聞かせて頂戴な」

「…うん」



 弾き続けている瑞稀はまだ目を瞑ったまま。紗代はそんな孫に涙目にして優しく語り掛ける様に言った。



 そして弾き終わり、ここにきて一番の満面の笑みを見せてくれた瑞稀。その笑顔で祖父が一つの覚悟をしたのはまだ本人しか知らない…。






◇ ◆ ◇ ◆ ◇






 ――ブロロロr……


 遠くの方で車のが聞こえてきた。



「じゃあおばあちゃん、おじいちゃん。また来るね」

「ええ、待ってるからね」

「今度は畑も手伝ってくれ。今年はフルーツも色々植えてみたからの。収穫が楽しみじゃ」

「分かった。なら、ちゃんと日焼け対策もしないとね」



 瑞稀は満面の笑みを見せてくれる。自然と紗代と輝一の顔も笑顔になる。



「…瑞稀様、お迎えに上がりました」



 そして、彼女の迎えの車が後ろからゆっくりと来る。こうしてこの田舎以外では常に監視下にあるといっても過言ではない彼女の癒しの場は消えていくのだ。彼女専用執事兼運転手の大原(おおはら)が来た瞬間、その笑みを消し、ある種“いつもの”彼女に戻った。



「……それでは、お爺様、お婆様。五日間という短い間でしたが、誠にありがとうございました」



 さっきとは全く違う、まるで感情の無い人形の如く淡々と告げる瑞稀。



「……ええ」

「また来なさい」

「はい。では、失礼致します」



 “いつもの”彼女は無表情で迎えの車に乗り込んだ。


 それを見ていた紗代たちは毎回、胸が締め付けられるような感覚に陥るのであった。



――ブロロロr……



「…紗代」

「なんでしょう、あなた」

「明後日、一度狼龍と会って来ようと思う。…お前にも来てほしい」

「もちろんですよ」

「…すまんな」

「何を今更おっしゃいますか。それに、これは可愛い孫のためです。構いませんよ」






 老夫婦は瑞稀を乗せた車が去っていくのをずっと見ていた…。










誤字脱字その他不可解な点がありましたら、コメントをよろしくお願いします。

遠慮はご無用です。それが私の為にもなりますので。

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