第3話:聖女にお伝え頂けますか
200戸はある街になりかけの町に足を踏み入れる。
既に、人の気配はない…
アーチボルトは、部下に指で指示を出すと、騎士たちが散っていった。
「既に人の気配はありませんよ」
「お前に言われずともわかっている、奴らの戦力、戦い方を調べるんだ」
(なるほど…)
「奴らは先に進んだのだろう」
「そのようですね」
「どっちだと思う」
道が北西、南西、南東に伸びていた。
「南東に戻るとは思えません。全てを恨んでいるなら南西もありえます…ですが、王都を目指しているなら北西です。」
アーチボルトは目を閉じ、勇者の私の言葉を大人しく聞く。
「我らは北西から来た、だが、出会わなかったからと北西は捨てられないということだな」
感情より、戦略を優先する姿は優秀だと思う。
「調べに行った者が戻り次第、北西に向かう」
「畏まりました」
焼けた家屋、死体の状態から襲われてから一日と経っていないことがわかった。
衝撃なのは、襲われて一時間以内に殲滅させられていることが推察されることだった。
「何故そう思う?」
「守備兵も民も死骸が固まりすぎています。
逃げている暇が見えません。
時間がかかってれば、もっと逃げ惑い散らばっていたはずです」
「フン、その通りだな!」
アーチボルトは私をみると、そう言った。
まさか、兵はおろか民草まで手に掛けるとは…
この聖女は、いったいどんな力を得て、何を思っているのか…
この力が有ればどこまでも逃げられただろうに。
私はそう思った。
***
北西に向かい1日の距離の街へと入った。
「ここは無事か」
「よかっ…あぅ」
ズザザ
馬を降りたところで蹴り飛ばされた。
私は宙を舞い五メートルは先に吹き飛ばされた。
不意打ちだ、意識が飛びそうになる…内臓は骨は?蹲って回復魔法を唱える。
「くそ、南西だったか」
蹴ったアーチボルトは、私を歯牙にもかけない。
(こんなの勇者で、私でなければ死んでいたわよ)
「南西に向かう、後で追って来い!」
私を一瞥すると、アーチボルトは引き返していった。
「だ、大丈夫ですか?」
先日の若い騎士が、近づいてきた。
なんだかかんだ理由をつけては、最近よく私のもとに来て話すようになっていた。
「大丈夫…です、先に行ってください。怒られますよ、わ、私も直ぐに追いますから」
「で、ですが」
「おい、ジョルジュ早く来い」
「い、行ってください、大丈夫…」
私は笑顔でそう促す。
「わかりました…必ず来てくださいね」若い騎士は何度も振り返りつつ騎士団の後を追っていった。
(そんな悲しげな顔されないでください)
騎士団の姿が見えなくなり、私は回復魔法を使って、痛みを取り除くことに集中する。
「ふっぅふう」
玉の汗が止まらない。不意打ちには気をつけなければいけない…
意見を聞いて貰えて少しだけ気が緩んでいた。
(失敗したわ)
聖女は召喚と回復、バフのエキスパートだから狙われやすいけど、自分で回復出来るので生存率も高い。
「はぁはぁはぁ」
よし、大丈夫いけるわ。
仰向けになった私に、馬が鼻面を近づけてきた。首を撫でてやる。
馬が首を上げ、騎士団の向かった方を見る。
空気が変わった。
私は起き上がると、興奮し始めた馬を宥めつつ鞍に手をかけて騎乗した。
ゴロゴロゴロ
ゴゴロロロゴロ…
馬を走らせると、遥か前方から暗雲が立ち込めてきた。空が雲に覆われるとまるで日の入り間際のような暗さになる。その黒い雲間を雷が瞬いていた。
ゴゴゴゴゴヲヲヲヲオオオォォォォォオン
カカッ
ずずずずずずずずずずずずずずずずずずずず
異様な光景だ、落ちた雷が天と地上を貫いたまま細い竜巻のように移動している、自然現象ではありえない。
あの下に騎士団がいるに違いない。件の聖女の攻撃なのだろう…
元々、私は聖女が街道を歩くとは思っていなかった。
また、南東の滅ぼされた町では、数十人規模の集団で襲っていることがわかっていた。
個々の力は枷の無い勇者よりも上だとも思えた。
それは私も勇者だからわかことだ。
果たして地龍を一蹴したアーチボルトとどちらが強いのか…どれほどの脅威かがわかると思った。
アーチボルトには恨みしかない。
だけど、あの若い騎士は…
少しだけ心が痛む気がした。
金属が打ち合う音に、焼けた金属の匂い。オゾン臭、そして生物の燃えた匂いが漂う。
平野に半壊した騎士団が見えた。
うめき声に、嬌声。助けを求める声。
これ以上の接近は危険だろうと判断して、私は馬を止めて降りる。
アーチボルトは?
