【幕間】碧(社長)の知らないところで~縁の下の力持ち~
ロボット鎮圧事件と、大浴場、五百万から千万。
これらの碧以外の視点のお話です。
銀行強盗捕縛し、温泉に碧とノウェムが出掛けている間、グラウンドでメフィストたち四体は悶々としていた。
「なぁ、ノウェムだけが入らないってないよな? 多分」
「お嬢は羞恥心捨てたと豪語したからな……家族風呂にでも入ってる可能性が」
メフィストの発言にガンツが自分の意見を述べる。
するとクラレンスが頭を抱えた。
「うわー! 止めてください! ノウェムさん! お嬢はそういうの免疫ないんですよ!」
「いや、アイツついてなかったじゃろ」
叫びだしクラレンスは今にも暴れ出しそうになった。
ガンツは呆れたようにため息をつくと、クラレンスの頭を拳骨で小突いた。
「痛いですよ!」
「当たり前じゃ」
ガンツの拳骨の痛みにクラレンスが「涙目」を浮かべる。
「ノウェムというお人じゃが、無体な事はしないじゃろ」
宗一がやって来て三体をたしなめる。
「でも、でも、心配なんだよ⁈」
「レティシア社長が言っておったぞ『ノウェムなら間違いはしない』とな」
メフィストたちを宥めるように、宗一は言った。
「モナルの社長ですか……」
「あの社長、若いのに見る目がある」
クラレンスが少し疑いの声を出す。
それを聞いて宗一は笑いながら言った。
「そうなんですか?」
クラレンスの問いに、宗一はにっと笑った。
「当たり前じゃよ、なんせ──」
「伝説のメカニックと呼ばれた儂の事を皆が忘れている中で、萌木夫妻とあの社長だけが儂をただ者じゃないと見破ったからの」
「「「「え」」」」
宗一の言葉に、メフィストたち四体の声がハモり、そして──
「「「「はあああああああ⁈」」」」
四体の絶叫が木霊した。
その後お説教をしようと構えていた四体だが、ほかほかぬくぬく満足顔で帰ってきてお土産を持ってきた碧を見てその気はなくなった。
そして土産を宗一たちは頂いた。
「あそこの饅頭は美味いの」
宗一は饅頭を頬張りながら緑茶を啜った。
「エネルギードリンクも美味しいですしね」
「確かに」
「そうだよね」
「うむ、美味い!」
四体もエネルギードリンクを飲みながら一息つく。
温泉帰りの碧の満足そうな顔を見ていると、さっきまでの心配が馬鹿らしく思えてきた。
ロボット暴走事件で、碧が突撃し、ノウェムが後を追っている最中、メフィストやクラレンスたち四体は、まだ暴走中のロボットの鎮圧をしていた。
「全く! うちのお嬢はどうして突撃系に育ったんだか!」
「儂じゃないぞ!」
「私でもありません!」
「僕でもないぞ!」
レイジングの言葉に、三体は否定の言葉を返した。
「今はノウェムの奴が側にいるけど、モナルの社長これ見越してつけたな絶対!」
レイジングは巨大な建造ロボットへ走って行く碧とノウェムを見て大声で言いながら、暴走ロボットを破壊しないように電気ショックで強制停止させていく。
「激しく同意です!」
「同感だよ!」
レイジングの言葉にクラレンスとメフィストが頷きながら、二人も暴走ロボットを鎮圧していく。
やがて現場に残る機体は数えるほどになった。
暴走ロボットを片付けながら、レイジングたちは巨大建造ロボットの方を見た。
どうやらあちらも片が付いたらしい。
「よっしゃ、これで仕舞いだ!」
バキィ!
