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修復が遅いと戦場から追放されたので、王都の一角で好きな物を作って過ごしたいと思います。

作者: 海月 花夜
掲載日:2026/07/19

「もう君には期待できない、婚約も破棄だッ――」


 くたびれた防具を手にしたまま、私は婚約を破棄されてしまった。

 ……何で。


「いたっ」


 糸のついていない針が指に刺さり、おかげで喉が動いてくれる。


「あの……どうしてですか? 私はこうして、自分の役目は果たして……」


 呆れたと言わんばかりにニクラスが近くの防具を手に取り、無造作に放り投げる。


「これを見ろ、レベッカが直した物だ。これもこれも、それに比べてお前はどうだ? 一つを直すのに、どれだけの時間をかけるつもりなんだッ! これでは俺も良い笑い者ではないかッ!」


 手元に投げられた防具に目を向ける。

 確かに、ちぐはぐだけど見た目は直されていた。

 術式を付与した人が、自分のを直しているんだ寧ろ酷い出来と言える。

 それに比べたら、私は頑張っていると思いたい。


 だからこそ、規格やルールを大隊や国ごとに決めている筈なのに……。

 それを一、中隊内の人間が勝手に変えて……。


 中隊の責任者であるニクラスが、変えようとしないのならどうにもならない。

 少なくとも、私が何かを言っても無意味だ。


「仕事はしています。これは、この防具に術式を付与された方が――」


「言い訳はいいッ! いつもいつもだらだらと作業をして、僕がどれだけ嫌な思いをしていると思っている! 指揮も上がるどころか、私にまで不信感が募るではないかッ! それならいっそ貴様など居ない方がマシだッ!」


 棚に置かれていた防具たちが腕で薙ぎ払われ、無造作に落ちていく。


 せっかく修復しようと仮止めした箇所がほつれ、バラバラになった。

 それを見ていると、私の方も心が引き裂かれた気分になってしまう。


 私には分からない。

 だって、これが限界だ。

 決して手を抜いているとかではない。

 他の人がやったって同じだ。


 なのに――それが理解してもらえない。

 もうどうする事も出来なかった。


「私には……これが限界です」


「ふんっついに認めたか、この無能が」


 吐き捨てるように冷たい、視線を向けられてしまう。


 その言葉と共に、何かが心の奥底に沈んでいった。


 そもそもこの世界で頑張るって方が無理な話だ。

 私、シーリア・タールフェルトは、元々はただの学生だった日本人でしかない。


 そんな戦争も知らない私がこの世界で生まれ育ったからって、すぐそばで人が人と戦っている場所で平然としているなんて無理だった。手を動かしているだけでも辛いのに……出来もしない速度を求められたとしも……出来ないものは絶対に出来ない。


 そもそも、非戦闘員を戦場の近くに配置するのがおかしい。

 近くの村まで壊れた防具を運んで、直したら良いじゃない。


 その間に着る予備を、用意すれば修復は急がないでも戦える。

 それじゃ駄目なの? 


 どうしてっ……。


 溢れて来てしまう考えが、私の視界をうるんだものにしていた。


「貴族の婚約者がいや元婚約者が泣くとは、貴族となる自覚もなかった様だな。でも安心しろ、お前一人の分、レベッカが引き継いでくれるそうだ。貴様とは比べ物にならない程、優秀だな」


 この辺りの防具に術式を付与している者の名が出される。


「優秀な者には、優秀な男だ。貴様では釣り合わなかったという事だ」


「それは、どういう意味ですか? もしかして、レベッカと……」


「あぁ、婚約を考えている。だがまぁ彼女の実力があれば、貴様との婚約を破棄した後であっても、周囲も自ずと認めてくれよう。何故なら命を預ける者にとっては、修復者は信頼が大切だからな」


