着る服がない???
クローゼットの前で、春斗は立ち尽くしていた。
姿見に映るのは、セミロングの黒髪をした美少女の姿。
これが、今日の自分。
服はメンズのジャージのまま。ぶかぶかする。
右を開ければ、昨日までの自分――色あせたパーカーと黒いズボン。見慣れた安心。
左を開けても、空。
ここに、可愛い女物を揃えたい。
でも……。
まだ女子としてのファッションがよくわからない。
ネットでポチって届いた服は、アニメキャラが着ていそうな服というより衣装。
ものすごく短い丈のワンピースにフリルの付いたエプロンみたいなものが付いている。
靴も届いた。ヒールが高そう。物差しを当ててみると10センチ近くあった。
たぶん、ふつうに街は歩けない。
「……女の日、着るもの問題、深刻すぎる」
ため息が、やけに女の子っぽい音で出てしまい、ひとりで赤くなる。
仕方なく、隣の部屋のタンスをそっと開けた。
母の、若い頃の服。
流行遅れで、色も地味で、でもちゃんと“外に出る前提”の服たち。
選んだのは、膝丈のスカートと、柔らかい色のカーディガン。
鏡の前で合わせてみる。
思ったより、変じゃない…というか。
「……これ、外出て大丈夫なやつ?」
鏡の中の自分に問いかける。
スカートの裾をつまんで、少し揺らす。心も揺れた。
似合っている、気がする。
それがいちばん困る、と春斗は思った。
クローゼットを閉める音が、やけに大きく響いた。
今日は、もう"戻れない"日なのかもしれない。




