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夢公園  作者: 黎井誠
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002

 「ただいまっ!」


 家に帰り、手を洗うのもそこそこに、解人はテレビをつけ、その前に陣取った。

 やはり、裏野ハイツの事件を取り上げている。


 『県警は大ちゃんが書いたとされる絵日記を押収しました。そこには夢の中で見た事が書かれていた様です。』


 絵日記?


 『こちらがその絵日記です。日記には全ての日に公園が出てきています。専門家によると昼夜逆転の生活を強いられていた為に、昼間から遊ぶという願いが夢の中に現れた、との事です。』


 こ、公園? それってもしかして、オレもよく行くあの公園なんじゃ……? でも夢の事だし……。

 ぐるぐると思い悩む解人。とそこへ、


 「おや、これって『夢公園』の事じゃないかね?」


 テレビを見た梅がそう言って来た。


 「『夢公園』? 何それ?」

 「昔からこの町に伝わる場所だよ。余裕のない子供が、逃げ場を求めたら行く事が出来ると言われているのさ。実際に肉体が行くこともあれば、夢の中で行くこともできる。子供の心の避難場所だね」

 「ばあちゃん、行った事あるの!?」

 「あるわけないさ。わたしは心にも生活にも余裕が無くなった事は一度も無いからね。でも、友達が時々、最近見つけた公園に遊びに行こうとしたけれど見つけられなかったっていう話をしている事があったけねえ。昔の事だけれど。今考えると、『夢公園』の事だったのかもしれないね……」


 しんみりと語り終えた梅。


 「そ、その公園、行った事あるかも、オレ……」

 「何だって!? あ、そうか、この子が麻太郎さんから三代目なのか……」

 「え、じいちゃんがなんだって?」


 解人の質問を流し、先ほどとは打って変わって、真剣な顔をする梅。


 「良いかい、解人。じいちゃんが帰ってきたら大事な話をするから、それまで起きているんだよ。わかったね」


 おっとりと、動きもゆっくりで、いつも優しい祖母の、いつもと違う厳しい顔を見た解人は、思わず背筋を伸ばし、いつもならば「うん」と答えるところを、


 「はい」


 と畏まって答え、しっかりと頷いた。



 ***



 とはいえ、簡単に済む話では無かった。

 祖父、麻太郎が帰ってくるのは大体、真夜中の十二時。日付も変わる頃だ。

 解人はいつも九時には布団に入るので、眠たくてしょうがない。十時半辺りから欠伸が増え始め、その一時間後には居眠りをしそうになった。その度に梅に起こされたが。

 そして来たる十二時。

 柱時計が十二回目の鐘を打ち終わり、少ししたところで、ガラッと扉を開く音がし、

 「ただいま」

 と麻太郎が言う声が聞こえた。


 「ああ、やっと帰って来たね」


 そう言って梅は、珍しくせかせかと立ち上がり、玄関で麻太郎を迎え入れる。

 やがて居間に戻ってきた。


 「解人? まだ起きていたのか。早く寝なさい」

 「違うんだよ、麻太郎さん。解人が、受け継いだんだ。公園の管理を」

 「何だって!? あの公園に行ったのか?!」

 「話は後だよ。取り敢えず、着替えてきて」


 着替えて、卓袱台の前、解人の向かいに座る麻太郎と梅。


 「解人。『夢公園』に行ったんだね?」

 「うん。……多分。じいちゃんやばあちゃんが言う公園なのかは分からないけれど、そうだと思う」

 「じゃあ解人、紙に公園を描いてごらん」


 麻太郎の言葉を聞き、梅が紙と鉛筆を取りに行く。

 目の前に置かれた紙に解人はまず、四角形を真ん中に大きく書き、枠線の左下に『出入り口』と書き、次にブランコや滑り台、砂場、鉄棒、ベンチを描き込む。

 描き終わって、紙の向きを麻太郎の方へ向ける。


 「……夢公園だ、これは」


 とうとう、解人は、疑問をぶつけた。


 「ねえ、夢公園だったら何か不都合な事でもあるの? オレってそんなに心に余裕ない訳じゃないんだけど! さすがに一年の頃は母さんと父さんが死んじゃったから、余裕無かったけれど……」

 「ああ、済まない。最初から説明しないとな。夢公園は、私たち倉田家が二代目ごとに管理人を務める公園なんだ。と言っても、公園の整備が仕事なんじゃない。公園に来る子供のケアというか、心の余裕を作り、救済……助ける事が仕事なんだよ」

 「管理人……ああ、だからオレは行けたんだね」

 「そうだ。ここで、質問だ。お前は公園で誰かに会ったか?」


 解人は、公園で会った男の子の事と、裏野ハイツでの話を語った。

 その話を聞いた麻太郎と梅の顔に、驚きと恐怖が浮かぶ。


 「どうかしたの?」

 「ああ。……公園に来た子供の心のケアに失敗したら、管理人が責任を負う事になるんだ。責任を取る形は様々だが…………一番多いのは、死ぬ事だ」

 「セキニンヲトルカタチデオオイノハ、シヌコト……え? 責任を取る形で多いのは死ぬ事!? って事は、オレ死ぬの?」

 「そうとは限らないが、可能性がとても高い。死なないとしても必ず大きな物を失う」

 「う、嘘だろ……っ!!」


 衝撃の告白に、解人は驚愕し固まり、麻太郎は項垂れ、梅は解人が既に死んでしまったかのように顔を覆う。


 「ど、どうにかして死なずに済む方法は無いの?」

 「支配人に直接会って聞いて、願いを言うしかない」

 「オレが言わなきゃいけないの?」

 「ああ。ただ、かなりの難題だ。何しろ相手は神だからな。私も同行す……」

 「神っ!?」

 「そうだ。この地を司り、支配している。町長では無いぞ」

 「う、うん……。本当に、いるの?」

 「ああ、いる。私も実際に会った事があるから。管理を直々に任命されたからな……。ったくあのアマ! いきなり管理人を降ろすな!」


 いきなり大声を出されて、梅が窘める。


 「まあまあ、落ち着きなさいな」

 「あ、ああ、済まん。興奮し過ぎた」

 「で、オレ、どうすればいいの……?」

 「とにかく明日、支配人に会いに行こう。明日は土曜日だから、学校は無いな?」

 「うん」


 解人は力を込めて頷いた。

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