「そうですか……」


 もう、何かを言い返す気力もなかった。


「分かったら、早く立ち去るが良い。此処、お前ではなく、レベッカに使わせる事にした」


「はい……」


 顔を見たくない。

 だから私はそっと防具を置いて、その場を離れた。



 ***



 どうして良いかも分からないまま補給用の馬車に乗って、私は王都に戻っていた。

 行くあてもなく、職もなく、何をしていいのかも分からないまま街を歩く。


 食べたいと思った物は食べたけど、心が満たされるどころか、今後を考えてしまい途中から味がしなかった。


 食べたい時に食べる。

 そんな生活を送りたいけど無理だ。


「さぁ! そこを歩いている貴方、ちょっと見て行きませんか! 世にも珍しくは……ないか、まぁ一年に一回の大イベント! 装美祭(そうびさい)だよ!」


 そういえば、王都はそんな事もしてたんだ。

 ずっと戦場に居たから、分からなかった。


 確か、去年も参加しようとしたんだったかな。

 結果的に召集がかかって出来なかったけど。


「あの……まだ、参加とかって出来ますか?」


「おぉっと! まさかのエントリーの方でした! 良いですよ大歓迎です、いくらでも大歓迎です!」


「ふざけんじゃねぞ! 人が増えたらこっちが大変じゃねぇか! 生半可な奴はそいつで最後にしろ! どうせなら男だ! 男! 今年は男が居ねぇじゃねか! てめぇまさか断ってるんじゃねぇだろうな!」


 受付をしているテントの後ろ側から怒声が聞こえてくるも、目の前の女性は平然と返していた。


「まさか、そんな事してませんよ! そ、れ、にー、今回は景品を渡す人があの方なので、女性が多いのは仕方ないかと。去年は王女様でしたし。私だって、イケメンの装飾師と、受付という名の場所でもってお近づきに……っとすみません。受付ですね、こちらにお名前と、持ち店舗の場所の記載をお願いします」


 早口で話していた女性が紙を出して、私に筆ペンを渡してくる。


「あの、すみません。お店とか工房はないんですけど、大丈夫ですか?」


「おっと、本当に飛び入り参加でしたか。大丈夫ですよーあの髪の毛がない強面な人は怒った顔してますが、来る者は全力で受け入れろ! なので!」


「ありがとう、ございます」


 終始テンションに圧倒されたまま私は記入を終え、会場へと向かった。



 野外に並べられ無数の机。

 その上に決まった道具と材料が置かれている。布や小さな宝石から、針やカラフルな糸、染色用のガラスに入った絵の具に、水の入った鍋。綿みたいな物まで何でも揃っていた。



 それを見ながら開始の合図を待っているのは待機しているのは全員が女性だ。


 そして見物客の多くも女性の人達で、幼い子を引き連れた母親から一人で来ている人。夫婦らしき男女の二人組から、女性同士の集まりまで本当に様々だけれども、女性の方が多かった。


 視線が集まっている先。

 そこに目を向ければ、白髪の短い髪がさらさらと風で靡いてるのが目に入る。

 人あたりの良さそうな整った顔、少し耳が長いのか動く髪の中からも見え、細身の体格がひ弱には見えない不思議な人だった。


 けれど私はこの祭でトップになる事の方が大事だ。


 これで上手く行けば、どこかの店に雇ってもらえるかもしれない。


 だからーーとりあえず頑張るしかないっ!


 手に職なのだから。



 挑んだ、装飾作り。

 作れと言われたのは、夜会で貴族がドレスやタキシードの胸元に付ける物。


 けれど、衣服の色や形は指定されず、男性向けか女性向けなのかも言われなかった。


 つまりは、作る人に任せる。

 そういう事なのだろう。


 良いじゃない。


 とりあえず、作ってみせる。

 ここにある材料だけで。


 

 ―――



「おめでとうございます。シーリアさん、貴方が優勝という事になりました! それではそれでは!アルフ・グランヴィストリア第四王子様より、優勝の品をお受け取り下さい」


「えっ……」


 訳も分からないまま歩かされ、私の目の前に会場の皆が見ている人が居る。


 だからか私にも視線が集まり、刺さるほどに痛々しい。


「おめでとう。君が作った物は素晴らしかったよ」


「はいっ! あ、ありがとうございます」


 少し焦ってしまうも何とか返事をして、小さなピンバッジを受け取る。


 あれ……優勝?

 もしかしたら、仕事にありつけるかもしれない。


 これだけ同業者が居るんだから、一人ぐらいきっと――。


 そして祭が終わり、他の人に声をかける。

 けれど物凄いヘイトをかってしまい、相手にされない。

 何で……。


 そんな状況からぐいぐいと更に話しかけに行ける能力があれば、そもそもこんな事にはなっていないと思う。そう考えると本当に、私には人と関わるのは向いてないのかもしれない。