いた、何かと戦っている。
光る人間?剣士?
剣を交え、蹴り合い、魔法をぶつけ合っている。
地龍を圧倒した、アーチボルトと互角に戦っている?
違う、互角なんかじゃない。
「ガガァァァァァアアアア!」
アーチボルトの絶叫が木霊する。
右腕が空を舞っていた。
「団長ーーガァ」
「ギャ」
「ヴ」
アーチボルトに向かった騎士が、不可視の何かに射抜かれ絶命する。
少し高い丘を見ると、光の弓兵が矢を番えていた。
光の槍兵が、騎士の間を通り抜け串刺しにしていき。
光の魔法使いが、雷を降らせる。
光の格闘士が、光の僧侶が、光の暗殺者が…光の軍団が騎士団を蹂躙する。
だが、聖女の姿は見えない。
「どこ?」
私は戦場を見渡すが、それらしい人影は見つけられない。
「いないの?」
「おい!貴様何してたぁ!」
アーチボルトが、私の下へ走ってきた。
(よく私がここにいるとわかったわね)
「俺の腕を直せ!聖女だろう!」
「よくここまで来れましたね」
流石は魔法装備、神速系の何かかしら?
「早くしろ!」
「すみません。敵の直前で治療など出来ません…」
「でぎの直前だとぉ?」
斬!
アーチボルトの左足が飛ぶ。
「ガァガガガガガガッ」
口の端に泡を吹き、アーチボルトが崩れる。
(あーあ)
光の剣士だ、光の剣士がアーチボルト!お脚を切断した。
私と目が合う。
光の剣士は、無言で私にも剣を振る。
その予備動作もなく姿を消した斬撃は人に認識できる速度ではなかった。
「さて、どうしましょう…」
しかし、斬撃の前に、私はいなかった。
私は、気を失ったアーチボルトの横に立って見下していた。
「まさか聖女がこのような勇者を呼び出していたなんて思いもしませんでした」
光の剣士が此方を向く。
「…お前は何者なんだ?」
「私たち勇者と貴方は異なる気がします」
光っているとかそんなことではない、根本が違う存在に感じる。
「お前は何者なんだと聞いている、答えろ!」
話は噛み合っていないが、嚙合わせる気もない。
「…今日はここで撤退しますので見逃しては頂けませんか?」
「バカなことを、見逃すと思うのか?」
期待していなかったが光の剣士が応えてくれた。
「私も、貴方の召喚者と同じ、奴隷勇者で聖女なのでお目溢しください」
「この世界にいる全てが復讐の対象だ。例外などはない。火水風も我らも気持ちは一緒だ」
「かなり病んでおられるのですね…
あまり、貴方がたの戦力を失いたくないんです」
「何を…」
次の瞬間、光の剣士は目を剥く。
光の右手が剣ごと宙に飛んだから。
私の手には護身用の短刀が握られている。
「……ばかな…ありえん」
「この英雄と同じくらいの怪我ならば、貴方の聖女が治してくれるでしょう」
そう言って、更に短刀を光の勇者の左脚に刺す。
「ごめんなさいね、短刀までしか武器の携行を許されていないから」
短刀で光の剣士の脚を斬り飛ばす。
「……」
仰向けに倒れた光の剣士は何も発しなかった、発する言葉が思いつかないのだろう。
騎士団と光の軍団の戦場を見ると、騎士は一人も立っていなかった。
あの若い騎士も…
(優しさはこの世界では毒だ…元の世界で会えていたならば…)
黙祷のように目を閉じる。
目の端に、痛みではない雫を感じた。
「フゥ………」息を吐いて大きく吸う。色々振り払うように。
私は、気絶した血だらけのアーチボルトを見る。
そして、同じ姿となっている光の剣士を。
もう少し、もう少しだけ使い道がるかもしれない。
連れて帰ることにしよう。
アーチボルトを抱えると馬に乗せる。
「ああ、貴方の聖女にお伝え頂けますか?」
光の剣士は無言で私を睨む。
「復讐、逆襲を考えているのは貴方だけではないと」
せいぜい貴方がたも私の復讐の役に立って下さい。
お読みいただき有難う御座います。
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