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リトネカルタ  —おいしい世界の作り方—  作者: 猫能しろ
第2章

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第3話 センステの行方

「気に入らないね、あんたたち」


ひと目会うなり、腰の曲がったお婆さんが、鋭い眼光で私たちを睨みつけた。港の高台にある大きな家に向かうと、町長のカーラさんは最初から敵意むき出しだった。


「そりゃあ、ミーナとミミ親子を助けてもらったことには感謝してるさ。だがね、国が何をしてくれたって言うんだい?あたしらの暮らしは何ひとつよくなってない。この家だってどうだい、壊れた窓ひとつ気軽に直せやしない。バカげた話だよ。ふん!」


ほわー、すごいマシンガントークだ。町長のカーラさんはまとめ役らしく、見るからに貫禄があるお婆さんだった。日に焼けた黒い肌によく合う上着は、黄色の長袖ブラウス。足元の頑丈なブーツを隠すように揺れる茶色ロングスカート。頭には真っ白のスカーフを巻いて、花柄のピンが差してあった。


「聞いたところじゃ城下町には窯が新しく増えたそうじゃないか。この町の住人はね、相変わらず隣町と共同の窯まで歩いていくしかないのさ。この国を動かしてる役人たちの目は節穴かい?ま、あんたらみたいな苦労知らずの温室育ちにゃ想像もつかないだろうがね」


その言葉を聞いて、私は下を向いた。そっか、城下町には窯を増やしてもらうことにしたけど、このアマルの町はまだ不便なままだったんだな。こんな風に外に出て実際に自分の目で見るまで何も知らなかった。私がぼんやり考えていると、アルシアスが一歩前に出た。


「何もしていないわけではない。フラヴィーア王国は必要な場所へ考えて支援を行っている。だが、全員が満足いくような状況には、すぐにならないのが現状だ。それに……まずは自分たちで精一杯自立の道を考えずに、支援ばかりを願うのは感心しないな」

「なんだって……?」


あーあ。アルシアスってば真っ向勝負してる。2人は無言で睨みあい、微動だにしない。何とも言い難い緊張感とピリピリとした空気が場を支配する。


「なんだいっ。いくら騎士団長だからって、あたしゃ、気に入らない奴は無暗に敬ったりしない信条さ。それが罪っていうんなら、いくらでも捕まえればいいじゃないか。ただね、あんたが探してる料理とやらはこの町には存在しないよ。もし知ってたって教えないがね」

「……カーラお婆ちゃんたち、ケンカしてる?お婆ちゃん、もしかしてお姉ちゃんたちにいじわるしてるの?」


その時、側で大人たちの様子をみていた女の子、ミミちゃんが不思議そうに聞いた。小さな手がカーラさんのスカートの裾をつまんでいる。


「なっ……、何言ってんだいミミ。そんなわけないだろう。まったく……」


純粋無垢な子供の質問に、カーラさんは毒気を抜かれたようで、近くの椅子にどっかりと腰を下ろした。それからあらためてアルシアスを見た。


「昔は……そうさね、あたしの婆さんの婆さんくらいの時代には、ここにも名物料理があったらしいがね。そんなのもう昔すぎて誰も覚えちゃいないよ。これで知りたいことは全部かい?もうすぐ男たちが漁から帰ってくる時間だ。用が済んだならとっとと帰りな」


動物を追い払うみたいな、しっしっという手の動きで追い払われて、私たちはいったん退散するしかなかった。せっかくここまで来たはいいけど、結局カードのヒントは得られなかったな。玄関付近まで行くと、何やら外が騒がしかった。


「カーラ婆さん、戻ったぞ。今日も大物はナシだ。相変わらずセンステばっかりだ。おっと失礼、お客さんかい?」


筋骨隆々のいかにも漁師さんといった風情の男たちが数人、外の作業場に集まっていた。手には色あせた籠を持っており、その中には見たことのない魚が入っている。ぱっと見、青魚のような感じで、ちょっとだけサバに似ている。すぐにドカドカと豪快な足音を立てながら外に出て来たカーラさんが、籠を見て苦虫を噛み潰したような表情になる。


「まーたセンステかい。足が早過ぎて使いもんにならないクズ魚なんざ、今日の分だけ残して、とっとと捨てちまいな!」

「へいへい」


え?もしかしていま捨てるって言った?せっかく捕った魚を?このおいしそうな食材を?どうしても聞き捨てならなかった。


「おい、コロ。行くぞ」


少し先からアルシアスが私の名前を呼んでいる。でもそれどころじゃなかった。男たちがもっている籠目指して走り、すかさずがっちりとホールドした。魚をマジマジと観察する。やっぱり、このセンステっていう魚、使えそう。


「待ってください。この魚、絶対に捨てちゃダメです」




「あの小娘、いったいなにをやる気だい?」

「さあな……」


遠くでカーラさんとアルシアスの話し声が聞こえる。そのすぐ隣にはネモ。私は外の作業場を借りて、料理をすることにした。最初は作業場を貸すことをカーラさんは渋っていた。でもアルシアスが「これで窓を直すといい」と、にっこり笑顔で金貨を1枚渡すと、しぶしぶながらOKをもらい、作業場を自由に使わせてもらえることになった。


借りたエプロンを頭からかぶり、ピカピカのセンステを手にとって光にかざす。うーん、鱗がキラキラと太陽の光に反射して美しい。必ずおいしくしてあげるからね。まずは基本から。センステの頭を切り落として、内臓を丁寧に取り除く。中骨の血合いも忘れず、ナイフの先を使ってきれいにこそぎ落す。切り取った頭もよく洗って水に入れた鍋に火をつけて、出汁をとる。


「なんだなんだ、何が始まるんだ。センステの頭なんか煮てどうするつもりだ?」

「それは、後のお楽しみです」


最初は不審そうに遠巻きに見ていた漁師さんや、町の住人がわらわらと集まってきた。


「おー、お嬢ちゃんなかなか刃物の使い方がうまいなぁ」

「お姉ちゃん、すごい。かっこいい~」


やがて私の周りが大見学会となっていた。

次に、キレイな水でもう一度洗ってから、清潔な布で表面の水分をしっかりとふき取る。そこに塩をひとつかみして、全体にパラパラと振りかける。


「なんで塩なんか振りかけてるんだ?」

「こうすると水っぽさが抜けて、身がぎゅうっと締まっておいしくなるんですよ」

「へぇー」


次々と飛んでくる質問に答えながら、動かす手は止めない。下準備が終わったら、センステのしっぽと紐で縛ってカーラさんの家の軒先にずらっと並べていく。太陽の光がよく当たり、海風が吹き抜けるこの場所なら最適だ。本当は籠でも良かったんだけど、これなら沢山の魚を効率よく干せるはず。頭を使って出汁をとったスープも、塩を入れて完成。


「はい、できた!これで半日から1日干せば干しセンステができるはず。明日、皆さんで一緒に食べましょう。あとこのスープ、よかったら皆さんで分けて料理に使ってみてください。そのまま飲んでもいいし、山菜をいれるのもおすすめです」


私が言うと、おーっという声とともにパチパチと拍手が上がった。でもカーラさんだけは、疑いの眼差しで私をずっと見ていた。


「終わったのか?」

「うん」


アルシアスが声を掛けてくる。私が使わせてもらった作業場をきれいに片付けていると、アルシアスとネモが何も言わず、黙々と手伝ってくれる。その姿を見て胸がじんとして、でも何も言えなくて、ただ黙って手を動かした。

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