「どうしよう……仕事が……」


 やばいやばい。

 どうしよう。


 今日、明日、明後日は大丈夫でも。

 ずっとじゃない。


 お金は減るばかりだし、貯金もそんな多くない。

 というか私はほとんどただ働きだった。


 婚約者を支えるため。

 という大義名分があれば、働かされてしまう。


 何ともふざけた話だ。

 けれど、保証なんてものがない世界では、一家の為に働くのは、当たり前なのかもしれない。


 やっぱり私には、理解しきれない事だった。


「今日はもう、適当に宿でも探して……」


 下を向いたまま歩こうとした私の前に、人が立ちふさがっている。


「少し、よろしいでしょうか?」


 先程まで聞いていた優しい声が私を呼ぶ。


「はい……」


 返事をしながら見上げるとやっぱり、私にピンバッジを渡した殿下が私を見ていた。


「何のごようでしょうか……」


 緊張もあって、悪い事をしたんじゃないかという訳の分からない思考が頭の中を回り始める。


 きっと良くない事ばかり考えていたからだ。


「そんな緊張しないで、少し気になっただけだから。君、今まではどこで生活してたの? 君ほどの実力がありながら、名前を聞かなかったのは不思議でね」


「えっと……以前は、というか一昨日までは東部戦線、第二大隊の方で、防具の修復作業をしていました」


「でも、向こうはまだ戦闘が続いてる筈だけど、負傷にも見えないし、どうして街に?」


「婚約者……」


 そう口にして私は言葉が詰まってしまった。


「いえ、元婚約者のニクラス・オーストレーム様に、私の務めはもうないとのお言葉をいただき、こちらに戻って参りました」


「そうだったんだね。疑うように聞いてしまってすまない。お詫びと言っちゃ何だけど、バッジを受け取った君に、使って欲しい工房があるんだけと、興味あるかな?  もちろん寝泊まりが出来る部屋付きのね」


「よろしいのですか?」


「勿論だよ」


 その提案を、私はすんなりと受け入れるのでした。



 ***



 そんな家に住み始めて、早くも一週間が過ぎました。

 最初は掃除で大変だったけれど、もうすっかりと綺麗になり、何も思わず過ごせます。


 そして仕事も頼まれたりしました。


「出来ました。これで……大丈夫でしょうか……?」


 アルフ殿下に作った物を手渡す。

 それは、剣の柄頭に付ける物だ。


 日本刀みたいに、決まった形がある訳じゃないけど。

 こっちの剣にだって、装飾や手が滑りきらない為に少し膨らんだ形で設けられている。


 その部分に当たる柄頭の制作を依頼された。


 何でも実用性よりも見栄えが重要みたいで、私が祭りで作ったガラスの装飾と同じ様に――ガラスで作られた柄頭。そこから魔力を込めた糸で結んだ一つの魔石が揺れている。


 デザインとしてはシンプルだけど……これで良かったのだろうか。

 でも……急に言われて、私に思いつける品はこれが限界だった……。


 自分の未熟さが、痛い程分かる。


「うん、大丈夫だよ。良く出来ている」


「ほんとですか!? 良かったです」


 そして私が安堵していると、アルフ殿下がそれを自身の剣に付け始めた。


「えっ――」


「ほら、良い感じ」


 そう言って私に見せて来る。

 いやいや、問題はそこじゃない。


 工房を持って、初仕事が王子の剣に付けられる装飾品……?


 だめダメ駄目、絶対に良くない。

 嬉しいとかそういう話じゃなくて。


 それを付けているだけで、アルフ殿下に迷惑がかかってしまう。


「アルフ殿下、私が作ったものなど身に付けずとも――」


「良いんだよ。気にしないで、僕が付けたんだから」


「ですが――」


「それとも、僕に外せと命令するのかい?」


 優しくも有無を言わせない声色で言われ、私は伸ばしかけていた手を下ろした。


「いや……とんでもございません」


「謝らないで。僕も君に、謝らないといけない事があるから、御相子かな?」


「何の事ですか?」


 まるで思い当たらない。

 私が粗相をしてしまったならともかく。

 殿下が私に謝る……?


