第88話:わたくし、こういう者ですわ!
麗奈は机の上へ、何種類もの紙を並べていました。
「名刺を作りますの」
「何に使うんですか?」
「お嬢様としての交流に必要ですわ」
「職業は?」
「お嬢様」
「名刺に書くんですか?」
麗奈は真剣に悩み始めました。
名前だけでは寂しい。住所を全部載せるのは危ない。肩書きは決まらない。
最終的に、表には『一ノ瀬麗奈』、裏には屋敷の連絡先だけを載せることになりました。
「簡素すぎませんこと?」
「十分です」
完成した名刺は、厚手の紙へ金色の縁取りが施されていました。
麗奈はさっそくアリサへ一枚差し出します。
「改めまして、一ノ瀬麗奈ですわ」
「知っていますわ」
「形式が大切ですの!」
アリサも自分の名刺を返しました。
そこには九条院家の家紋と、複数の肩書きが整然と並んでいます。
「……多くありませんこと?」
「必要な情報ですわ」
麗奈は自分の名刺を見ました。
名前と連絡先だけです。
「余白の美ですの」
「負け惜しみに聞こえますわね」
「余白ですわ!」
その日のうちに、麗奈は裏面へ小さく『お嬢様見習い』と追加しようとしました。
橘に止められました。
後日、近所の祖母のような女性へ名刺を渡すと、相手は嬉しそうに受け取りました。
「麗奈ちゃんの名前なら、もう知ってるよ」
「そうですけれど、正式なものですの」
「じゃあ大事にしまっておくね」
麗奈は満足しました。
数日後、その名刺が写真立ての横へ飾られているのを見て、少しだけ恥ずかしくなりました。




