第47話:小春に子どもがいましたわ!?
その日の朝。
小春は、見慣れない大きな鞄を抱えて屋敷へやって来ました。
「おはようございます」
「ごきげんよう、小春。その荷物は何ですの?」
「少し預かってきたんです」
小春が鞄を床へ置くと、その胸元から小さな声がしました。
「あぅ」
「……いま、何か聞こえませんでした?」
「はい! とっても可愛いですよ」
小春が抱いていた毛布が、もぞもぞと動きます。
その隙間から、小さな顔が現れました。
「赤ちゃん!?」
「はい」
「どうして赤ちゃんを抱いていますの!?」
「預かっているからですけど」
赤ちゃん。
小春。
大きな鞄。
わたくしの中で、すべてがつながりました。
「小春……」
「何ですか?」
「大変でしたのね」
「何がです?」
こんなに若くして子どもを育てながら、我が屋敷で働いていたなんて。
それなのに、わたくしは洗濯だの掃除だのと、毎日のように頼み事をしていました。
「今日は座っていなさい」
「仕事があります」
「わたくしがしますわ!」
「急にどうしたんですか?」
「無理をしてはいけませんの!」
わたくしは小春の鞄を持ち、椅子を引き、お茶まで用意しました。
「お嬢様、熱でもあります?」
「失礼ですわね!」
ちょうどそこへ、アリサさんが訪れました。
「ごきげんよう、麗奈さん――まあ」
アリサさんの視線が、赤ちゃんと小春を交互に見ます。
「小春さん、その子は……」
「赤ちゃんです」
「それは見れば分かりますわ!」
アリサさんが、わたくしを見ました。
わたくしもアリサさんを見ます。
何も言わずとも、伝わりました。
アリサさんも察したのです。
「小春さん。必要でしたら、九条院家から信頼できる乳母を紹介いたしますわ」
「いりませんけど」
「費用は、わたくしが負担しますの!」
「何の費用ですか?」
「お給料も上げますわ!」
「ですから、何の話をしているんです?」
赤ちゃんが泣き始めました。
「あら、大変ですの!」
「小春、休んでいなさい。わたくしがあやしますわ!」
「抱けます?」
「当然ですわ!」
小春から赤ちゃんを受け取ります。
小さい。
軽い。
ですが、どこを支えればいいのか分かりません。
「こ、これで合っていますの?」
「もっと頭を支えてください」
「先に言いなさいな!」
わたくしの腕は、すっかり固まっていました。
アリサさんも横から心配そうに覗き込みます。
「麗奈さん、もう少し優しくですわ」
「分かっていますの!」
「小春は毎日この子を抱いているのでしょう? 少しくらい休ませて差し上げませんと」
「毎日?」
小春が、わたくしを見ました。
「ええ。屋敷で働きながら、家では子育てまでしているのでしょう?」
「……ちょっと待ってください」
小春は赤ちゃんを抱き直すと、わたくしとアリサさんを交互に見ました。
「お二人とも、この子を私の子どもだと思ってるんですか?」
「……違いますの?」
「叔母の子です。今日は用事があるので預かっているだけです」
「……叔母?」
「私の従弟です」
わたくしとアリサさんは、同時に固まりました。
「あなたの子どもではありませんの!?」
「どうしてそうなったんですか?」
「だって、その鞄と赤ちゃんを抱えていましたでしょう!?」
「赤ちゃんを連れてくるなら普通です」
アリサさんが咳払いしました。
「もちろん、最初から分かっていましたわ」
「では、乳母を紹介しようとしたのは?」
「将来への備えですの」
「わたくしもですわ!」
「お給料を上げる話は?」
「日頃の働きを評価しただけですの!」
小春は、しばらくわたくしたちを見つめました。
「二人とも、同じ勘違いをしたんですね」
「違いますわ!」
「違いますの!」
声まで揃ってしまいました。




