表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
夢公園  作者: 黎井誠
1/3

001

 「あ、おにいちゃん!」


 三歳位の小さな男の子が、解人(かいと)の方へ駆けてくる。


 「おう」


 そう言って解人は手を上げる。

 ここは、彼がよく一人で来る公園。嫌な事があったら、ここへ来てぼーっとしてから家へ帰る。

 初めて来たのは、この町に引っ越して来た日。両親が事故で亡くなり、祖父母の家に預けられてから。

 まだ小学一年生だったので、三年くらい前の事だ。

 大好きな二人にもう会えないと、悲しくなってその辺をやみくもに走りまわっていたらたどり着いたのだ。

 この男の子は、解人がこの公園に来るようになって二年目位から、一人で遊びに来ている。

 最初解人は、『危ないから一人で来てはいけない』と注意し、お母さんやお父さんの事を聞いてみたのだが、話をいつも反らされてしまうので、夕方になってから家の前について行くことで、一応の安全を守ろうとしている。小学生では頼りにならないかもしれないが、誰も何もしないよりはましだろう、と。

だが本当は、解人はあまり家に送って行きたくない。この男の子は裏野ハイツという所に住んでいるのだが、陰気くさくて、オバケでも出そうなので怖いのだ。でも怖がってるところなんて見られたら恥ずかしいので、我慢して送っている。

 今日もいつもの様に遊んでやって、家まで送る。

 すると。

 そこには、パトカーが停まり、黄色いテープが一階の部屋を塞ぎ、野次馬や、テレビ等の記者が大勢集まっている。


 「どうしたんだ、これ……」


 これじゃあ、この子が家に入れない。「どうしようか?」と声を掛けようと思い、男の子に目を向ける。

 だが、いつの間にかいなくなっていた。

 おかしいな? さっきまで手を繋いでいたのに。

 きっともう帰ったんだ。

 何となくもやもやするけれど、もうここにいる理由は無いし、帰ろう。

 何があったのか知りたい、という好奇心はあったが、それ以上にこのハイツが怖かったので、解人は帰る事にした。



 ***



 家に帰り、何気なしにテレビをつける。

 やっていたのは、ニュース番組。

 つまんないから変えよう。

 そう思ってリモコンに手を伸ばしたとき、住んでいる町の名前が聞こえた。

 吃驚して、食い入るように画面を見つめる。


 『今日、幼児を虐待の末殺害したとして○○県○○市に住む三十代の夫婦が逮捕されました。』


 アナウンサーが原稿を読み上げ、画面が切り替わる。

 ……ここ、裏野ハイツだ!


 『逮捕されたのは、沖田大地、麗華容疑者。息子である沖田(ひろむ)ちゃんに、昼夜逆転の生活を強要し、言う事を聞かなければ殴る、蹴る等の暴行を繰り返した末、殺害した疑いが掛けられています。』


 その言葉と共に、写真が表示される。

 それは、よく行く公園でよく会う、あの男の子だった。


 「…………」


 驚きで、解人の口が、パックリと空きっぱなしになる。


 「嘘、だろ……」


 色々な感情と、情報がごちゃ混ぜになって、パニック状態に。

 ああ、頭が痛い。

 そこまで認識した所で、解人は気を失った。



 ***



 「解人、起きて。ご飯だよ」


 そう言って優しく揺り起こされる。

 あれ、オレ、何してたんだっけ。


 「ほら、起きたんならご飯食べよう」


 祖母の梅に催促され、起き上がる。


 「分かった」


 どうやら、彼女は解人が寝ていたのだと思っているらしい。


 「解人、テレビを点けっ放しにして寝たらだめだよ」


 そうおっとりと注意された。

 解人は、「うん。ごめんなさい」と言って、卓袱台の前に座る。


 「いただきます」

 「いただきます」


 いつもの様に食事が始まる。

 でも解人の心は完全に、非日常的な事を考えていた。

 あの子、本当に死んでしまったのだろうか? 虐待されてるようには見られなかったし……ん?

 ここで解人は、矛盾に気がついた。

 昼夜逆転って言っていたよね、テレビ? オレがあの子と遊んだの、いつも昼から夕方に掛けてだったよな……。

 そう、本当に昼夜逆転の生活を強いられていたのなら、解人と一緒に遊べる筈がないのだ。

 ど、どういう事なんだ……?!

 だが解人の考えはここで一旦中断された。

 「解人。箸が止まってるよ」

 と注意されたからだ。

 解人は仕方なく、食べる事に集中した。



 ***



 次の日、学校が終わった解人は、帰宅する前に公園へ寄ることにした。

 案の定、あの子はおらず、恐怖に震えた。

 やっぱり、ニュースに出ていた『大』くんはあの子だったのかも……。

 だが唐突の事だし、これまでにもここに来ていない日はあったので、まだ実感が湧かない。

 そこで解人は、裏野ハイツに行ってみる事にした。

 そこは昨日の様に、報道陣が取り囲み、まだ小学生で背が低い解人は中の様子を窺う事が出来なかった。

 どう頑張って背伸びをしてもジャンプをしても見えなかったので、早々に退散した。

 あの子が『大』くんで、もう亡くなっている事はまだ信じられなかったが、裏野ハイツで恐ろしい事が起きている事は実感できた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