vs聖騎士団
——神獣の娘(終焉竜)まで正妻?として加わり、僕のサポーターライフはますます賑やかになっていた。
そんなある日のこと。僕たちが宿屋でいつものように騒がしく朝食をとっていると、突然、宿屋の扉が『ドォォォォンッ!!』と凄まじい音を立てて蹴り破られた。
「異端審問の刻だ! 邪悪なる魔女と神獣にたぶらかされし哀れな少年よ、そして……我らが『聖女』ミラン様! 今こそ教会へとお戻りください!」
土足で踏み込んできたのは、白銀の十字甲冑に身を包んだ数十人の男たち——王都の教会がもつ武力機関、『異端審問・聖騎士団』だった。
「な、なんだなんだ!?」
僕が驚いてパンを落とす横で、ミランはゆっくりと紅茶のカップを置き、ため息をついた。
「……チッ。嗅ぎつけてきましたか、教会の犬ども」
「ミランさん、聖女って……?」
「過去の黒歴史です。気にしないでください、アレン」
聖騎士団の団長が、剣を抜き放ちながら僕を指差した。
「ミラン様は、神の奇跡を体現する規格外の聖女! なのに、お前のようなただの無能な雑用係の少年のお世話をするために出奔したなどと……! おのれ、アレンとやら! 貴様、ミラン様をどのような手段で籠絡したのだ!!」
「えっ!? 籠絡なんてしてませんよ!」
「問答無用! その少年を縛り上げ、異端の炎で焼き尽くせ! ミラン様を教会の手に取り戻すのだ!」
団長の号令で、聖騎士たちが一斉に僕に向かって突撃してくる。
その瞬間だった。
ゴッ……ドガァァァァァァァァンッ!!!!
僕の目の前に立ちはだかったミランの『純銀の杖』による一振り(片手フルスイング)が、突撃してきた聖騎士たちの盾を、甲冑ごと紙屑のように粉砕して吹き飛ばしたのだ。
「ぐはぁぁぁっ!?」
「な、なにィッ!? 一撃で……!?」
吹き飛んでいく部下たちを見つめるミランの瞳は、これまでにないほど暗く、底なしの狂気と殺意に満ちていた。
「……教会の教え? 異端審問? 笑わせないでください」
ミランは、メキメキと杖を握りしめながら、冷酷に言い放つ。
「神の愛など、アレンが淹れてくれる一杯のハーブティーの温もりに比べれば、便所の落書きほどの価値もありません。アレンを異端と呼び、私からアレンを奪おうとするのなら……あなたたち教会そのものを、私が物理的に異端として抹殺してあげましょう」
「ミ、ミラン様!? あなたは神に仕える身でありながら、そのような少年に狂わされ……ッ!」
「ええ、狂っていますとも。私はアレンの専属奴隷であり、アレンを一生監禁する権利を持つ唯一の存在。さあ、アレンの安眠を妨げる害虫どもは、消毒の時間です!」
ミランが狂戦士のように杖を振り回し、次々と聖騎士たちを宙に舞わせていく。
「ちょっと! ミランだけいい格好させないわよ!」
「アレンは私たちのお世話係なんだから! 教会なんかに渡すか!」
「アレンはぼくのおよめさんだぞー!!」
エリアリアさん、リティ、セレナさん、そして竜娘ちゃんまでが参戦し、宿屋の食堂はあっという間に「国家最高戦力(教会)」vs「アレン過保護同盟」の全面戦争と化した。
「ひぃぃぃぃぃっ! なんだこの女たちは! 聖女様もどうしてしまったのだ!?」
団長が悲鳴を上げながら後ずさる。
「ええい、こうなれば奥の手だ! 展開せよ! 『絶対防衛・神聖八卦の陣』!!」
生き残った聖騎士たちが円陣を組み、強大な魔力を放出する。
黄金の光がドーム状の結界となり、僕たちと聖騎士たちを完全に隔絶した。
「ハッハッハ! この結界は、邪悪な攻撃を一切通さぬ絶対防衛の盾! いくら貴様らが力任せに殴ろうと、この結界が破れることは——」
「あのー、すみません」
僕が、スッと結界の前に進み出た。
「アレン!? 離れていなさい、危ないわ!」
エリアリアさんが止めるが、僕は結界の光の壁を指差した。
「これ、すごく邪魔なんです。さっきの戦闘で食堂のテーブルが壊れちゃったから、今すぐ直したいのに……この壁があると、ほうきとチリトリが通らないんで
僕は両手を結界に向けてスッと突き出した。
結界を破る魔法でも、物理的な破壊でもない。僕が唱えたのは、ただの日常の『雑用』スキル。
「退いてください。——【限定空間収納】」
スッ……。
一切の音もなく。
聖騎士団が誇る、いかなる魔法も通さない『絶対防衛の結界』の、ちょうど僕が通り抜けるのにピッタリな「縦横高さ1メートルの空間」が。
まるで、ハサミで紙を切り取ったかのように、ごっそりと消滅(収納)した。
「「「「…………は?」」」」
聖騎士たちが、ぽかんと口を開ける。
結界の魔力構造など関係ない。「そこにある空間そのもの」を切り取る僕のスキルは、神聖な防壁にただの『四角い出入り口』を物理的に空けてしまったのだ。
「えっ……ウソ……神の結界が、ただの雑用係に……」
「な、なんという非常識な……」
絶対の盾を失い、完全に心が折れた聖騎士団。
そのぽっかりと空いた四角い穴から、ミランが首をコキコキと鳴らしながら、満面の笑み(目は笑っていない)でヌッと顔を出した。
「さあ。結界がなくなりましたね。……説教(物理)の続きと参りましょうか」
「「「「ひ、ひぃぃぃぃぃぃぃっ!! お助けェェェェェッ!!」」」」
教会のエリート聖騎士団は、涙と鼻水を撒き散らしながら、我先にと宿屋から逃げ出していったのだった。
「ふぅ。不愉快な虫どもでしたね。アレン、怪我はありませんか?」
聖騎士たちを文字通り蹴散らしたミランが、息一つ乱さずに僕の頬に手を添えてくる。
「大丈夫です。でも、ミランさん……聖女だったんですね」
「忘れてください。私はもう、聖女でも僧侶でもありません。……アレン、あなただけのものです」
ミランは僕の耳元でねっとりと囁き、そのままドサクサに紛れて僕の唇を奪おうと顔を近づけて——。
ドゴォォォォンッ!!
「抜け駆けするんじゃないわよ泥棒ストーカー!!」
「アレンのファーストキスは私よ!!」
「ぼくのチュー!!」
いつものように、エリアリアさんたちの怒りの飛び蹴りがミランの顔面にクリーンヒットし、食堂で大乱闘が再開される。
「あーもう! またテーブルが壊れちゃったじゃないですか! 今日はお茶の葉の整理もしたいのに!」
僕は頭を抱えながら、ほうきとチリトリを持って立ち上がった。
「ほら皆さん! 早く片付けないと、お昼ご飯抜きにしますからね!」
僕の怒声に、「「「「ご、ごめんなさいアレン(様)……」」」」と全員がシュンと正座する。
僕の騒がしい毎日はこうして続いていくのだった。
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