「ニクラス・オーストレーム」


 思い出したくない人の名前が口にされ、色んな記憶が頭で蘇る。


「君が言ってた事が本当か気になって、少し調べてみたんだよ」


「どうして……」


 わざわざ調べ直す必要なんて……。

 もしかして、私は逃げ出した事にされてるとか。

 それで……殿下は怒って……。


 自然と俯いていた。

 やっぱり、私は何処に行っても、居ちゃいけないのかな。


「彼は、新たに婚約者を迎えたそうだよ」


 そう言われ、一人の名前が頭に浮かんだ。


「レベッカですか?」


「分かっていたみたいだね。それだけでどんな場所だったか、想像がついてしまったよ」


 視線を上げると、少し申し訳なさそうなアルフ殿下の顔を目にする。


「けれど、良かったよ」


 そして頬を緩めたアルフ殿下が、明るい表情を見せた。


「え……どうしてですか? やっぱりアルフ殿下も、私よりレベッカの方が、あの戦線を保てるって、お考えだから……ですか?」


「違うよ」


 俯いてしまった私の視線に、片膝を付いたアルフ殿下が入り込んで来る。


「私は、王子として。ニクラス・オーストレームに、正式な婚約者を告げる様に聞いたんだ」


「それほどまでに、あの二人は仲が良かったって事じゃないですか……」


 それで迷わず返答を返せる程の仲だったのだろう。

 いつからだろうか……。


 そんな事を考えるだけで、嫌になる。


「でも、それってつまり、君は今――正式に相手の居ないという事になるね?」


「アルフ殿下?」


「それに仲が余り良くなかったという話も、私からしてみれば寧ろ良かったと思えるのだから、あの二人には感謝の気持ちすらもあるよ」


 目の前で屈んでいたアルフ殿下が、私の手を取った。


「君に興味が湧いた。だからこれからは、一人の男性として、君に会いに来ようと思うけど良いかな?」


 アルフ殿下が私の手の甲に、自身の口を触れさせて頭を下げている。


 いったい何が……。

 アルフ殿下が、私を?

 何で、そんな事しても、一つも良い事がない……。


「どうして、私なんですか?」


 余りにも信じられず、私は聞き返していた。

 一生ないようなチャンスを自ら棒に振るう危険性があろうとも、出てしまった言葉は戻せない。寧ろ聞かなければ、それこそ何も信じられなくなってしまう。


 だから私は、聞いていた。

 アルフ殿下の目を見て。


「この装飾品を作れる者はそう多くはない」


「でも、他にも居るじゃないですか」


 探せば職人はいくらでも居る。

 私じゃなくても良い。


「そうだね。居ると思うよ、けど、魔力糸の密度を含めればかなり少ないかな。それに君の髪色は私とは真逆だからね、自然と興味が湧いてしまう」


 白い髪のアルフ殿下と、黒い髪の私。


「それだけの理由で……ですか?」


 髪が黒いのなんて、きっと元日本人だからだ。

 この世界でも、探せば沢山居る。


「それだけ? そんな訳ないよ」


 立ち上がったアルフ殿下が、私に近づいて来た。

 自然と俯いていた顔が、背の高いアルフ殿下を目で追って上を向いてしまう。


「でも本当に君で良かったみたいだ。僕がこんな話をして、出逢って間もないのに、飛び跳ねて喜んでいようものなら、金輪際会わなかっただろうね。ますます興味が出てきたよ」