最後の一体を無力化すると、レイジングは汗を拭うような仕草をした。
「全く、破壊しないのは疲れる」
「貴方破壊特化ですもんね、本来」
「ああ」
クラレンスの言葉にレイジングは返答する。
「さて、そろそろお嬢が帰って来る」
「説教ですね」
「ああ」
「だな」
「じゃな」
四体の「心」は一つだった。
その後、帰ってきた社長であり、大切なお嬢様でもある碧をこんこんと四体は説教した。
「碧ー! 何やっとるんじゃー!」
会社の休憩室でテレビを見ている宗一は声を上げて頭を抱える。
涼と順はめまいすら起こしていた。
「全く、あの馬鹿娘! 社長が無理してどうするんじゃ! 普通現場監督として後ろで一歩下がりつつやるもんじゃろ⁈」
宗一は声を荒げる。
「涼! 順! お前達はどう思う⁈」
宗一は振り返り、二人に尋ねる。
「……胃が痛い」
「めまいと頭痛と胃痛が同時に来ました」
その言葉に納得すると、宗一は再度テレビを見る。
「全く! 後で、碧の奴は説教じゃ!」
その後、宗一は帰ってきた碧にコンコンと説教をした。
社長としてなんたるかを言ったが、碧にはピンと来ていないようで、宗一は項垂れるしかなかった。
借金返済額の少なさに、凹みながらトイレに向かった碧をノウェムは見送った。
「……」
碧がいなくなった社長室、返せる額が五百万。
その額に少し違和感があったノウェムは書類を持って会議室に向かい、全員を招集した。
碧を除く、パトリの社員全員を。
「実際に買ってたエネルギーボトルは、コレよりも破格の安さだったと、差分は提出は?」
「やっべしてない」
ノウェムはメフィストたちを見る、どこかあきれたように。
「忘れてた……」
「ちゃんと提出しろ」
メフィストたちを叱り終えると、ノウェムは次々と書類を見直し、金額などを精査し続けた。
結果、今月返せる金額は一千万、二倍に跳ね上がった。
「取りあえず、この位か」
「ノウェムさん、アンタ事務仕事もできたんか?」
宗一が驚いたようにノウェムに声をかけた。
宗一は現場の碧の補助役と思っていたから、事務仕事などもできるとは思っていなかったのだ。
「……昔、モナルでもそういう仕事もしていました」
「そうか、なら今後も碧を、社長を宜しく頼みます」
少し躊躇いがちにノウェムは言った。
その言葉に宗一は帽子を脱いで頭を下げた。
「勿論です」
宗一の言葉に、ノウェムは静かに頷いた。
「多分社長の給料を見て驚くと思うな」
「そうそう、税抜き二十万が税込みで八十万までアップされてるんだから」
涼とメフィストがそう話合う。
「……君たちにとって碧とはどんな存在だね」
ノウェムが突如として質問をメフィストたちにした。
「「「「大事なお嬢様」」」」
クラレンスたち四体は声を揃えた。
「真面目で猪突猛進な妹」
「……羨ましいほど一途」
涼と順はそう言った。
「ほっとけない孫じゃな」
宗一は照れくさそうに笑っていた。
「……血のつながりだけが全てではないということか」
「血つながってるの俺と順だけですし」
その言葉を聞いて、ノウェムは宗一へ視線を向けた。
「そうか……では宗一さん、貴方は?」
「儂は腕を見込まれたメカニック、整備士じゃよ。子どもらとは……嫁が死んだとき縁を切られてしもうた」
少し寂しげに言う宗一に、ノウェムは頭を下げた。
「そうでしたか……すみません」
「いいんじゃよ! 儂は色々とやり過ぎた、嫁はそれでも愛してくれたが、子ども等はそうじゃなかったんじゃろ」
ノウェムの謝罪に、宗一は明るく返答した。
ノウェムにはどうしてそう明るく割り切れるのか理解できなかった。
「……」
ノウェムはしばし無言になる。
心の中に、今までに無い複雑な感情がある。
それは碧に向けられているものだ。
それを言うつもりはノウェムには無かった。
「ノウェムも、良ければ儂等と仲良くしてくだされ」
「……ええ」
宗一の言葉に、ノウェムは静かに返した。
不思議と嫌ではない感情、初めての感情に、ノウェムは色々な思考を巡らせたが、答えはでなかった。
──碧、私は君をどうしたいのだ?──
その答えを、ノウェムはまだ知らない。
碧がみんなに大切にされているけど、社長としての自覚がまだまだたりないのはしょうがないです。
つい最近まで碧は高校生だったんですから。
それでも、自分なりにあれこれ努力する姿をみんなは支えていきたいと思ってます。
ここまで読んでくださりありがとうございました。
次回も読んでくださるとうれしいです。
2026/05/28加筆修正しました。




