111.案外初心な涼~我慢できなかったノウェム~
美奈の家族のごたごたが終わり、ようやく一息つけたノウェムと碧。
ノウェムが美奈の父の気持ちも分からなくもないという発言に碧は色々と教える。
そしてゆっくりとノウェムと時間を過ごそうとすると碧のスマートフォンに涼から電話が届く。
涼の情けない声に碧は──
みっちゃんの騒動の後、ようやく部屋に戻った私たち。
「みっちゃんの家族って大変だなぁ」
「父君の気持ちも分からなくはないが……」
ああ、ドゥオと同じように思っているのね。
「ノウェムさん、気持ちは分かる。でも涼兄さんは女子同士のドロドロとしたやりとりを目の当たりにしてきたから二次元に逃げてたのよ、今もみっちゃん以外だと多分ドロドロだと思ってるわ」
「……趣味を止めるという選択は?」
「二次元の魅力に取りつかれた人に、趣味をやめさせるのはかなり大変よ。人によっては抜け殻状態になるわ。特に、趣味の品を配偶者や恋人に捨てられた場合はね」
「……なるほど」
「そこから関係が破綻して──」
「もういい、怖いことが良く分かった」
「ならいいの」
ドゥオが持ってきていた道具と、涼兄さんの本やゲームは別物だ。
ドゥオの道具には実害があった。
涼兄さんの趣味には実害はない。
あるとすれば、涼兄さんの性癖が妹の私にまでバレるくらいだ。
「ドゥオはどうしてるの?」
「一応、美奈にはセムを呼び出す装置を、涼にはドゥオを呼び出す装置を持たせてある」
「じゃあ、私が呼び出されることは──」
そこまで言ってスマートフォンが鳴った。
涼兄さんからだ。
「はい、もしもしぃ?」
不機嫌丸出しで出る。
せっかくノウェムさんといちゃいちゃしたいと思っていたのに。
『碧……助けてくれ……現実の女子と二人きりの空間には俺は耐えられない……』
「知るか! みっちゃんに頼んでセムさんを呼んでもらいなさい!」
『そ、そう、する……ドゥオは呼ばない』
そう言って通話は切れた。
「じゃあ、何しよっか」
「私は君といられるなら……」
「じゃあ、映画みよっか? 以前の映画だけど」
「ああ」
亡き父の趣味で作られたスクリーンに、映画が映し出される。
私とノウェムさんはそれを見ようとしていたが──
通信機が鳴り響いた。
ノウェムさんのだ。
「ノウェムだ、セム。何の用だ?」
涼兄さんに何かあった……?
「は? 美奈が涼の手を握った途端鼻血出して倒れた? どういう状況だソレは⁈」
こっちが聞きたい。
というか頭痛くなってきた。
「ノウェムさん、スピーカーモードにして」
「分かった」
ノウェムさんが通信機をスピーカーモードにした。
「セムさん、状況の流れを説明願います」
『流れとしては、私を含めた美奈様、涼様の三人で映画を見ることになりました』
「ふむ」
『ちょうど巨大モニターのある部屋が空いていましたので、そこで見ることにしたのですが、映画を見ている最中、美奈様が涼様の手を握り、「こんな風に一緒がいいですね」と言った途端、涼様の顔が真っ赤になり、鼻血を出して倒れました』
「何処のギャグ漫画だよ! いや、ラブコメか⁈ いや、この際どっちでもいいわ! そんなんだから涼兄さんは残念なイケメンなんだよ!」
思っていたことをぶちまける。
涼兄さんは顔は良い。
だが、中身はある意味でこじれた純情さを持っているのだと、改めて理解した。
それがこんな形で出るとは情けないったらありゃしない。
「涼兄さんは、適当に医療室のベッドに寝かせておいて!」
『えっと、美奈様が離れたがらないのですが……』
「みっちゃんには、少しだけ距離を取っておいてって言って! セムさんが面倒を見てて! ドゥオは呼ぶな!」
『は、はい……』
通信が切れる。
「涼兄さんの大馬鹿野郎!」
そう言って、ノウェムさんの膝の上に座る。
「ノウェムさん、映画全部見終わったら甘やかして」
「分かっているとも」
ノウェムさんは苦笑した。
1本目の映画がようやく終わった。
「キャラメルポップコーン食べる?」
「食べるとも」
そう言って食べさせあう。
「うん、これもいい甘みだ」
「でしょ?」
次の映画を見ようとした、その時──
また通信機が鳴った。
今度は私のものだ。
スピーカーモードにして応答する。
「はい、もしもし?」
『こちらウヌス、対処についてお伺いしたい』
「何の」
『ドゥオ』
何したアイツ。
「何したの?」
『ドゥオが鼻血を出して倒れた涼様をからかい、外で騒いでいたところ、宗一殿がお怒りになり、ガチガチに固まって鈍器と化した食料のような何かを投げました。ところが、ドゥオではなく涼様に当たり、涼様は額から血を流して転倒しました』
「宗一お爺ちゃん……ドゥオを狙って投げたのに、投げる方向を利用されて涼兄さんに当たったのか。いや、そういう問題じゃない。涼兄さんは?」
『医務室でセムの処置を受け、すぐに意識を取り戻しましたが、美奈嬢が駆け寄って両手を握り締めた途端、再び顔を真っ赤にして鼻血を出し、昏倒しました』
何やってんの。
「何やってんの」
思わず口に出た。
『あまりにも混沌を極める状況なのでどうしたら良いのかと……』
「うん、カオスだね」
戦地や戦略、政治の混沌には慣れているであろうウヌスさんも、こんな日常のカオスには頭を悩ませているのだろう。
「取りあえず、ドゥオは軽く締めておいて。人の恋路をからかう奴は馬に蹴られて死んじまえ、という言葉を聞いたことがあるので」
『スプラッターの刑は?』
「二度目にやったらやって」
『了解しました』
通信を終えて私はため息をつく。
「も~! 一々私に頼らないでよ!」
せっかくゆっくりしたかったのに。
そう考えていると、映画が止まり、スクリーンが真っ黒になった。
スクリーンが収納されると、ノウェムさんは部屋に厳重に鍵をかけ、通信機も離れた場所に置いた。
「ノウェムさん⁇」
「散々お預けを食らっていたのだ。私は君に触れたい」
そう言われて、顔が熱くなる。
ああ、もう。涼兄さんのことを言えないじゃない。
鼻血を出していないだけ、まだマシだけど!
ノウェムさんに服を脱がされ、二人の触れ合いが始まる。
唇を重ね、「愛してる」とささやき合う。
そして、お互いの温もりを確かめ合った。
こんなにも長く、ノウェムさんと二人きりで過ごせるなんて。
ああ──幸せだ。
引き続き、碧とノウェムの時間を邪魔されてしまうお話でもありました。
ドゥオは涼を弄るのは止めなかったようですね、そりゃ鼻血だして倒れるなんてギャグ早々ないですから。
ウヌスによってドゥオは締められますが。
ラストで、ノウェムが通信機をオフにして誰にも邪魔されないように二人の時間を満喫します。
というかノウェムと碧が触れ合います。
碧はそれを幸せと感じています。
次回は幕間、クラレンスたち視点のお話です。
ここまで読んでくださりありがとうございました!
感想有り難うございます!
次回も読んでくださるとうれしいです!




