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Speed Runaway  作者: バベル
第一章指名手配
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第一章 ⑨

 豪人は窓の外を見ていた。映るのは木々だけ。街と違い見渡す限り、月や星の輝き以外の光は無い。そんな人口物の無い東北の地を見つめていた。そんな風に考えていた時、携帯を持った男が部屋に入って来る。それを受け取り着信を見る。登録されていない番号だったが、心当たりはある。この回線は……このたった1つの回線以外に安心出来る回線は無い。しかし、完全に確保出来ている回線だからこそ、掛けてくる人間は限られてくる。

「はい。鳳凰(ほうおう)豪人です」

『失礼します。115番です』

 豪人が思った通り、電話の相手は115番、麗菜であった。

「お疲れ様……どうだい?」

『は! 確保しました』

「……被害はどうだったのかな?」

『……私以外……全滅です……向こう側のスパイも……』

 携帯を離し、豪人は溜め息を吐く。どこまで自分は罪深いのだと思いながら。全てを破壊しようとし、人を人だと思わない老人。それを近くで見、嫌悪を持ってその老人を止めようとしながら、進んだ道は同じ人を人だと思わないとやっていけない修羅の道を歩いていた。

「アレが手に入ったなら……スパイの意味もなくなるから問題無いよ」

 反吐が出るセリフだと豪人は思う。

『はい。彼らも自分の仕事に殉死出来、幸せだったと思います』

 その麗菜の思想に豪人を否定したいと思ってしまう。しかし、その思考を持たせたのは自分達だ。麗菜達の様な自分の影で動く人間は幼い頃からの教育が施される。祖父の時代からあり、それを知った時、否定的だったが今の状況を祖父が考えていたのだろう。今なら自分も子供を集める為に孤児院を作るだろう。

『それでですが、自分達は今大変、危ない状況なんです――――』

 麗菜の言い掛けた事を遮り豪人は疑問を投げかける。

「達? 確か全滅なんじゃ」

「はい……民間人を巻き込んでしまい……利用しています」

 その言葉に豪人はさらに胸を痛める。保護と言わずに利用と言う言葉。どこまでも罪深い。大勢の子供達から、当たり前の感情を奪い、最後に殺して今の地位を守っている。

「……いや……その甘さが今の状況を作ったんだろうな」

『はい?』

「……すまない。こちらの話しだよ……率直に言おう。私は失脚した」

 豪人と老人は選挙で選ばれた訳では無い。世襲で今の地位にいるのだ。その歴史は戦後直後になる。豪人の祖父は、元々軍と政府の間にいる人間だった。戦中、軍主導へと日本の歴史は動いたが、実際に完全に政府が無視されていた訳でも無い。あの時代は家が力を持つ者が軍幹部や政治家へとなった者が多数であった。豪人の祖父もそんな中の1人だったのだ。しかし、軍の中では、政府の回し者と蔑まれ政府からは軍の狗と呼ばれ、歴史の表に出る事は無いただの中継役の仕事だった。だが敗戦後、豪人の祖父は日本政府とアメリカの中継役に抜擢される事になったのだ。その時、日本軍や政府、アメリカの暗部を知る事になる。暗部を知りながらも、様々な方面からの信頼を得る事に成功した。その後は、高度成長期へと移る中、独自の情報ルートから小国の国家予算程の財を得る事に成功。そのまま、財閥として表舞台に昇っていてもおかしくはなかった。しかし、民主主義がそれを許さなかったのだ。時代と共に移り変わる首相。日本政府としてならば、外交を持てたが、個人としての外交ルートを持っているモノは少ない。官僚は自分達の省に都合が悪い事には動かない。自然と豪人の祖父を歴代の首相達の多くは頼る事になり、それが、多額の財産も助け豪人の祖父を日本のフィクサーへと押し上げた。

 偉大なる人物である。たった1つの愚行さえなければ。祖父は本当に善人だったのだろう。力を持ち過ぎた事を憂い。その力を2部にしたのだ。当時の息子達、老人と豪人の父親に。老人は、非公式な軍事関連の仕事を受け持ち、豪人の父親は家の名前の意味は表に出ていないが、国内でも有数の大会社の非公式な会長職についた。

 それが、間違いだったのだろう。

 軍事方面で力を持った、老人……叔父の暴走を止める事は出来なくなってしまっていた。

 止められる可能性があるのは、老人の計画が本当の事であると説得する材料がなくてはならない。

「君には無理を言って済まないが……それを私の所に持ってきてもらいたい」

 今の屋敷にいる人間と洗脳教育を済ましたモノ以外を信用出来ない。迂闊に情報を漏らす事は自身の手で希望を打ち砕く事になるだけだろう。

「それが、あれば老人に従ってはいない政府関連者を説得出来るかも知れないんだ」

 逆を言えば、それが無ければ話しにならない。自分の身の保証を守る力が無ければ外に出る事が出来ない。

 死に場所はここでは無い。

 そう思う。麗菜とこちらから合流すればそこを狙われ、麗菜が追ってを撒いてここに来なければ、ここで殺される。

 可能性が高いのは、115番単独で敵を撒きここに来る事だろう。だからこそ、言わなければならない。それが彼女の手のひらに残った雫の様な優しさだろうっと。

「民間人の保護は優先では無い。君はここに単独だとしても来なければならない。邪魔だと判断した時、民間人に構う必要は無い」

 心を鬼にして、感情の消えた声が『はい』っと言ったとしても、心を抑えなければならないのだ。これから先、この国が荒れ、自分の血族がこの国を壊そうとしているのを豪人は止めなければならないからだ。


                            第1章 終り 

 


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