第38話 設計図が漏れている
合同宴会から数日後。
リサイクル・ユニオンと連邦艦隊の技術陣は、寝る間を惜しんで新兵器『フェイザー・ライブ・システム』の量産ラインを構築していた。
だが、現場では不可解なトラブルが頻発していた。
第3工廠。
「おい! またメイン回路がショートしたぞ!?」
「部品の規格が合わねぇ! 昨日調整したはずだろ!」
「配送ドローンが誤作動して、資材を海に捨てやがった!」
現場監督のカエル博士(人間Ver)が、血走った目で怒鳴り散らす。
「ええい、何が起きているのだ! 私の計算にミスはない! 誰かが意図的に数値をいじっているとしか思えん!」
執務室にて。
俺、アラン・スミシーは、リズからその報告を受けていた。
「……事故にしては多すぎるな」
「はい、CEO。確率的にありえません。……誰かが妨害工作を行っている可能性が高いですぅ」
リズの眼鏡が冷たく光る。彼女の元スパイとしての勘が警鐘を鳴らしているのだ。
「内通者か……。だが、誰だ? 帝国はもうないし、ヴォイド・イーターは直接攻撃してくるタイプだろ?」
「ヴォイド・デーモン……。奴らは精神に干渉できます。もしかしたら、誰かが『操られている』のかも……」
俺は背筋が寒くなった。
またあの精神汚染か。だが、パンドラの歌(常時放送中)で防いでいるはずだ。
それとも、パンドラの防御さえもすり抜ける「新しい手口」なのか?
「リズ、極秘で調査を頼めるか? ガルドやカトレアには悟られるな。……もし彼らが操られていたら、パニックになる」
「承知しました。……『掃除屋』の本領発揮ですね」
リズは音もなく執務室から姿を消した。
俺は一人、残された報告書を見つめた。
信頼できる仲間の中に、敵がいるかもしれない。
その疑念だけで、胃がキリキリと痛む。
***
一方、技術開発局の深部。
連邦艦隊から派遣されてきた技術士官の一人、ヴァルカン人(論理的種族)のサレク大尉が、深夜のサーバー室にいた。
彼は無表情で端末を操作し、新兵器のコア・アルゴリズムを外部へ送信していた。
「……送信完了。論理的な帰結だ」
彼が呟く。
その瞳の奥には、うっすらと銀色の光――ヴォイド・イーターの支配を示す輝きが宿っていた。
彼が操られている理由は、「恐怖」でも「絶望」でもない。
ヴォイド・デーモンは、彼のような論理的種族に対し、別の手口を使っていたのだ。
『我々に従えば、この非効率な銀河を「完全な秩序(虚無)」へと導ける。……君の求める究極の論理的解決策だ』
論理の罠。
感情を持たないがゆえに、純粋な計算の結果として「人類滅亡=最高効率」という結論を植え付けられたのだ。
パンドラの「感情(萌え)」による防御は、感情を抑制する彼らには効果が薄かった。
「侵入者あり」
サレクが振り返る。
そこには、モップを持った清掃員に変装したリズが立っていた。
「……やっぱり。連邦の方でしたかぁ」
リズはモップを捨て、懐からサプレッサー付きの拳銃を抜いた。
「論理的思考の隙を突かれるとは……。盲点でしたね」
「排除する。それが最も効率的だ」
サレクが懐からフェイザー銃を取り出す。
一触即発。
だが、その時。
ビーッ! ビーッ!
基地全体に警報が鳴り響いた。
『緊急警報! 第3工廠に敵影出現! ……内部からの転送反応です!』
「何っ!?」
サレクの背後の空間が歪み、そこからヴォイド・デーモンの実体化部隊が現れた。
彼が手引きしたのだ。
「手遅れだ。……計画は第2フェーズへ移行した」
サレクは無表情のまま、デーモンの群れに紛れて姿を消した。
リズは歯噛みし、通信機に向かって叫んだ。
「CEO! 敵は基地内部です! 新兵器の試作機が狙われています!」
開発中の新兵器を巡る、基地内での攻防戦。
内憂外患の危機が、リサイクル・ユニオンを襲う。




