1 唐突な未来映像
「なるほど」
ネヴェル・チェンバレンは落ち着いた、しかし驚愕を隠しきれない声を漏らす。
頭の中に突然浮かんできた記憶。
それらはこれからイギリスの、世界の姿が映し出されていた。
悲惨なものだった。
イギリス軍兵士達が戦車に蹂躙され。
輸送船は次々と撃沈され。
ロンドンは爆撃とロケット弾によって破壊されていった。
その全てはドイツの手によるものであり。
そこまでドイツが強化されてしまったのは、そこに至る対応のまずさによる。
何より無念なのは、その原因がチェンバレン自身によることだ。
「どうにかしないと」
イギリスの政治家として、悲惨なその未来をなんとか回避しよう。
何より、己の起こしてしまう問題を無くしていこう。
チェンバレンはそう覚悟を決めた。
とはいえ何ができる?
チェンバレンにとってこれが問題だった。
確かにチェンバレンは政治家だ。
大臣でもある。
だが、全権を握ってるわけではない。
権力はあっても、できることには限りがある。
なぜか頭に浮かんだ未来において、チェンバレンは首相であった。
だが、今は保健大臣である。
重職を担ってるとはいえ、決して万能ではない。
国の舵取りも、他国とのやりとりにも関われない。
影響は出せても、決定権がない。
だが、手をこまねいてるわけにもいかない。
時間は過ぎ去っていく。
立ち止まっているわけにはいかなかった。
「やれる事からやるしかないな」
焦っても仕方が無い
やりたいことの全てはできなくても、いくつかは実行可能だ。
まずは、おのれの職務の範囲でやれる事をやる。
そうしながら、あちこちに働きかけていく。
西暦1930年の事であった。