 自然と近寄って来るアルフ殿下。


 待って、待って。

 近い、近い、近い。

 いくらなんでも「近いです!」


 声を絞りだし、私は距離を取っていた。


「ごめん、怖がらせてしまったね」


「いや、その……怖いとか、嫌とかじゃなくて……早いというか……」


 目をそらして、左右に首を動かしながらごまかす。

 そして私が言い終えると、アルフ殿下が盛大に笑い始める。


「そうか。良かったよ、早いなら、私にも、チャンスはありそうだね」


 そう言って――獲物を捉えた様なアルフ殿下の瞳が、真っ直ぐ私だけを映し出していた。



 ***



 シーリアが居なくなって、一週間が過ぎた東部戦線。


 小競り合いが優勢になるどころか。

 寧ろ停滞してしまった戦線で、負傷者の数は増える一方だった。


「ニクラス様、また負傷者が! このままではもちません」


 ニクラスがもつ中隊は、大隊が受け持つ東部戦線の一旦を担っているに過ぎない。

 けれど、一箇所が崩壊するという事は、そこから敵になだれ込まれてしまう可能性すらある。決して破られて良いものなのではなかった。


「何故だ! 前よりも防具などの修復は早く、万全の状態で出せているだろう!」


「ですが……目に見えて、状態は悪化する一方で、防具に関しても――」


「貴様! またレベッカが悪いと言うのか! 見ろ、あんなになってまでも、我らの為に頑張ってくれているのだぞッ!」


 ニクラスが指を指した場所では、山積みとなった防具と向き合っているレベッカの姿があった。

 その近くには、防具を漁る兵士が数人居る。


「どうして……どうして、直った筈でしょ、なのにどうして直ぐに壊れるのよ……」


 レベッカも知らなかったのだ。

 自身の行っている術式が付与された防具が、同じ工程でただ繋ぎ合わせていれば、段々強度が落ちてしまい直ぐに壊れるという事を。


 ――それを今までは、シーリアが直す度に調整していたに過ぎない。

 時間が掛かっていたのは、ただ直すだけでなく長く使えるように調整していたからだ。


「何でよ! もぉ、やってらんないわよ!」


「レベッカ!?」


 自暴自棄になったレベッカがニクラスにも聞こえる声量で声を発し。

 それを聞いていた者全員が唖然としていた。


「私は悪くない! 悪くない! 自分たちで直して行けば良いじゃない! そうよ。適当にロープで結んで、突撃すれば良いのよ!」


「レベッカ……冗談を言っている場合じゃ」


「冗談? 冗談でこんな事言わないよ! 直しても、壊れるものはもう駄目なのよ! さっさと新しい物をよこせと貴方から言ってちょうだい!」


 シーリアとは違い余りにもわがままなレベッカに、ニクラスもどうして良いか分からないでいた。それもその筈だ、これまで接していた筈のレベッカとか何もかもが違う。


 地位を手に入れてしまい、変わったのだ。

 元がどちらの性格だったのかは、現状を見れば一目瞭然だ。


 それに他の者達は知っている。

 シーリアがどれだけ、文句も言わずに作業をしていたかなど。

 見捨ててしまった、庇えなかった。

 などは関係ないまま、ただ――残っている記憶の人物と嫌でも比べてしまう。


「大変です! ニクラス様、戦線が! もうもちません!」


 そんな状況で最悪の伝令がなされ、ニクラスは頭を抱えていた。


「嘘だ……戦線が崩れる? 私が居る、ここが……?」


 貴族として問われる責任ですめば、まだ良い。

 けれど、この状況を生み出してしまった原因が、ニクラス自身にあると断定されてしまった場合には、死刑すらもありえた。


「嘘だ……嘘だ……。そんなの許される訳がないッ! お前ら、全員今直ぐ戦線に戻って、死んでも敵を止めろ! これ以上――奴等を――」


 ニクラスが声を荒げている最中。


 後方から迫った一団が姿を現した。


「無能の中隊長は、どこだ」


 それは、アルフ王子がこの事態を予見して、備えさせた大隊の指揮官だった。

 周囲を威圧しながら突き進み、ニクラスの前に立ちはだかる。


「貴様が、ニクラス・オーストレームだな?」


 ニクラスよりも大型な男が迫り、自然と後退ったニクラスが弱々しく答える。


「そうですが……貴方は」


「貴様の代わりに、此処を受け持つことになった。それ以上は貴様に言う必要はないし、これは国王陛下もご承知の命令だ。それが分かったら、さっさとこの場から立ち去り、我に中隊の指揮権を渡せ」


 奇しくも、ニクラスがシーリアに言った様に、一方的に言い下すものだった。


 けれど、反対出来るはずもない。

 ニクラスはそれを受け入れ、後ろで控えていた四人の兵士に囲まれる。


 直ぐに動き出したかと思えば、中隊のそばに居ればそれだけで悪い影響となるからか、背中を押されレベッカともども何処かへ歩かされていた。


「何で……こんな事に……」


 嘆いたとしても、もう遅い。

 壊れてしまったものは、完璧には元通りにはならない。


 それと同じでシーリアはもう――そばには居ないのだから。


 いま隣を歩いているレベッカだ。そんな彼女にニクラスは助けを求める事も出来ず、二人でただ何処に向かっているのかも分からないまま――先行きの見えない場所へ向かうのだった。




 最後まで読んでいただき、ありがとうございます。


 頑張ることは、とても素晴らしい事だと思います。

 それでも、場所が悪かったり・タイミングが違ったり、影響するものが沢山あると思います。それでもいつかは機会に巡り会えるかもしれません……!


 エアコンが壊れてしまった私も、暑さと戦いながら頑張って書いております。

 この時期でも、修理が早くなる事を願いながら……。


 去年も書きましたが、皆様――体調にはお気をつけて下さい。


 そして少しでも面白いと思っていただけたのなら下記の『☆☆☆☆☆』から評価やスタンプなどで反応をいただけますと、とても励みになります。


 エアコンが直るまで暑さと戦い。

 執筆を続けたいと思います。


 応援のほど、何卒よろしくお願いいたします。



 ――海月花夜――

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― 新着の感想 ―
是非、続きをお願いいたします。 面白かったです。 それから、エアコンの回復?を心よりお祈り申し上げます。
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